短編小説 プルトニウム
その日、暗雲立ち込める空にはヘリのプロペラ音がけたたましく鳴り響いていたのをよく覚えている。
当時まだ高校生だったわたしはとある路線のターミナル駅にいた。とても大きな駅で、様々な列車が車庫へと入っていくのが見えた。
なぜそんなところに居たのかは、いまはもう覚えていないが、ただ単に電車を見たかったのかもしれない。当時、わたしは電車通学していたので、降りるはずの駅で乗り過ごして、ターミナル駅まで来てしまったのかもしれない。
ともかく、わたしはその日確かにターミナル駅に居た。
そこでわたしは駅に訪れるいろいろな電車を見てまわっていた。
わたしは、それらの中でも特に奇妙な電車がホームに入ってきた事に気がついた。
その電車はとても古びていて、不可思議な事に、行き先案内の表示には、カタカナで「プルトニウム」と書かれている。
いったい、どこに行く電車なのだろうか。
電車がホームに止まると降りる乗客は一人も居なかった。
なんとなく、わたしは気になって、その車両に乗り込むことにした。
車内は荒廃しており、床には薄っすらと砂が積もっている。
車内を見回すとボロボロの服を着た人達が数人ほど床に座り込んでおり、席に座る人は少なく、どの車両もガラガラだった。
わたしは、とある少年の隣に腰を下ろした。
電車がゆっくりと動き出して、しばらくしてから、隣に座る小学校低学年くらいの少年がわたしに話しかけてきた。
「死ぬのは怖いか?」とその少年は言った。
わたしは少し驚いたが、相手は自分よりも子供である。年長者としてなんと答えるのが正しいか少し思案した。
そして、少し間を開けてから、得意げに、こう答えた。
「永久に死なないとしたら、その方が怖い」
少年はわたしの答えを見透かしたように、すぐに切り替えして言った。
「それは、自分を誤魔化している!」
わたしは驚いて少年の顔を凝視した。
その少年には見覚えがあった。
いや、見間違えるはずもなかった。
その少年はわたし自身だった。
この電車は、わたしの罪であり、この電車の目的地は贖罪の地、つまり、人生の終点にほかならない。
終点まで、あとどのくらい時間があるのだろうか。
そう考えながら、窓の外の空を見上げると、無数のヘリが飛んでいるのが見えた。
それらのヘリは、わたしの人生が終わるときを、まるで嘲笑うかのように見に来た野次馬に違いないと思った。
「鬱陶しいな」とわたしは、吐き捨てるように呟いた。
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