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大神少女 001

目次

 6月6日6時6分6秒。わたしは死ぬ。死亡時刻は遺書に書いている。時計で正確に時間を計って、首吊自殺を実行すると。

 深い森の中で計画的に死ぬのだと……。

 森の空気はどこまでも澄んでいて、これ以上にやすらかな死をもたらしてくれる場所はないだろうと確信できるものだった。多数の場所を比較検討した訳ではないが、直感的にその場所だと思ったのだ。

 どこかで狼の遠吠えが聞こえたような気がした。

 日本に狼は居ない。動物園から逃げ出したのだろうか。犬のものではない。海外に行ったときに狼の遠吠えを一度聞いたことがあった。間違いなく狼だと思った。しかし、かすかに残った理性がその考えを否定した。おそらく、いつもの幻聴だろう。
 わたしの自殺が成功し、発見されたときには、死体は腐って死亡時刻はわからないかもしれない。なので、死亡時刻を遺書に明記したのだ。

 自殺を計画しているときは、本当に充実していた。というように述懐しているが、もちろん、この遺書の文章は自殺前のものである。1秒のずれもなく死ねているだろうか。それを知る手段はわたしにはない。それだけが非常に残念だ。計画している死亡時刻は、ヨハネの黙示録にある獣の数字にちなんだものだ。2つほど6が多いが、まあそこはなんとなく6で揃えただけだ。

 わたしの死後に、悲しむ人よりも、数字の謎に興味をもって話題にする人が増えてくれれば幸いだ。わたしは人に悲しんでもらう資格などない人間だからだ。特に意味はないので、誰にもこの謎は解けないだろう。そう考えるとなぜか少し楽しくなった。

 それから、最後に告白というか、まあ、これはネットに多数書かれている通りで噂でしかないし、証拠もないとされているが、わたしは真相をしっている。だから、わたしが言うべきことだと思うので、ちゃんと言う。というか書き記す。

 【先生を殺したのはわたしです】

 遺書を書き終えたあと、わたしはスタジオを出て、森を目指した。そして、6月6日6時6分6秒に死んだ。

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 7月7日7時7分7秒。8秒、9秒、10秒……。わたしはスタジオの仮眠用布団の中でデジタル式の時計を見ていた。わたしは深い森のなかで死んだはずだ。死の直前の記憶はあったし、それ以後の記憶は間違いなくない。

 わたしは、はっと気がついて作業机においたはずの遺書を探した。遺書は無かった。そこには書きかけの漫画原稿だけがあった。

 その原稿を書いたのは遺書を書く前日の6月5日だったはずだ。

 どこかで狼の遠吠えが聞こえた。

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