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「どぅーてーさーにうびりよー」

 ご縁がご縁を運んできて、光り輝くような言葉を聴く機会をいただきました。
 重要無形文化財「琉球舞踊立方」(各個認定)保持者=人間国宝、琉球舞踊真踊流の宮城幸子さんが語ってくださったお話です。

 もういまは亡き師ですけどね、家元の真境名佳子(まじきなよしこ)先生がいつもおっしゃるんです。琉球舞踊は理屈ではないよーって。沖縄の方言で「どぅーてーさーにうびりよー」っていうことを。「どぅーてー」は身体。身体で体得しなさい、自分の身体で線をきちっと一本もって、歌にのせて表現できればとおっしゃっていました。一生懸命これまでやってきましたけど、今でも不安です。少しでも次の世代に伝えていけるような踊りができればと、まだまだ努力しています。舞台に立つときはいつも緊張、緊張。まだまだ緊張です。

 18歳から踊りを始めました。私なんかは遅い方ですよ。でも年季は長いので。コツコツコツコツと、続けてます。みなさんが見てくださっていいような表現ができればねーと思って頑張っております。

 琉球舞踊の古典の「歩み」。あの橋掛かり(能舞台の舞台へ続く廊下のこと)の長さは「歩み」がすごく長くなりますね。沖縄ではこんなに長くないんですよ。橋掛かりをずーっと歩いてきて、舞台に立つんですよね。この歳になると、歩ききるのに若いときより不安を感じます。「歩みに始まり歩みに終わる」っていうのは、うちの家元のお言葉です。ですからずっと「歩み」をやるんですよ。今日も早めに来て、最初に「歩み」をやって、それから化粧して、舞台に立ちました。そうじゃないと安定できない。姿勢をちゃんと固定して、頭のてっぺんからお尻、全身で踊る。ほんとに「歩み」に始まりずーっと、朝から晩まで「歩み」だけの稽古をする時もあったんです。「歩み」と姿勢。舞踊に対する姿勢ですよね。くにゃくにゃじゃなくて。きちっと、おへその下に力を入れて、腰を落として、歩む。ですからもう「琉球舞踊は歩みに始まり歩みに終わる」って言葉がいつも抜けないです。

「歩みに始まり歩みに終わる」っていうのは、いまの学生にもずっと伝えています。理屈ではないよーって。沖縄の踊りは理屈ではないよ、「どぅーてーさーにうびりよー」って。どぅーてー、身体で体得しなさいよ。身体をしっかりして表現しなさいよっていうことを忘れないですね。

 もっと踊りたい。

 何回かこちらの舞台で、家元の元気なころに踊ってますけど、ほんとにいいですね。静かでしーんとしていて、雰囲気が伝わってくる。踊り手が伝えないといけないのに、座ってるお客さんから、伝わってくるっていう感じ。若い時はそうでもないけど、歳とともにだんだん、感じてくる。みなさんが一生懸命見てらっしゃる姿、すごく感動する。だから、踊ってる人が感動させるんじゃなくて、踊ってる人も、また。ご覧になってるみなさんへの感謝を、歳とともに感じるようになってます。涙が出そうです。みなさんがそういうふうに感じてくださることを、とっても感激します。ほんとにもうありがとうございます。感謝感謝です。

 ご縁が運んできてくれた機会


 なんとなく海を見て暮らしたいと思い、向こう見ずで熱海に移り住んで一年半。ライターの仕事をいただいたのもご縁からでしたが、出会うはずもなかったような方々に出会い続けています。ひとつひとつの出会いが身に余るような幸運です。思えばずっと昔から、ご縁がご縁を繋いでいるような気がします。
 仕事で記事を書くために取材させていただいたインタビューでしたが、終わったものとして私のなかでしまっておくにはあまりに大きすぎるものをいただいたので、ここに書くことにしました。

 琉球舞踊公演のために熱海にいらっしゃった宮城幸子さん。18歳から踊りの世界に入り、90歳を迎えられた宮城さんの声はゆっくりと重く、優しいけれど中心に芯を据えたような声でした。

 何度も何度も繰り返しおっしゃっていた「どぅーてーさーにうびりよー」という沖縄の言葉。「どぅーてー」は「身体」。「うびり」は「覚える」。「身体で覚えるんですよ」という意味だそうです。
 そしてもうひとつ繰り返されていた「歩みに始まり歩みに終わる」という宮城さんのお師匠の言葉。

 座ってお話しされている宮城さんの姿にも一本の線が通っているように見えました。体を使ってひとつひとつ「時」を置いていくような言葉の力強さに圧倒されました。まさに一歩一歩と歩むような。
 宮城さんから聞いた言葉をただ置くだけでそれは伝わるのではないかと思い、まず冒頭に宮城さんからお聞きした言葉をほぼそのまま書かせていただきました。

 それは強く鋭い光に照らされたような体験でした。何十年も自分の「歩み」を見つめつづける方に触れたことで、そこからの自身の日常が少し強くなるような。
 そしてそれを誰かに読んでもらうことで、誰かの一歩が少しでも強く踏みしめられるようになればと思いました。

 珠玉の言葉の数々をいただけたことに感謝しかなかったのに、宮城さんから最後にいただいた言葉は「感謝」でした。
 昨日より今日。今日より明日。何よりも強いのに感謝で涙される宮城さんの優しさに触れ、言葉にならない想いを抱いた一日となりました。 

 最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

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