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約束をした後
スケジュールを入れようとして
あ…と、指が止まった。

約束の日、待ち合わせへと向かうには
18年前
逢いたいと誘われていたのに
行きたいライブがあるから、と断り
行かなかった場所を通過する。

いつものように目を閉じて
ほんの一瞬を通り過ぎてしまえば
大丈夫だとは思うが
すこしだけ、こわい。
失敗や挫折は、貴重な経験だと
ポジティブに変換するので
滅多なことで後悔を引きずらないが
人生の中で、唯一
逢いに行かなかったことを
ずっと後悔し続けているから。

10月末に友人の訃報を受け
11月初めに弔問に向かう折に
久しぶりに、その場所を通過したが
動揺の中にいたこともあり
記憶を手繰り寄せる余裕はなく
無意識に習慣になってしまっていた
一駅分、目を閉じて過ごすという
いつものアナログな方法でやり過ごせた。

約束の前日
「いちばんたいせつなものは何?」と聞かれ
「ない」と即答しそうになった。
厳密に言えば、なくはないのだが
2005年12月3日に
何よりも、誰よりもたいせつなひとが
劇症肝炎で急逝し
一緒に過ごしていた時間は止まり
ふたりの未来は閉ざされた。
たいせつなひとが、ずっとたいせつなままなのは
未来永劫、変わることはない。
でも、たいせつなひとを
ずっと想い続けている自分は
増えることがない思い出に
未練がましくしがみついているような
自分の弱さだとも思っていて
口には出来なかった。

約束の日。
前日まで、動悸で気分が悪くなるほど
緊張をしていたのに
朝が早かったこともあり
電車内の暖房に誘われ、深く眠りこんでしまって
線路沿いのたいせつなひとが住んでいた家を
通り過ぎたことすら気付かずにいた。

待ち合わせの場所に着き、挨拶もそこそこに
どこに向かうのかわからないまま
走り出した車の中から
冬支度を始めた街並みを眺めていると
わくわくして心が躍る。
大好きな富士山が見えて
薄らと雪化粧をした気高いその姿が麗しく
胸がいっぱいになった。

譫語のように願い続けていた
大好きな、大好きな海が見えると
嬉しさと愛おしさで、泣きそうになった。
3年前に三重県へ釣りに行ったものの
夜釣りだったので、真っ暗な海しか見ておらず
太陽が反射して輝く海を眺め、海風を感じたのは
何年ぶりだろうか…。
海沿いを走るお気に入りの道を通ったのは
おそらく8年ぶりだ。
夢見るほどに願っていた場所へ
さらりと連れて行ってくれる優しさに
心から感動し、感謝と多幸感に満たされた。

数日前に 「こんな感じ、素敵じゃない?」と
何気なく話した物を、すぐに作ってみて
出来上がった物をプレゼントしていただいた。

created by K


世界にひとつの虹色の花。
溶接の熱でついた焼け色が
言葉にできないほどに美しく咲いている。
同じ人が、同じように溶接をしたとしても
同じヒートグラデーションは絶対に出ない。
世界にひとつしかない枯れない花は
どんな貴金属よりも、花束よりも
スペシャルなギフトで
嬉しくてたまらなかった。

このnoteに綴った十代の頃からのささやかな夢も
実は、叶っているのだが
さらに、自分が描いていた夢よりも
もっともっと嬉しいかたちで叶えていただいた。

帰りの電車の中
嬉しくて、嬉しくて
ずっとナットのお花を
握りしめたり、眺めたり
ピアスに触れていたら
いつもは横浜〜川崎間を
ぎゅっと目を閉じているのに
それすらも忘れていた。

12月3日は
一年でいちばん孤独を感じ
17年間、哀しくて、寂しくて
やりきれない気持ちで過ごしてきた。
狂ったように泣き続けていた年もあった。
ラムネのように薬をかじり続けた年もあった。
始発から終電まで仕事を詰め込んだ年もあった。
泣かないで過ごせるようになったのは
本当にここ数年で
それでも、何をする気力もなく
一日中、空を眺めて過ごしたり
夢でなら逢えるのではないかと
一日中、眠り続けたりしていた。

18年目にして、初めて12月3日を
とてもしあわせな気持ちで、笑って過ごせた。
ただただ哀しいだけの日を
この上なくしあわせでたいせつな日に
上書きすることができた。

2023年12月3日のことは、たいせつな宝物。
もし、また「いちばんたいせつなものは何?」と
聞かれることがあったら
迷いなく「宝物があること」と答えられる。

傍に居てくれて、ありがとう。

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