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2022年5月に読んだ本

『地方創生大全』 木下斉著

木下さんの地域に対する考え方は一貫していて、しかも真っ直ぐにその意見を発信するので読んでいて気持ちがいいです。Voicyも同じで、聞いていてスカッとします。補助金頼りで自分たちで稼ぐ仕組みを全く作れていないから地方は変わることができないんだと、どの本を読んでも出てきます。簡単なことのように思えるけど、その趣旨の本が何冊も出ていて、その話が今も多くの人に聞かれている現状を考えると、それを地域の中で実践するのがかなり難しいということなんでしょう。問題ははっきりしているのに変わらないのは、現状の方が利益を得やすい人もいるんでしょうし、なかなかやっかいです。

それにしても木下さんはなんで地方のことをこんなにもずっと追いかけているんだろうと不思議に思うこともあります。かなりキレる人だと思うのでどの世界でも活躍できるんでしょうが、その方が地方を選んでいるのはよほどのおもしろさを感じていて、加えて木下さんなりの稼ぎやすさもあったりするのかなと。おもしろさの方が圧倒的に強いんでしょうけどね。


『他者の靴を履く』 ブレイディみかこ著

実際に体験したことについて書かれている箇所は読みやすく、引用を多く用いている箇所は少しくどく感じます。でもタイトルの「他者の靴を履く」「To put yourself in someone's shoes」は文字通り大事な考えで、学んで整理しておいた方がいいと思います。

エンパシーは能力で、身につけるもの
シンパシーは感情で、内側から湧いてくるもの

大切だとされるエンパシーは自然に身につくものではないと知ることがまずは大事。

他者の靴を履くどころか、他者に自分の靴を履かせるものにもなりかねない

そうなってはいけないんだけど、

他者の靴を履いて、自分の靴を見失ってしまったら元も子もない

こうなる恐れがあることを知っておく必要もある。

おもしろいプログラムも紹介されています。

このプログラムでは、教室の真ん中に緑色のブランケットを敷き、その上に赤ん坊を乗せ、子どもたちはブランケットの周囲に座る。そしてインストラクターは、赤ん坊に玩具を与えて遊ばせたりしながら、子どもたちに質問する。「赤ん坊はイライラしています。玩具に手が届かないからです。あなたはどんなときにイライラしたり、怒ったりしますか?」という風に。すると子どもたちは自分が怒りを感じたときのことを思い出し、言葉を喋れない赤ん坊が経験しているだろう感情を想像するのだが、学校生活の中で、このようなことを考え、級友どうしで話し合う時間が他に与えられているだろうか?

こうやって環境を作り、時間をかけて「他者の靴を履く」能力を身につけていくことが大事だということに、社会の目が向いていくことが必要なんでしょう。


『プリズン・サークル』 坂上香著

浜田市に刑務所があることはもちろん知っていて、敷地内に認定こども園があり、そこの園長と最近電話で話をしたところだったのでそうった周辺情報は持っていたけど、刑務所自体のことはほとんど知りませんでした。

映画のテーマでもあるTC(Therapeutic Community=回復共同体)が日本で唯一導入されていることとか、そのTCが受刑者のどんな変化を生み出しているかとか、とっても興味深い話ばかりでした。

受刑者の多くがとてもしんどい環境で育っていること、そのことによって一般的な罪の認識と明らかに違う認識でいること、だからといって犯した罪が許されるわけではないこと、そんなことから来る苦しみをTCの中で語られていく様子が本に書かれていて、それが描かれている映画をますます見たくなりました。

この本の存在を知り、読むことで日本にもTCという素晴らしい取り組みがあることを知れたわけですが、だからといって旭町の刑務所に課題がないわけではなく、日本の他の刑務所と同様に受刑者に対する人権問題が存在していることも書かれていて、読んでいて非常に複雑な思いになります。

とにかく島根県に住んでいる者として、「島根あさひ社会復帰促進センター」で何が行われていて、どんな人がどんな思いで生活しているかを知ることもできたのはとてもよかったです。日本で唯一導入されているTCの意味を、島根県の人は特に知っておいた方がいいかもしれません。


『マイクロスパイ・アンサンブル』 伊坂幸太郎著

毎年開かれる猪苗代湖のイベントに合わせて書かれていた短編小説をまとめたものがこの本だと、あとがきを読んで知りました。1年ずつ展開していく話は珍しいと思いながら読んでいたんですが、私の場合は先に知っておいて読んだほうが内容の整理がしやすかったかもしれません。

いつものようなハラハラ感ではなく、読んでいてじんわりと温かくなる感じがよかったです。猪苗代湖の美しさを直接的に描いている箇所は少ないですが、話の全体を通して素晴らしく魅力的な場所だということが伝わってきます。伊坂さんが島根県を題材にした小説を書くとしたらどこをどんな風に描かれるのか、そんなことを想像してしまいました。島根はないでしょうけどね。


『好きなものを売って10年続く店をつくる』 碓井美樹著

登場するお店はどれも初めて聞くものばかりで、こんなお店があるのか、こんな人がいるのかと、とても新鮮な気持ちで読みました。自分のお店を持つための行動力もすごいですが、その商売を継続するためにスタート時は何に気をつけているか、スタートしてからは何に取りくんでいるかについて、結構細かく書かれていて参考になることが多かったです。

どの人にも共通しているのは、こだわりを持ち続ける、ニッチなところを極める、単純なことを淡々とやり続けることができる、そんなところでしょうか。これらがとてもいいヒントになりました。

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