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怪談ともつかぬこと 初めて見たもの

ずっと昔、子供の頃のこと。
まだ妹が生まれる前だから、2歳か3歳の夏の夜。
当時の自宅2階の部屋、布団で1人寝ていた。


夏とはいっても今より酷暑でもなく、網戸にしてカーテンを引いておけば
普通に眠れた頃である。
ふと目が覚めて窓の外を見ると、白い布のようなものがふわふわ浮いてた。
シーツを被ったお化けの仮装のような姿。
(👻この絵文字の目鼻が無いのを想像してください)
子供だったから特に怖いとも思わず、夜空にふわふわと浮く姿を眺めていた。
ふわふわと、布のように裾がひらひらとしていたのを覚えている。
そのまま寝落ちしていれば、ただの夢で終わったはずだった。
気付かれた と思った。
よくわからない空飛ぶ白い布がこちらに気付いたような気がした。
こちらの方・・・といっても目鼻のようなものは何もないが、
こちらを向いた気がしたのだ。
布がゆっくりとこっちに近寄ってくる。
網戸に阻まれることなく、部屋の中に入ってきた布は、天井すれすれの
ところでふわふわと浮いていた。
その状況でも、怖いというより、不思議だな〜〜何だろうと
思いながら、言葉もなくぼーっと見つめていた。
と、突然

「寝なさい」 

布から声がした。声音は覚えている。低い女性の声。
当然だが母の声ではないし、親類の女性、ナニーや
保育士さんといった当時身近にいた女性達の声でもない。
穏やかではあるが突き放したような、低い女性の声。
優しい声ではない。硬質というか無機質な声だった。

「寝なさい、ねむりなさい、寝ていなさい」

女性の声が眠れと何度も繰り返す。
とはいえ、怖いとは思えずぼーっと呆けたように見つめていた気がする。
すると突然、白い布が中をぐるぐる回り出した。
天井をぐるぐると回りながら、布団に横たわる私の上を飛んでいく。

「寝なさい 寝なさい」

声がどんどん怒りを帯びているような気がして、見るのをやめて目を閉じた。
すると声がどんどん遠のいていく。
声がしなくなって、恐る恐る目を開けると、布のお化けはいなくなっていた。
窓の外を見てもいない。あれはどこに行ってしまったのだろう。
ああどこかへ行ってしまった。
寂しいような、ほっとしたような。
そうして、改めて眠ろうと目を閉じた。

もしかしたら、あれが恐ろしいものかもしれないと気付いたのは、
3歳を過ぎてから。妹が産まれ、私はナニーの家に預けられることが多くなった。
そのナニーには娘がいて、私より15歳上でお姉ちゃんお姉ちゃんとよく懐いて
遊んでもらっていた。(ちなみに今でも大好きなお姉ちゃんで交流がある)
そのお姉ちゃんは、楳図かずおや古賀新一といった怪奇漫画愛好家。
そして怪奇スペシャルや、あなたの知らない世界を大層好んで視聴していて
よく一緒に視聴していた。キャーキャー言いながら再現映像を見ていたのだが
ある時で出てきた映像に白い着物を着た女性の幽霊・・・
ひょっとして私があの時見たのは、お化けだったのかもしれない。
でも不思議と怖くは無かったし、なんの障りもなかった。

40年近く経過したが、今でのあの「寝なさい」といった女性の声は覚えている。
怖い思い出ではないが、初めて経験した怪異との遭遇だった。

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