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怪談ともつかぬこと  髪の毛の感触

お化けからみで、あまり怖い思いをしたことはないが、これはちょっとだけ
ギョッとしたお話です。

20歳そこそこの頃。
部屋で普通に寝ていた夜、ふと重苦しい感触を胸に感じて意識が浮上した。
胸の間が何やら重い。何かが乗っかっているように。
息苦しかったり、しんどかったりすることはないが、何となく
生きている人間じゃない気がした。
物理的な重さや温もりを全く感じない、だけど重い感じ。
でも万が一、生きている人間だったら、それはそれで恐怖だ。
私は薄目を開けると、夜目に見慣れた自室の天井と、そして
黒い靄のようなシルエットを確認した。
黒い霧というか、靄というかうっすらぼんやりとしたシルエット。
ぼんやりとした中で、肩と思しき部分の丸みや、目に入る
シルエットから、何となく女性だと思った。
それが私の胸の間にあった。ほんの少し怖いが、とりあえず強盗の
類ではない。
(生きている人間がいた方がよほど怖い)

乗っかっているだけなら大した害はない。
このまま寝てしまおうと。目を閉じた。

さわさわと。顔の横に髪の毛の感触があった。
これは覗き込まれているんだろうか。
今目を開けたら、顔見ちゃうのかな・・
そしたら怖いかな・・・
サラサラと、さわさわと。頬にくすすぐったい感触。
ああやっぱりこれ、女の人だ。
髪の毛の感触が、何となくくすぐったいが、それ以上
何かされるわけでもない。
のうち、重苦しさも、髪の感触もどんどん薄くなっていき
併せて、自分も睡魔に勝てずに眠りに落ちた。

(多分)艶やかな黒髪を垂らした、(多分)嫋やかな女性が
のしかかる・・・
何となく淫靡な情景だな・・・
と不埒なことを考えてしまったのはずいぶん後の事である。

ただそそれだけの話である。


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