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昭和精吾事務所「氾濫原4」 ①:黒蜥蜴、そして『星の王子さま』序章

「さて、ひとつ賭けをしませんか」
 大胆な賭けに満ち満ちた言葉の、つばぜり合いがうっとりするような火花を終始にわたって照らし合う。長田大史さんと、こもだまりさんの言葉対ことばの、磨き抜かれた分厚さが、時にはシルエットになって「剝製立ち」を晒す。
 最も美しく、不敵な火花がエジプトの一番星になり、名探偵と女賊の愛憎が歩き回り、走り回る、エジプト万華鏡の影絵を奔流させる。
音楽を奏でる、永井幽蘭さんの頭上には、ロココ様式風の鬘の髪しぶきを疾走する、黒い帆船が。
 帆船のなかには部屋の数々が詰まっているに違いない。黒蜥蜴の宝石蒐集の部屋、剝製蒐集の部屋、女賊の裏切り者を処断する部屋、歓喜の部屋、告白の部屋・・・
 音楽が、濃密な室内空間劇を喚起させる!一番染みたのが、『夜のほとり』だったなあ。『死の‥』も良かった、凄く良かったんだけど、『次に会うときには別人の顔で』が繰り広げる、砂金の砂時計の逆さ落ちの切なさには今回も胸が締め付けられた。

 黒蜥蜴が、帆船もろとも、砂時計の沙漠に呑み込まれる。



 言葉の表面のぶ厚さを解き放ち消えていくのと、入れ替わりに、ステージは、ひとりの飛行士が降り立つ・・・室内劇に、「野外劇のことば」が侵入し、視界がぐっと、拡がっていく。言葉が、アフリカの星の照る、沙漠の地平線に囲まれる。
 賭けもなく虚栄もなく、潔く孤立したことばが、聴くものを、澄んだ井戸水の底へと降下させる。

続く

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