見出し画像

If you are…#26 Adorable(外垣秋)

前略、同い年だと思っていたクラスメイト兼恋人が成人済みでした。

とりあえず私はその現実から逃げようとアキ用のミルクを拵えた。が、それもすぐに終わってしまい、1缶のビールを飲み終えた秋くんを眺めるほかなかった。彼は顔を赤くして目も虚ろ、だがそれがかえって色っぽいのである。

そうしてある種新しい彼を鑑賞していたが、彼の瞬きの速度にリタルダンドがかかっていった。呑んだことがないので私にはたんと検討もつかないが、アルコールの消化能力はそこまでないことは素人目でもわかった。ただ、それでそのまま寝落ちすることはなく、彼は椅子から崩れ落ちる形で床の上に座っていた私に抱きついてきた。

「どうして今まで言ってこなかったの?」と私は彼に聞いた。

「俺だってどっかで言おうとは思ったけどさー…まさか付き合う流れになると思わないじゃーん。『未成年淫行だー』とか言って離れられるのも嫌だしー。」

氷のようにクールな彼が今日は違う。語尾は伸び、ずっと私の肩に顔を埋めている。シラフの彼からは到底考えられない。

「そんなこと気にしないって。少なくとも私だったら。」

「ホントにー?」と彼は頭を上げたので目が合った。その目は虚ろというか…なんというか、霞がかかってうるんでいた。

「可愛いしー、いい子だしー、いい大人な俺でもちゃんと相手してくれる智子がいなくなったらー…俺、多分死んじゃうー…」

彼はそれを言ったきり再度私を抱きしめたまま動かなくなってしまった。別に寝ている様子はないのだが、アルコールのせいで熱くなってしまった彼の体がずっとくっついていると、クーラーの効いたこの部屋でも暑い。だから「どいて。」と定期的に言うのだが「やだやだ。」と言ってずっとそのままなのだ。

何度目か、「どいて。」と言ったのに返事すらせず、平和な寝息が耳元で聞こえる。さらにはアキがすり寄ってきて余計に暑い。─ただ、これ以上に幸せで暑い夏を私はまだ知らない。

そのまま寝落ちしていたようで、気づいたら朝だった。秋くんもアキもまだ寝たままだったのでこのまま30分ほどは動けなかったが、秋くんの「うわあ!」という寝起き一番の声でアキも起きてしまった。

「…俺、変なこと言ってなかった?」と聞かれたので「変なことは言ってないよ。」とだけ返した。嘘ではない。でも彼は二日酔いでまだ立てる状態じゃないというのに立ち上がろうとしたのでそれを制止し、「まだこのまま。」と言った。

「ったく、甘えん坊。」と彼は言ったが、それは一体どちらなのだか。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?