2023/9/16 M君との再会

【このお話の前はこちら

M君のTwitterを毎日見ていたけれど、私は彼をフォローはしなかった。

鍵付きのアカウントだし、自分は何もtweetしたことはないし、
アカウントもユーザー名も、私とわかるような要素は無かったけれど、
私がフォローしている人をもし見たら、もしかして?と思われてしまう可能性もあるかもしれないと思ったからだ。

LINEをブロックされて1ヶ月以上経ち、
その間にひょっこり
『お久しぶりです』なんて言ってこないかと思っていたが、
全くそんなことは無かった。

M君は私を思い出してくれることはないのかな……
あんなに『もう会えなくなるの淋しいです』って何回も言ってくれたのに……
あんなに毎日1日中、やりとりをしていたのに……

とはいえ、私がこんなに毎日M君のことを思ってしまうのは、
もしかしてあちらからの念が飛んできているのではないかと思うこともあった。
異常なほどに、1日中M君のことが頭から離れない。
源氏物語の六条御息所みたいに、
M君の生霊が私に取り憑いていたりして…

そして、漢検を勉強している私は、
『纏綿(てんめん)』という熟語がいつも頭に浮かぶ。
綿のように纏わりつく感情。。。

M君のtweetは、お天気の話題が多い。
とにかく晴れていることが好きみたい。
「ほんとに、今日は良いお天気だね」
と、心で思う。

自分がよく行く山が綺麗に見えると、
『○○山が美しい』と、写真を添えて呟く。
だから、ほぼ同じ写真や同じtweetが多かった。
フォロワーの方々も
「またかよ」って、思わないものなのかしら?

Twitterを自分はしてないからわからないけど、同じtweetを続けてしていることもある。
内容も、写真も同じ。
「今tweetしたこと忘れた?」と、言いたくなってしまう。
何かTwitterの手法なのかな…?

あとは、毎日のように、ニュースの天気予報の画面を写しては載せている。
日の出が何時だの日の入りが何時だの、
何分早くなっただの言っている。

よく行くラーメン屋さんでも、
写真も毎回同じパターン。
文章も、1字違わず同じだった。
彼のTwitterで、そのラーメン屋を検索したら、全く同じ写真と文章が何百と出てきそう……
こういうところも、彼がアスペルガー症候群ではないかと私が思ってしまうところだ。

毎日毎日何年も、テレビの画面を撮っては載せているからか、
画面を撮影する瞬間のタイミングが、とても良い。

サッカーや野球の試合などの写真を載せてコメントすると、
ときどき何万人もそれを見ていたり、何十人もリツイートしていたりする。

顔は隠してあるけど、よくお母さんの写真も載せている。
イベントも、LIVEも、サッカーの試合も、外食するときも。
『今日も母と一緒です』
と。
自分は彼女も友達もいないマザコンだと、世の中に知らせているみたい。

お母さんの手料理もよく載せてある。
『今日は母の手作りのカレーをいただきます』とか、よく言っている。
カレーはたいがい手作りだと思うけど…
母のカレーが大好きみたいだ。

毎日見ていると、いつまで経っても忘れられないから、
『もう見るのをやめよう』とも思うのだけど、
『今日だけ。ちょっとだけ。。。』
と、どうしても見ることをやめられない。
麻薬のようだ。
なんにも楽しいtweetなんかないのに。


そして、9月16日。
その日は土曜日で、アプリで会った7人目の男性が前日家に泊まって帰って行った日だった。
   【気になりましたらこちらへ】

私は、この人とはお付き合いは出来ないと確信して、それをいつ言おう?どう言おう?と一晩中考えてしまい、一睡も出来なかった。
一睡も出来ないまま、仕事に行った。
派遣の仕事で、初めて行く飲食店だった。
とても混み合っているお店で、ずっと動き回らなければならなかった。
体はダルいし頭が回らないけれど、
飲食店でやることは、どこもだいたい同じなので、頭を使わなくてもなんとか動ける。
愛想がない人だなと思っていたパートの人に、帰る頃には
「前からいる人みたい。こんなに動ける派遣さんは初めて」と言ってもらえ、
その他の方にも
「絶対にまた来て下さいね!」と、笑顔で手を振って見送られた。

本当は仕事が終わったら、まっすぐ家に帰って、すぐに眠りたかったけれど、
実家に寄る約束を、母としていた。

数日前に、ガラケーからスマホにした母が、使い方がわからないから教えて欲しいと言ってきたので、寄る約束をしていたのだ。

私だって、機種変しただけで使い方がわからなくなるんだから、ガラケーからスマホは確かに大変だろう。
ガラケーも使いこなせていなかったくらいだし。
あまり友達もいないし、携帯もほとんど使わない人とはいえ…

実家に行って、
これが、とか、あれが、というのを聞き、私も詳しくはないけれど、わかる範囲のことは教えてあげた。

あとからやってみてくれればいいのに、
どれどれと、その場で操作し始める母……
「眠いから早く帰りたいのになぁ」
と思いながら、
つい癖になった隙間時間の過ごし方、
M君のTwitterをのぞく。

すると、眠気も一変に覚めた!

私の住んでいる市に来ている!

なぜか、電車で来たようだ。
駅で『○○駅とっても混んでる』
などと数時間前に言っている。

以前にも、わざわざこの駅の中にあるCDショップまで、お気に入りのアーティストのDVDを受け取りに来たとtweetしていたことがあった。
片道約2時間かかるのに、なぜわざわざその店に予約をしたのか?
ついでがあったようなtweetではなかった。
こだわりが多い人だから、なぜなのかはさっぱりわからない。

また何か予約したものでも受け取りにきたのかな?でも、なぜ電車?

一体どこに何をしに来たのだろう?

心臓がドキドキし始めた。
すると、tweetが更新され

『路線バスに乗るの10年振りくらい』

などと言っている。
もう、17時を過ぎていた。

今から路線バスで、どこに向かうというのだろう?
どこ行きのバス?

見続けていると、私の家からけっこう近い場所で撮られた写真が、載せられた。
バスは降りたようだ。

そして、今までにも何回も見た
『○○に来ました』
という、お気に入りのラーメン屋で撮った写真があげられた。
私の家から、車で5分程度のところだ!

今、確実にここにいる……
今、ここに行けば、会える!

私も偶然を装ってラーメンを食べに行こうか?
でも、店内は広いけれどカウンターのみのお店だ。
人気のお店だから、食券を買ってから、立って待っている人がいることもある。
待っている間に帰られてしまったら?
そもそも、すぐに座れたとしたも、端と端だった場合、「あれ?」とか言える距離でもないし、
立ち上がって相手の席まで行き、立ち話が出来るような雰囲気のお店でもない。
寝不足で回らない頭であれこれ考えながら、
「とにかくここへ行こう!」
と思った。

実家からは10分。
道路が混んでいたら15分はかかってしまう。

「ごめんね、今日は寝不足だから、帰るね。また今度来るから」

と言って、実家を飛び出した。
車に乗り、エンジンをかけて、走り出してから、また考える。

そもそも会ってどうするの?
将来が無い人と、またやりとりを始めるの?

お店の前で撮った写真には、本人も写っていた。
つまり、写真を撮ったのは、いつも一緒のお母さんだ。
お母さんも一緒のところに、ブロックした女が現れたら、どんな対応をするだろう……
睨まれてシカトかな……
っていうか、なぜここにいることがわかったのか不思議に思うよね?
「Twitter見て」って言ったら、
なぜTwitterのアカウントがわかったのか
不思議に思うよね?

もう、頭の中はグチャグチャだった。
心臓はずっと物凄くドキドキしたまま。
信号もよく見えていない。
猛スピードで車を走らせた。
会わなくてもいいから、せめて姿を見たい。
なんなの、私?

小田和正さんの
《ラブ・ストーリーは突然に》が頭の中を流れ出した。
ドラマだったら、こんなシーンでこんな曲が流れそうだ。
っていうか、ドラマみたいな展開だよ!
これ!

そして、ラーメン店がある通りに出た。

そのお店は、ガラス張りになっていて、
外から中が見える。
でも、お店がある通りは国道で、片側2車線の4車線で、交通量も多い。
ゆっくりなど走れないし、よそ見しながら走るのも本当は危ない。
それでも、中を見ながらお店の前を通ってみた。

全然わからない。

通り過ぎて、先のコンビニの駐車場に入り、
そこから引き返して、もう一度通ってみる。

やっぱり、わからない。

もう、食べ終わってお店を出てしまったかな……?
諦める?でも、もう一度……

3度目にお店の前を通ったとき!

Twitterでよく見る、顔をかくされたお母さんと同じ服を着た女性が立っていた。
お母さんだ!
今出てきたところだ!

そう思ったけれど、反対車線を走っていて、急にはそこに停車は出来なかった。
ちょっと先の交差点で、かなり急に右折して、Uターンをしてまた引き返した。
そして、お店の駐車場に入り、車を停めた。

今度は、お母さんの隣にM君の姿もあった。
しゃがんで、バッグの中をガサガサしていた。
そのときに気付いたのだが、お店の真ん前がバス停だった。

すごい奇跡!

もう、何も考えることは出来なかった。
車を降りて、M君に近付いた。
暗かったせいももちろんあるだろうけど、近付いた私の方を振り向いて目が合っても、私だとはわからないようだった。

そりゃそうだ。
そんな場所に突然知っている人が現れるとは思わないだろう。

でも、目が合ったのに、私が逸らさずにじっと見ながら近付いたので、気付いたようだ。

「M君……」
と、声をかけた。

『あれ〜?どうしたの?』

睨むでもなく、怒っているでもなく、
普通だった。
ものすごくビックリ!という風でもなかった。

「Twitter見て……」

M君がそれに何と返事をしたのかは覚えていない。
でも、そのときもビックリはしていなかった。

「会いたかったから」
と、私は言った気がする。

それから、バスで駅に行くのか聞いてみると、そうだと言うので、
「駅まで送るよ」と、言ってみた。
『いいよ。お母さんも一緒だし』
「もちろんお母さんも一緒に」

そこで、初めてお母さんに目をやると、
[初めまして、母です]
と、お母さんが挨拶してくれた。

誰だろう?この女……
と思って見ていただろう。
でも、私の家のベランダからの景色の写真は見せたことがあると言っていたから、
なんとなくはわかっただろう。

『送ってくれるって言ってるけど』
[そんな、申し訳ないです…]
「いえいえ、近いので。ぜひ!送らせて下さい!」
『送ってもらおうか』

そんな会話の途中にバスが来なかったことも奇跡だったと、後になって思った。

駅まで、というか、どこかに車を停めているのだろうから、とふと思い
「車を停めた駐車場まで送るよ」と言うと、車を停めたのは、1つ前の駅の駐車場だとのこと。
ラーメン店は、2つの駅の中間くらいにあった。
「じゃあ、そっちの駅まで送った方がいいね」

後ろの席にあった荷物をどかして、2人を乗せて走り出した。
なぜ、1つ前の駅に車を停めたのか聞いてみると、

駅ビルで、地方ミュージシャンIの無料LIVEがあり、それに行こうとしていた。
(またか)
道路が混んでいて、LIVEに間に合わなくなりそうだったので、1つ前の駅の駐車場に車を停めて、電車で駅ビルのある駅に向かった、
とのこと。

道路が混んでいなければ、会うことはなかったのか……
偶然ではなく、必然?
今まで散々いろんなことがあった地方ミュージシャンIだけれど、今回はIのおかげだった。
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普段から車をぶっ飛ばしてしまう私だが、2人を乗せてゆっくり走っているつもりだったのに、
『急がなくていいよ〜。ゆっくりで』と、何回かM君から声をかけられた。

駅まで、あっという間に着いてしまった。
M君の家を探しに行ったときに、
「怖そう」と思ったお母さんだったけれど、話してみると、どこにでもいそうな普通の方だった。
長年保育士をしていて、現役でもあるのだから、まぁ、怖くはないか……

車から降りるとM君は運転席側にまわってきて
『何でやりとりしてたっけ?』
と、聞いてきた。

は?

意味がわからなかった。

『○○だっけ?LINEだっけ?消しちゃって、わからなくなっちゃったんだよね』

○○が何だかわからないけど、あんなに毎日1日中やりとりしていたのに、
《何で》とか、ツールがわからなくなるものなの?
例え消したとしても…
たった2ヶ月で……

っていうか、LINEはブロックしても、
ブロックリストにアカウントが残るから、いつか何かメッセージをくれたりしないかな?と、私は思っていたのに、
《どこにいったかわからない》とは、
消したアカウントを探してくれたこともなかったのか……
こちらは、生霊が飛んできているのか?
とまで考えていたのに…

『ちょっと何か送ってみて』
「だって、ブロックしてるんでしょ?」
『ブロックはしてないよ。やりとりは消しちゃったけど。何か送ってくれたら、繋がれたのに』

本当はブロックはしていなかった、と聞いて、
「やっぱりそうだったのか」
と、ホッとした。
でも、メッセージは全部削除してしまったのか……
そして、アカウントを探そうともしてくれてなかったことが、
何よりショックだった。

私は、だいぶ下の下まで下がってしまっていたM君のアカウントに、スタンプを送った。

『あ、きたきた』

と言って、M君もすぐにスタンプを送ってきた。

『またメッセージくれる?』

と、聞いてくれた。
やっぱり、そういうことになるよね……
私は、泣きそうな顔で
「うん」と答えた。

「じゃあね」
と言って、開けていたドアを閉めて、窓を開け、手を振った。
黙って待っていてくれたお母さんに頭を下げて、その場を去った。

久しぶりに、清々しい気持ちだった。

もう、認めるしかない!
私は、M君のことが好きなのだ!
あの変な、変態な、お金が無い、
全くタイプでもないM君のことが!


家に着いてから、M君が言っていた、LINEではないものが何なのか検索してみた。
カカオトーク。
《浮気相手に使われることが多いアプリ》と、書かれていた。
マッチングアプリでいろいろな人と出会ってきたから、いろいろな方法でやりとりをしていたのだろう。
でも、私までそれでやりとりしていたんだっけ?
などと思われたことは心外だった。

30分程経った頃、M君からメッセージが届いた。
「もう着いたのかな?高速を使って帰った?」

開いてみると、

『こんばんは。
先程はありがとうございました。
ほんとに久しぶりでした。
よく来てくれたね。
なかなか出来る事ではないよ。
勇気がいる事だよ。
ありがとう。』

そして
『〇〇さん
今日は勇気を出してきて下さり
ありがとうございました』
というメッセージが添えられた、スタバのギフトチケットが送られてきた。
最初は気付かなかったけれど、2枚も!
あの、いつもお金が無いM君が……
申し訳ない気持ちと、嬉しい気持ち。

そのメッセージは、まだまだ
《駐車場から走り出した》
くらいの所から送ってきたようだった。

その後、『今、このあたりです』
という途中経過報告と、
家に到着した報告が届き、
『〇〇ちゃんは何してるかな?』
という質問メッセージも届いた。

一睡もしていなかったから、本当はもっと早くに寝る予定だったのに、
もう22時になろうとしていた。

「夕べ寝てないから、もう寝るところです」
『もうおやすみでしたか。
もっと話したかったです。
○○ちゃん おやすみなさい』


M君からブロックされてからからすぐに出会ったT君。
そして、そのT君が私の家から仕事に出かけて行った当日に再会したM君。
しかも「T君とはもう無理だ」と思ったその日に…

何も願い事が思い浮かばなかった新月の次の日だった。



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