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Medii Patient Voice/闘いの中の光、AYA世代が語るがんとの向き合い方

Mediiでは、難病や希少疾患を抱える患者さんをゲストにお招きし、診断や治療でのご苦労、日常生活のこと、患者さん一人ひとりのナラティブをお話しいただく「Medii Patient Voice」というトークイベントを社内で定期開催しています。

Mediiで働くメンバーが、医師の先にいる患者さんを強くイメージしながら、Mediiが掲げるミッション「誰も取り残さない医療を」の達成に向け取り組んでいくための理解の場として、全メンバーが参加しています。

今回は、実際に肺がんとして診断された、AYA世代の高橋尚希さんにお話を伺うことができました。診断を受けるまでのお話と、診断を受けてからこれまでの気づき、そして病気と付き合う難しさについて、リアルな声を聞かせていただきました。


AYA世代のがんについて

15歳から39歳までの思春期・若年成人(Adolescent&Young Adult)の年齢層を“AYA世代”という言葉で表現します。

0歳から14歳までは小児というカテゴリーで、ここで発症するがんは「小児がん」と診断され、小児科や小児腫瘍科で診療されていきます。一方で成人でがんを発症した方は、成人の診療科でそれぞれの医師が診療したり、がんを専門で診る腫瘍内科で診ることとなります。

その小児と中高年の間、15歳から39歳の方たちは小児科なのか、成人の診療科で診るべきかがとても微妙なラインです。さらに言うと、AYA世代のがん患者は、通学、受験、就職、結婚、出産など大きなイベントが重なる時期にがんを発症してしまうということで、非常に様々な悩みを抱えられています。

現在、AYA世代のがん患者の数は15歳から19歳の間で900人、20代で4,200人、30代で約16,300人と言われています。1年間に診断される全ての年齢のがん患者の合計が約100万人なので、AYA世代のがんは極めて希少性が高いと言えます。そのため、診断が遅れがちであり、必要なケアも行き届いていない状況にあります。

AYA世代に多いのは白血病、脳腫瘍や女性器のがんであり、肺がんと診断される方は2.4%しかいません。つまり、「AYA世代の肺がん患者」は、同じ境遇を持つ同世代の患者がほとんどおらず、得られる情報も少ないという孤独の中でがんと向き合わなければいけないという厳しい状況に置かれています。

ただの風邪ではなかった。4つめの病院で診断された肺がん

高橋尚希さん

ー高橋さんが抱えられている肺がんの症状や、現在の状況について教えていただけますか。

私は今36歳で、26歳のときに肺がんを発症しました。電気工事関係の会社で契約社員として働いています。今は月に1回通院し、治療を続けています。免疫チェックポイント阻害剤オプジーボという薬剤を使っています。軽度の副作用と軽い脳機能障害がありますが可能な範囲で仕事をしています。

ー26歳のときにがんと診断されたということですが、どのような症状が出て、診断されるまでどのくらい時間がかかったのでしょうか。

診断されるまでは約1ヶ月半でした。 最初に咳が出て、当時仕事もしていたのでまずは個人病院に行って風邪と診断されました。数日経っても治らないのでまた違う個人病院に行き、そこでも風邪と言われました。処方された風邪薬を飲んでも効果がなかったので、中規模の病院でレントゲンを撮ったんです。そしたら、肺に白い影があると言われて総合病院を紹介してもらいました。翌日にPET-CTを受けたところ、肺がんという診断を受けました。

ーそのときどのように感じられましたか。

PETっていう言葉がわからないから、前日の夜に調べるじゃないですか。それで初めてがんを調べる検査なんだなと分かったぐらいで、それまでは何も分からなかったです。だから診断のときに、がんなんだろうなとは思っていたんですけど、ステージがⅣだと聞き、Ⅳはやばいんじゃないの?これからどうなるのかなっていう不安がありました。

いつまで続くのか。辛く苦しく不安な日々

ー肺がんとはっきり診断されて、その後の治療方針はどのように決められたのでしょうか。

診断後の検査が終わった頃に急に肺が痛くなり緊急入院をしました。主治医からは、腫瘍が大きくなってるからすぐ抗がん剤をやらないといけないと、そこで治療の方針が決まりました。

―実際に治療を始められた時のことを教えてください。

抗がん剤治療による副作用が辛かったです。ステージⅣで手術ができなかったので、抗がん剤治療でがんを小さくし、維持し、受け入れる。がんが痛いわけではない、とにかく副作用が辛い。生きるための治療だとはわかっていても深く落ち込みました。
入院している患者さんの中にもAYA世代の人はいなかったので、悩みを共有できる人もおらず、当時はうつ病だったこともあって自暴自棄になっていたような気がします。

同じ悩みを抱える仲間がいたから、前を向けるようになった

ーそこからがんと向き合っていけるようになったきっかけはどのようなものだったんですか。

肺がんの仲間に出会ったことですね。私が通院している病院にがんサロンがあり、そこで「STAND UP!!」という団体のフリーペーパーを下さった方がいたんです。それを読んだら、同世代の人がいっぱいいるんですよ。思い切って入会して、チャットでつぶやいたら、それを見た方が反応してくれて、友達ができました。
初めて肺がんをもつ同世代の仲間と出会って、みんなステージⅣで、話も合うし交流が楽しく感じました。仲間の存在が前向きな気持ちを引き出してくれました。STAND UP!!のように患者が集まる団体があるということをもっと早く知っていたかったなと思います。

ー患者さん同士でどのような交流をしていますか。

その友人が釧路まで来てくれました。最新の情報をたくさん持っていて、すごいな、面白いなと思いながらたくさん話をしました。
そういった交流がきっかけで、勉強も兼ねつつ神戸の学会に足を運んだりしました。自分1人だったら絶対に行くことはなかったと思います。そこでも、色々な情報を貰いながら、色々ながん患者さんにも会え、たくさんの繋がりができました。
似たような境遇の仲間が大きな支えになったので、当時の自分のように辛い思いを抱え込んでしまっている方のためになればと、地元釧路でがん患者会「Cancer Connect」をつくりました。

ー高橋さんの患者会ではどのような活動をされていますか?

Cancer Connectを立ち上げた当初は、北海道の東側(道東)エリアのAYA世代限定にしていたのですが、人が集まらず年齢制限を無くしてみました。道東エリアでは、高齢者とAYA世代の間の年齢層でニーズがあるとわかり、参加対象者を地域・年齢・がん種問わずとして月1回交流会を開催しています。
患者会には、医療従事者の方も来てくれています。無理のない範囲で行っているので、大きな規模ではやっていませんが継続して続けていくことを目標にしています。コロナ禍ではオンラインで集まっていましたが、2023年の4月に久しぶりに対面して集まることができました。メンバーとしては、道東エリアの方が多いです。オンラインでの活動を始めてから、札幌や根室の方、関東の方が参加してくれたこともあり、参加者との繋がりを大事にしたいと思います。

納得がいく治療のための選択肢

ー同じがん患者さんからの情報や繋がりに助けられたというお話だったのですが、高橋さんと主治医との関係はいかがでしたか。

主治医の先生は、今6人目なんですね。田舎の病院ということもあり、1年でいなくなってしまう先生もいます。いきなり先生が代わるとびっくりしますが、先生方が私のことをしっかり共有し引き継ぎしてくれているので、あまり心配はしていません。先生とは普通に世間話もしますね。聞きたいことについてはしっかりと答えてくださるので、先生や病院の皆さんを信頼しています。

ーインフォームドコンセントについてお聞きしたいのですが、実際にがんの治療を受ける中で、同意というものが本当の意味で取れていたかどうかお伺いしたいです。

初期の頃は、とれていなかったかもしれません。というのは、急いで治療を受けてくださいと言われ、理解や納得するまでの時間もなく、もうやるしかないというような感じで、同意したと思います。
ただ今はいろんな経験値があるので、他の方法もあるんじゃないかというのも自分でイメージできますし、これからの治療についてはきちんと考えた上で進められると思います。

ーセカンドオピニオンもあると思いますが、他の先生に意見を伺う機会はありましたか。

最初の治療の後に、本当にこれでいいのかなっていう疑問もあったので、落ち着いたタイミングで東京に行って、セカンドオピニオンを受けました。多くの肺がん患者を診られているがん研有明病院に行きました。
セカンドオピニオンを受けたことで、薬を使用することに納得でき、すっきりしました。主治医の先生への配慮から躊躇される方もいるかと思いますが、私の場合は主治医の先生から勧めてもらっていたので行きやすかったですね。


ー高橋さんは全国の患者さんとお話をしてこられたと思いますが、住んでいる場所によって持っている情報量や受けられる治療法の選択肢の違いを感じたことはありましたか。

私は脳転移があり、全体的にがんに放射線を照射する全脳照射を行いました。仲間に、局所的にがんをやっつける放射線治療(サイバーナイフ、ガンマナイフ等)があるという話を聞き、驚きました。
脳にあるがんは全部消えたので、全脳照射をしたことには後悔はしてません。ただ、同じように脳転移した患者にとっては、そういう治療の選択肢を事前に知った上で、選択ができるようなったらもっと良いのだろうなと思います。

治療以外にも、自分の住んでいる地域とは違って、札幌や関東の病院には治験があります。治療の選択肢が一つ増えるのはすごく大きいです。収入を得ないと生きられない、子どもを養えない、など色々な事情がありますから、求める人に情報が届けばいいなと考えています。

ー医療従事者の方が周りにいらっしゃると思うのですが、その中でも心の支えになったのはどのような方ですか。

がん相談室の認定看護師さんです。約10年関わっているので、もう友人です。具体的な話になったら、薬剤部の方を紹介してくれますし、その人に言えば色々なところに繋いでくれる方です。

患者はとにかく情報を求めている

ーMediiというチームは、主治医と専門医を繋いでオンラインで相談できるサービスを提供しています。高橋さんから見たMediiの取り組みに対して期待や要望があればお聞かせください。

まずMediiの取り組みを知ったとき、すごいなと思いました。柔軟な主治医の先生だったら、他のより詳しい先生にも訊いてくれて、患者はセカンドオピニオンをしなくてもいいじゃないですか。ぜひ医療現場に浸透させてほしい仕組みです。

患者目線で色々な方と出会い、本当に強い気持ちを持って病気と向き合っている方をたくさん見てきました。それこそ「抗がん剤を絶対身体に入れたくない」という強い信念を持った方もいますし、「絶対死ねない、もうとことん治療を続ける」と覚悟を決めて、抗がん剤ではなく手術して腫瘍を取ることを選択する方もいます。それぞれの気持ちや状況で、それぞれの選択をしている方がいる。そういった情報を知っておくだけでも、心の支えになります。とにかく情報を求めている人がいるということを知ってほしいです。


自分が何の病気なのか、今の治療が自分にとって良いのかわからず、不安や苦しみを抱え続けている患者さんが全国にいらっしゃいます。

何度も医師を変えたり、居住地域や経済的な事情でセカンドオピニオンを求められなかったり、駆け回って自力で医療情報を集めたり、診断や治療においても大変な苦労をされています。

Mediiはそんな辛い思いをされている患者さんを救いたいという思いで、主治医とエキスパート専門医をオンラインでつなぎ専門知見を共有する「E-コンサル」という仕組みをつくりました。E-コンサルを通じて、高度な専門知識が必要な疾患でも早期に発見され、患者さん一人ひとりが納得のいく治療を受けられる社会を目指しています。

当事者の方々が、本当に必死に病気に向き合われているところに私たちが関わっているという意識を忘れず考え続け、「誰も取り残さない医療を」の実現に向け取り組んでいきます。
高橋さん、貴重なお話をありがとうございました。


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