退院困難な要因

突然ですが、私は最近、生まれて初めて「入院」を経験しました。

たったの2泊3日でしたが、いつも仕事で関わっている医療機関に、患者として入院できたのは本当に貴重な経験でした。

だけど、残念ながら私には「退院困難な要因」がなかったので、入退院支援を受けることはできませんでした。

■退院困難な要因

病院が「入退院支援」という業務にきちんと担当者を割り当ててシステムを構築していくためには、その業務を国が定めた診療報酬上で評価してもらう必要があります。行った業務に対して対価をもらえてこそ、経験値の高い人材に「入退院支援」を行ってもらうことができるのです。

病院が保険診療を行った対価としてもらえる金額は日本中のどこでも同じで、その報酬のことを診療報酬といいます。
診療報酬についての詳しい説明はまた別の機会に説明しますが、病院が診療報酬をもらうためには、ただ単に「入退院支援を行いました」と請求書に書くだけではいけません。
「入退院支援」を含む医療サービスのほとんどは形がないものです。その形がないものを、各病院が自院の感覚だけで「これをやりました!」と請求しては、医療の質が保たれません。

そのため、診療報酬の各項目(例えば「診察」とか「リハビリ」とか「手術」とか)にはそれぞれ、設備や人材、対象患者や回数制限等様々な要件があります。これを「算定要件」といいます。

先ほどの「退院困難な要因」というのは「入退院支援加算」の算定要件のひとつです。下記のいずれかの条件に該当する患者でないと、「入退院支援加算」は算定できません。

ア  悪性腫瘍、認知症又は誤嚥性肺炎等の急性呼吸器感染症のいずれかであること
イ  緊急入院であること
ウ  要介護状態であるとの疑いがあるが要介護認定が未申請であること(介護保険法施行令(平成 10 年政令第 412 号)第2条各号に規定する特定疾病を有する 40 歳以上 65歳未満の者及び 65 歳以上の者に限る。)
エ  家族又は同居者から虐待を受けている又はその疑いがあること
オ  生活困窮者であること
カ  入院前に比べADLが低下し、退院後の生活様式の再編が必要であること(必要と推測されること。)
キ  排泄に介助を要すること
ク  同居者の有無に関わらず、必要な養育又は介護を十分に提供できる状況にないこと
ケ  退院後に医療処置(胃瘻等の経管栄養法を含む。)が必要なこと
コ  入退院を繰り返していること
サ  その他患者の状況から判断してアからコまでに準ずると認められる場合

どの要件をみても、確かにスムーズな退院は難しそうです。
こんな患者さん、そんなにたくさんいるの?という疑問も沸いてきます。
逆に、ほとんどの患者さんが該当してしまう!と思う人もいるでしょう。

例えば、がんの専門病院であれば、ほとんどの患者さんは「ア  悪性腫瘍、認知症又は誤嚥性肺炎等の急性呼吸器感染症のいずれかであること」に該当してしまいます。
また整形外科系の病院であれば、多くの患者さんが「カ  入院前に比べADLが低下し、退院後の生活様式の再編が必要であること(必要と推測されること。)」に該当するでしょう。

私の場合、対象の病気に当てはまらず、緊急入院でもなく、退院の翌日から普通に出勤できるほどADLに問題はなかったので、残念ながら(?)入退院支援を受けることができなかったという訳です。

■入退院支援システム作りのポイント

ここからは、入退院支援業務を自院に構築しようとしている医療者向けのお話です。

多くの病院でお話を聞きましたが、この「退院困難な要因」をどんな風に解釈し、運用しているかは病院により異なるようです。

パターンとしては、下記3つのどれかでしょうか。

①「退院困難な要因」のうち、いくつかの要件に当てはまる患者だけを実際の退院支援の対象としている
②「退院困難な要因」の「サ  その他患者の状況から判断してアからコまでに準ずると認められる場合」に病院独自の条件を追加して、多くの患者を退院支援の対象としている
③「退院困難な要因」に当てはまる患者全てを退院支援の対象としつつ、必要レベルに応じて支援度合をレベル分けしている

①の病院は、特に人的要因の関係で、退院支援対象者を絞らざるを得ないためにそのような運用を取らざるを得ないことが多いようです。
このような病院については、退院支援に関する業務工程を見直し、全体を省力化することで、より多くの患者さんを対象とできるようになっていきます。

②の病院の「追加条件」は本当に様々です。例としては「施設から入院した患者」「介護保険の被保険者」「退院先を病院で探す必要がある患者」など。その一つ一つの是非についてはここでは問いません。個人的には退院支援・退院調整として介入する必要があるのであれば、問題ないのではないかと考えています。ただ、監査対策として、必ず「退院困難な要因」があると判断した理由をカルテに記載しておく必要があります。

③の運用は私の一番のお勧めです。できれば②で追加条件を明確にし、多くの患者さんの退院を支援しつつ、患者さんごとの状況に応じて支援レベルを変えていく。そうすることで多くの患者さんが入退院に関する不安を払拭できて、特に支援を必要とする人にエネルギーを注力できるのではないでしょうか。

つまり②と③のハイブリッド型でいきましょう!というのが私の提案です。

まず、まず自院の特性を振り返り、自院にどの要因を持つ患者が多いか、また「ア」から「コ」にはないけれど、現実に退院に調整や支援を必要とする要件を持つ患者がいないか、という点を分析する。
また、退院困難な要因の中で特にどの項目に当てはまる場合にエネルギーを注力する必要があるかを分析し、それを誰でも簡単にスクリーニングできるようにする。

この2つを行うことで、より多くの患者さんを支援していけると思います。

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