見出し画像

【第3回】TKAセメンティングテクニック-2

阪和第二泉北病院 阪和人工関節センター 総長
格谷義徳 かどや よしのり

実際のテクニック

骨切り面にセメントを適切に圧入し,セメント-骨界面の強度を上昇させるためには以下に示すステップを確実に行う事が重要です。

1.骨母床の準備
 ①硬化骨へのドリリング
 ②パルス洗浄
 ③ガーゼタッピング
 ④良好な視野の確保

2.セメントの圧入
 ①適度な粘性(手に付かない状態)での使用
 ②セメントガンとプレッシャライゼーションノズルの使用

骨母床の準備-①硬化骨へのドリリング

図9

使用するドリル径,数,深さ等については様々ですが,著者は径3.2mmのドリルで内側の硬化部を中心に10箇所程度作成し,深さは硬化部を貫通すればそれで良いと考えて5-10mm程度にしています。

骨母床の準備-②パルス洗浄

図10

必ずしもパルス洗浄器が必須というわけではありません。タニケット装着下ですので,スポイトでも注射器でも手間さえかけて,入念に行えば骨表面より骨屑・血液・脂肪を除去する事は充分可能です。

骨母床の準備-③ガーゼタッピング

骨表面にガーゼを当て,その上から手指で繰り返したたく事により(Tapping),骨表面の水分を飛ばして,乾燥した海綿骨面を準備するステップです。ステムやキールの入る部分もガーゼを押し込んで水分を充分除去します。

骨母床の準備-④セメント圧入のための良好な視野の確保

セメントガンやプレッシャライゼーションノズルを使用して,確実にセメントの圧入を達成するにはしっかり骨表面全体が見えていることが前提になります。基本的なことですが,セメンティングの際には良好な視野を確保しておく事を忘れないでください。

セメントの圧入-①適正な粘度での使用

かなり頑張ってまんべんなく圧入しないと3-4mmの均一なマントルは達成できません。インプラントを挿入する時に圧入されると高を括っておられるかも知れませんが,前述の如く,粘性が低いとスクイーズフィルム効果により,セメントは外に逃げてしまい充分に圧入が得られません。

図11

セメントの圧入-②セメントガンとプレッシャライゼーションノズル

図12

フラットKneeノズルを使用してインプラント側に塗布し,プレッシャライゼーションノズルを使用して骨表面に圧入すると効果的です。

実際のセメンティングの質の向上はもちろんですが,ここに示すように様々な器具を使用しながら,色々考えながら行ってみると今まで漫然と行っていたセメンティングがとても楽しいステップになります。読者の皆さんもセメンティングが独立した,”こだわりを持てる”ステップになるようにしてみて下さい。

それでもまだ”TKAのセメントなんて”と思っている貴方へ

TKAにおけるセメント手技の現状は図13のように表すことが出来ます。

図13

つまり骨セメントの力学的特性や粘性によるハンドリングの容易さが基礎となり,それに重層される形でセメントーインプラント界面の強度や骨セメントの圧入等が手術手技の影響を受けて変動する事になります。幸いなことに臨床的な問題が出現するまでにはかなり広い安全域が存在するのですが,手術手技による変動が大きくなり,この安全域を超えてしまった場合に臨床的な問題(Loosening)が顕在化するのです。

ですから安全域の拡大のためには,まず骨セメント自体の力学的強度やハンドリングの容易さを向上させ,ベースラインを下降させることが基本的な対策となります。その上で術者の手技に依存して変動する骨セメントーインプラント界面の強度や骨への圧入を改善すれば”鬼に金棒”と言えるでしょう(図14)。

図14

あなたが今まで特にTKAでセメントに問題が無かったと感じていても,それは単に幸運であっただけなのかも知れません。安全域を拡げるために,本稿で学んだような総合的な対策を施すことにより,失敗や不運が重なったとしても,合併症のリスクを減らすことができると考えます。”備えよ,常に”という言葉を胸に刻んでおきましょう。


※TKAの手術手技に関する書籍の購入はこちらから↓


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?