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【第34回】2023年7月6日 ZOOM対談-1

格谷義徳 先生(阪和第二泉北病院 阪和人工関節センター 総長)
堀内博志 先生(信州大学 リハビリテーション科 教授)

好評の格谷先生とのzoom対談シリーズ。今回は,堀内博志先生をお迎えし,「セメントレス」をテーマに熱い議論を繰り広げていただきました。


格谷:
堀内先生,本日はどうもありがとうございます。

堀内:
こちらこそ先生,ありがとうございます。このような機会をいただいて光栄です。
事前にお送りいただいた資料に,先生から本当に鋭いご指摘をいただきましたので,大変勉強になりました。僕の頭の中も整理されました。

格谷:
何を仰います。先生,謙遜家ですね。

堀内:
いえ,そんなことないです。

格谷:
大阪人にはいない謙遜家ですね。大阪人は自分が一番賢いと思っているので(笑)。

堀内:
いや,それは(笑)。僕は大阪に生まれてもそんな気はありません,先生。

格谷:
さて今回,なぜセメントレスを話題にしたかというと,もちろん先生に大阪にご講演に来ていただいて,いろいろ考えることがあったのですが,それ以外にも,最近海外のレジストリーデータを見ていて思うことがあったからです。
アメリカは全国的なものがないので,ローカルなレジストリーやオーストラリアのレジストリーを見ると,結構セメントレスが増えているんですよね。

堀内:
そうですね。

格谷:
これまでも「セメントレスの時代が来た!」とは何度か言われてきてはいましたが,今度こそ本当なのかなと。先生からいただいた資料では,現状日本では横ばいかちょっと減っているとのことでしたが,実際どうなんですか?

2013年度TKAレジストリ(UKA,PFAを含む)
2021年度TKAレジストリ

堀内:
割合でいうと,日整会のレジストリーでは,2020年でセメントレス11.91%,2021年で12.51%で,ハイブリッドを入れて16~17%なので,誤差範囲かなというところですね。ただ,トータルのマスが増えているので,症例数は増えていますが,セメントとセメントレスの割合とするとあまり変わらない感じですね。

格谷:
そうですね。下図はオーストラリアの一番新しい年次報告ですが,セメントレスが2018年くらいからやたらと伸びているんですよ。

堀内:
すごいですよね。

格谷:
2018年あたりにすごいセメントレスが出たとか,何かセメントレスに革新的なことが起こったわけではないですよね?

堀内:
これはおそらくロボットの普及が関係していると思います。

格谷:
えっ! ロボットと関係があるんですか?

堀内:
ロボットでフラットに骨切りして,それにセメントレスを使用するプロモートを行ったのではないかと。ちょっと細かいところをお話しさせてもらうと,あくまで個人的な推測ですが,アメリカもロボットとリンクしてセメントレスになっていますので。この辺りですよね,売れ始めているのが。

格谷:
なるほど,ロボットで正確に骨切りをして,セメントレスとペアで,ということで増えてきているんですね?

堀内:
おそらくそうだと思います。

格谷:
ロボットと言いますと,メインで言えばストライカーですか? 

堀内:
おそらく,Mako(ストライカーの手術ロボットの商品名)だと思います。ただオーストラリアはもともと絶対数が少ないうえに,ストライカーのシェアが多いです。また聞いてみようと思いますが,多分そのようなプロモートをしたのではないかと思います。

格谷:
ストライカーと言ったらTKAの機種はトライアスロンですか?

堀内:
はい。トライアスロンしか使えないです。

格谷:
トライアスロンもセメントレスなんですね?

堀内:
セメントもありますが,Makoはトライアスロン限定です。現在,NRG(TKAの機種)も販売中止になりましたし,現在ストライカーにはトライアスロンしかありません。

格谷:
僕は他の会社の機種ほとんど知らないので,先生にぜひ教えていただきたいのですが,トライアスロンの脛骨コンポーネントはキール型ですか?

堀内:
はい。キールとペグです。脛骨側は2種類あって,3Dプリンターでポーラスを形成したトライタニウムティビアというペグ・キールタイプと,スクリューを併用できるHA(ハイドロキシアパタイト)のタイプがあります。

格谷:
それは,同じデザインでHAをコーティングしたものと,していないものがあるということですか?

堀内:
そうです。それで,大腿骨側はHAコーティングです。

格谷:
実際に使用されてますか?

堀内:
はい。HAコーティングは使ったことがありませんが,トライタニウムティビアという,チタンコーティングがされているものを使っています。

格谷:
そうなんですね。アメリカもオーストラリアもロボットの普及とセメントレスがリンクしているんですね。

堀内:
そうですね。僕は2018年にアメリカへMakoを見にいきましたが,そこでもロボット手術とセメントレスのトライアスロンを使っていて,もちろんパテラ(膝蓋骨置換)もセメントレスで行われていました。時間としては40分程度で終わっていました。

格谷:
それともうひとつ,なぜセメントレスが増えたかというと,アメリカでは高粘性なセメントが増えてきていることも関係していると思います。

堀内:
debondですよね。


セメントーインプラント界面でのdebondingの実際

格谷:
高粘性のセメントはすぐに固まるので,インプラントに塗布する時間が少し遅れるだけで,セメントとインターフェイスがすごく弱くなるんですよね。ですから「インプラントに早く塗れ」ってうるさく言ってるんですが,それとリンクしてdebondingの症例がすごく増えた事が報告されているんですよね[M.P. Kelly et al. The Journal of Arthroplasty 33 (2018) 3460-4,J.E. Kopinski et al. The Journal of Arthroplasty 31 (2016) 2579-82],そんなセメントの問題と先生が仰ったロボットの普及が相まって,セメントレスの急上昇あるいはセメントの下降が起こってきたんですね。


堀内:
改めてグラフを見ると,本当に2018年でセメントが落ちてきてセメントレスが上がっていて面白いですね。

格谷:
そうでしょ! なぜ最近,巷でセメントレスが騒がれていのるか疑問だったのですが,この2つの原因が相まっていたのですね。

堀内:
やはり,ロボットでフラットな真っ平な面を作れば,「セメントレスでいけます!」というようになりますね。
軟部組織バランスやコンポーネントポジションなどありますが,せっかくロボットなので,一連の流れというかシナリオができてくる気がしてます。

格谷:
そうですよね。せっかくきれいな土台を作ったのだから,漆喰みたいなものを入れないで上に瓦置きたいみたいな感じはわかりますね。

堀内:
そこにポコッと置けるという。しかも,セメントレスにすれば,少しロボットで時間がかかった遅れを取り戻せる,そういう気がしています。


セメントレスはロボットにとっていろんな意味で“渡りに船”である

格谷:
わかりました,ありがとうございます。
ここで少しコストの話もしておこうと思います。THAでなぜセメントレスがあれだけ優勢なのかといえ言えば,やはりセメントレスインプラントのほうが償還価格が高いと言う“Money driven”な側面があることは否めない事実ですから。TKAに関しては日本ではセメントとセメントレスの償還価格は一緒なんですか? 4月にまた下がったという話をちらっと耳にしたのですが。

堀内:
今,セメントレスとセメントの差益はほとんどないと思います。

(注):各製品の償還価格は以下の通りです。
大腿骨コンポーネント(セメントレス償還価格251,000 円/セメント償還価格242,000円)
脛骨コンポーネント(セメントレス償還価格204,000円/ セメント償還価格145,000円)
(2023年10月現在)

格谷:
セメントのミキシングシステムって結構高いじゃないですか。

堀内:
高いですよね!

格谷:
だからメーカーとしても,おそらくセメントインプラントとセメントミキシングシステムをプロモートした方が儲かるんでしょうね。

堀内:
そう思います。

格谷:
だからセメントレスにあまり熱心ではないという背景があるんですかね?

堀内:
セメントレスを製造しているメーカーは結構熱心に「いや,これからセメントレスで」って言いますが,それがあまり数には繋がっていないような気がします。ただ,僕はセメントレス派でセメントレスloverなので。メーカーに言っているのですが,セメントレスをセメントと同じようにやるとピットフォールに落ちて,「セメントにしておけばこんな緩まなかったのに。やっぱりセメントレス駄目だな」と思われます。でも,セメントできちんと成績を出されていて,尚且つ若くて骨の質も良い患者さんにセメントレスをやるという医師にやってもらうと,セメントレスの良さがわかると思います。冷やし中華のように,「セメントレス始めました」みたいな感じでやられると,こんなのメーカーが悪いんだ,セメントレスが悪いんだって。医者って人のせいにしますよね。

格谷:
そうですね。責任転嫁の天才ですからね(笑)。


堀内:
自分は悪くない,メーカーが悪い,助手が悪い,となってしまうんです。僕自身は,なんでもかんでも売るなとは言っていますね。向こう側の事情もあると思いますが。

格谷:
またあとで若手の教育の話もしますが,セメントレスは今後,手技をrefineするためのセミナーを開いたりするのでしょうか。それならまだ正統派な行き方だと思うんですけど。今の話を聞いていると「ロボット買おうよ」という感じで,まずロボットにしましょうみたいなことになるんですかね。これは正確に切れますよ,だからロボットそして,セメントレスにしましょうみたいな流れになるのでしょうか。

堀内:
僕はロボットを持っていないので,いつもおもちゃを持っていない子どもみたいに「うちにはどうしてないの? うちも欲しいな」と言っているのと同じだと言っているんですけど。持っているお宅でどういう会話がされているのかわからないですが,普通はそういう話になりますよね?

格谷:
そうですよね。メーカーのプロモーションの立場だったら,セメントをセメントシステムと一緒に売るか,ロボットとセメントレスを組み合わせて売るかなと。

堀内:
思いますよね。

格谷:
ですから,我々もいやらしい消費者になって,その辺を読みながらやっていかないといけないなと思いますね。よくわかりました,ありがとうございます。

上手なセメントレスTKAはインターフェースが美しい
堀内博志先生大阪講演スライドより

(つづく)


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