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第2回 Jones fracture:ダンスでこけたゆえに研究された骨折

Sir Robert Jones(1858〜1933年)

足の中足骨の骨折はレントゲンがない時代から「おそらく折れているでしょ?」と経験的に診断されていた外傷である。例えば「行軍骨折」(「ぎょうぐん」じゃなくて「こうぐん」,読み間違えた人多いかも?)。軍隊の行軍訓練(足を上げて行進する訓練)で足を痛める人が多かったゆえに診断されている。第2,3中足骨の骨幹部の受傷が多く,行進しすぎ訓練しすぎで生じる疲労骨折である。中足骨でも母趾の疲労骨折は少なく,第5趾は他の骨折とは異なっている。

第5中足骨の骨折に着目したのはSir Robert Jones(1858〜1933)である。第一次世界大戦中に活躍したイギリス,リバプールの整形外科医であり,診断にいち早くレントゲンを用いたパイオニア的な存在である。彼は自分の論文¹⁾ のなかで「ダンスして足を外側にねじったら急に痛くなり,長腓骨筋腱を切ってしまったと思った。歩けなくなってしまったため友達に 300〜400ヤード(270〜360m:けっこう遠い!)離れている自分のcab(このcabはタクシーではなく,たぶん馬車)まで連れて行ってもらった」と述べている。翌日,彼はレントゲンを利用して自分の足の骨折を診断した。ドイツのヴィルヘルム・レントゲン(Wilhelm Conrad Röntgen)がX線を発見し,妻の手のレントゲン写真を撮影したのが1886年であるので,16年後には遠く離れたイギリスにレントゲンの撮影技術が伝わっているのは感嘆すべきことである。

このJones fracture,第5中足骨近位骨幹端の骨折であるが,非常にわかりにくい位置である。第5中足骨の結節部より前足側の骨折であり,間接的な内転力が加わることで受傷する。安静が保ちにくく,なおかつ血流が悪いため偽関節になりやすい厄介な骨折である²⁾。数多くの論文でJones fractureの解釈が間違って報告されており「第5中足骨の疲労骨折→Jones fracture」なんてものもある。疲労骨折はJones fractureとはよべない,だってJonesは死ぬほど練習してうっかり疲労骨折したわけではなく,単にダンスでこけただけだから。こういうときにはオリジナルの論文は役立つな,なんて思う。

文献
1)Jones R. Fracture of the base of the fifth metatarsal bone by indirect violence;Ann Surg 1902;35:697-700.
2)Dameron TB Jr. Fractures of the proximal fifth metatarsal:selecting the best treatment option. J Am Acad Orthop Surg 1995;3:110-4.

(『関節外科2022年 Vol.41 No.9』掲載)



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