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【第10回】Complex TKAに対する考え方-1A

阪和第二泉北病院 阪和人工関節センター 総長
格谷義徳 かどや よしのり

はじめに

ややこしい,難しい症例が来たとしよう。忙しい臨床の中で自分が割ける時間と労力は限られている。しかし本当の壁は実際に役立つ(最低限の)知識を効率よく得る方策が見つけられないことである。要するに“困ったときのアンチョコ“が無いのだ。状況を考えれば当然日本語でないといけない。振り返ってみると私自身も,海外のビデオや教科書を参考にしながら,付け焼き刃を繰り返してやって来た様に思う。

ところで再置換術の先進国は? と言えば,なんと言ってもアメリカである。もともと適応が広い上に,患者のBMIも活動性も高いので再置換術の数は驚くほど多い。近年では毎年8万件‼近い再置換術が行われており¹⁾,何とこの数字は本邦での初回手術件数に匹敵する! 

だからビデオ等を見ていても再置換術については,海外の術者は非常に手慣れていて上手いなと感じることが多い(プライマリーではそうでもない)。そんなRevision大国のアメリカで,定番的な地位を占めてきたのがLegacy Constrained Condylar Knee(LCCK、Zimmer-Biomet社)である。その先代にあたるCCKからLCCKにかけて,本邦でもシェアが高かったので使用経験のある人も多いだろう。今回その後継機種としてPersona Constrained Condylar Knee(PCCK)が導入された。改良点としてはZonal Fixationの実現を目指したCone,各種ステムおよび金属augmentationがラインアップされ,多様な拘束性を持つインサートも用意された。

その紹介とプロモーションを目的として,私も含めた4人の講師によるセミナーが2021年11月に開催された(上図)。PCCKは再置換術のみならず、高度内反変形や外反膝でも威力を発揮するので,難治症例も含めた幅広い症例への対応をということでComplex TKAセミナーと銘打って行われた。

今回から掲載する- Complex TKA に対する考え方 - のシリーズはそのセミナーでの講演内容を加筆,再構成したものである。講師陣からは多くの貴重な意見を頂いた。特に水野先生には豊富な経験(難治症例や再置換術では、症例数も技術も日本一だと私は思っている)を提示し,その上で包括的な指針を示していただいた。

メーカー主催のセミナーではあったが,数回の準備会合も含めて,コンセプトの整理,手技上の工夫,そして最も我々が重視した“正しい伝え方”について熱い論議がなされた。学会では出来ない踏み込んだ討論もあり,私自身もとても勉強になった。本稿は,それを整理してバージョンアップしたものだから,きっと読者のお役に立つと思う。

難治症例での基本戦略

どんな分野でもそうだが,“困難は分割せよ”と言うのが基本戦略となる。再置換術も含めた難治症例に当てはめてみると問題は,

 1. 骨への固定性
 2. 膝関節の安定性

の2 点に分割・集約される。要するに,骨にしっかり固定出来て,許容範囲内のバランスが得られれば最低限の●●●●結果は得られる事になる。

だから本稿では“なんとかして骨にインプラントを固定する方法”と”膝関節の安定性をConstrained Implantで獲得する方法” に分けて,実際的な手技を解説していく。

再置換術も含めた難治症例に関する適当な参考書がない中,本稿を切羽詰まったときの“合法的なカンニングペーパ”として役に立ててくれたら幸いである。

文献
1 Epidemiology of Revision Total Knee Arthroplasty in the United States, 2012 to 2019 Arthroplasty Today. 2022 May 21;15:188-195.e6

(つづく)


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