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【第36回】2023年7月6日 ZOOM対談-3

格谷義徳 先生(阪和第二泉北病院 阪和人工関節センター 総長)
堀内博志 先生(信州大学 リハビリテーション科 教授)

堀内:
僕から先生に質問していいですか? 

格谷:
どうぞどうぞ。

堀内:
Initial gapについて,星野明穂先生に散々厳しいご指摘をいただいていたんですが…

格谷:
いやあ,星野先生は僕にとって天敵でしたからね(笑)。

堀内:
(笑)。セメントをされている先生方からするとInitial gapや初期固定は全く興味がないのではないかと思うのですが,いかがですか?

堀内先生ご提供
大阪講演スライドより

格谷:
興味がないということはないですが。Initial gapが埋まるというのは初期固定がいいからですよね?

堀内:
仰る通りです。

格谷:
だったら,初期固定がよかったら埋まる必要ないのでは,とは思いますね。

堀内:
ああ,なるほど。

格谷:
別に埋まったことを喜ばなくても,初期固定というのは固定がいいからそこに骨が入っていける訳ですよね? 

堀内:
はい。

格谷:
だから,不要な骨と言ったらおかしいですけど。そんなにこだわらないでもいいことなのかなと思います。興味がないのではなく,初期固定が他のところできちんと固定されているから,骨が入るときに構造に骨が入っていくんだということであれば,入らなくても入ってもあまり長期成績には関係ないのではと思ってしまいますけど。

堀内:
わかります,はい。

格谷:
ただ,最近は骨質が変わったり,体重が増えたり,活動性が上がったりすると,それに反応して骨が入っていけるっていう意味ではいいのかもしれません。Initial gapの推移を見るのはすごい手間ですよね。先生は全部透視で撮っていたんですか?

堀内:
透視で撮らないと評価できないので,撮っています。

格谷:
そうですよね。透視で撮って,頑張って経過を見てなくなったのは素晴らしいですが。まあそういうような感じですね。

堀内:
「ご苦労さん」っていう感じですね。

格谷:
「ご苦労さん」というか,入るのは固定がいいんだろうなとは思います。

堀内:
すごく鋭いご指摘をいただきましたが,現行機種ではZimmer Biometもストライカーもですが,最近HAの時みたいにきれいにギャップが埋まらないんです。自分としてはそこにこだわりがあるので,なぜだろうと思っています。どうして1回なくなったのに少し隙間が見えて,また埋まってくるのか。その部分では骨として何が起こっているのかというところにすごく興味があります。アメリカでは,しょっちゅうX線を撮らないこともあるのか,全然緩まないしInitial gapなんか関係ないよと,この前もニューヨークから来た膝関節外科医に言われました。
まったく格谷先生の仰る通りで,固定さえしていれば隙間があろうがなかろうが関係ありません。話が戻ってしまいますが,山本純己先生のMARKシリーズなんて完全にプレスフィットなのに全然緩んでない。それからストライカーのオムニフィットのシリーズはまったくコーティングされていないんですよね。脛骨コンポーネントはキールとスクリュー2本を持っていてFibrous fixationでしたが,1例緩んだだけでした。先生が仰るように,骨ができなくてはだめだ,ということにはならないのかもしれませんが,より確実で,しかもセメントレスで自分の骨が入ってくるような構造になっているので,僕はできたら埋まってほしいなと思うんですが。

格谷:
特にTrabecular Metalだとガチッと噛むから,他の所はかえってストレスシールディングが起こって却って骨が入らないのかもしれないですね。

堀内:
荷重がかからないと骨ができにくいので,そういうことはあるかもしれないですね。固定されればいいという観点で言えば,Initial gapは全く意味がないので。それよりもルーセントラインとかコンポーネントが沈むんだろうとか,ちょっと傾くんだろうとか,そういうことの方が確かに先生の仰る通り,本質的だと思います。

格谷:
おそらくHAを塗っておけば,HAで骨を引っ張り込んでくるじゃないですか。薬として。TCPなんか特にですね。薬として,骨はHAはたぶん隙間を埋めてくれますが,多分それはいらなかったらまたセメントした時と一緒で吸収されるのかなと。

堀内:
はい。

格谷:
そういうこともあるんでしょうが,一度入った骨がなくなることはないんですかね?

堀内:
ないと思ってるんですけど。経時的に組織を見るということは生体,つまり患者さんに対しては難しいので。ルースニングで緩んだやつを撮ってもしょうがないじゃないですか。Well fixでWell functionの膝をいろいろ調べるっていうのは難しいですよ。

格谷:
そうですね。Well functionの膝を経時的になんて無理ですからね。

堀内:
ちょっと現実的じゃないので,はい。まあだから,画像上でも臨床上でも緩んでない,問題が起こらないっていうところが正当な評価っていうか。それ以上なのは趣味の世界なのかもしれないですけど。

格谷:
以前先生は,セメントについて,短期的にはいいけれども長期的やハイストレスではウィークリンクという言葉を使われていましたけど。弱点っていうかね。

堀内:
はい。

格谷:
弱い部分であるのは,もう絶対そうだと思うんです。デマンドが少なかったり短いから持っているんであって,セメントが力学的に劣化していくのは間違いないことで,10年以上経ったセメントってボロボロですよね。

堀内:
そうですよね,酸化して。

格谷:
経時的に変化するし,先生が仰っていたように,骨梁がだんだん無くなって,micro interlockが失われてきますからね。

堀内:
そうですよね。

格谷:
セメントは機械的に弱いし、経年劣化もあるので悪いので,ウィークリンクだって言われたら絶対そうなんですよね。私がセメントレスがとてもいいと思うのは,やっぱり体がデマンドに反応して強いところは強くなっていくところです。証明されてないですが,High activity,肥満などには絶対いいと思っています。ただ,今これを使いたいようなHigh activityというか若い人が少ないですよね。外国に比べて。

堀内:
そうなんですよね。BMIが35の人をまとめて手術とかなかなかないですよね,それでシリーズで評価するって。痩せてから来なさいと言ってしまいます。

格谷:
そうそう,「痩せてから来なさい」になりますよね。ですから,セメントレス固定の未来に僕はとても興味はあるんですが,そんな適応の拡大に関してHAはどれだけいいことをしてくれるのかは面白い問題ですね。それをどう思います?

堀内:
セメントがゴールドスタンダードなのは間違いないし,確実な固定というところでは,セメントレスの方がいいですとはこれ絶対言えないですけど。セメント自体,PMMAには進歩というか変化がなかったですよね?

格谷:
ホントに全くないですね

堀内:
高粘性が出て青が緑になったりとか,そういう変化はあるんですけど。セメント自体の変化が10年位前までなかったので,最初のCharnley先生のころと同じものを使っていいのかという疑問も少しありました。そういう点ではセメントレスはデザインも進歩してる。セメントTKAの成績を超えるのは,その当時はセメントが変わらなかったのでセメントTKAは超えられない。セメントTKAを超えられるのはセメントレスではないかという気持ちもあってやっていました。
時代が変わってくると, 60歳ぐらいでも結構やられているので。さらに平均寿命がどんどん延びてきています。昔は85歳くらいまででいいかなと思っていましたが,今はとんでもない。そうすると,先程先生が仰ったように,20年,30年経ってくるとナチュラルコースでセメント周囲の骨が脆くなってくる。さらにセメント自身も劣化してくるとなると,自分で鍛えて骨自体もできてくるというところには将来的な希望があるのかなという気がしているのが僕の本心です。

格谷:
リモデリングしてくれる,少なくともそれが可能であるっていう事は圧倒的な魅力だと思っています。この前,僕沖縄に行ってきたんですけど。「モバイルベーリングとHigh activity」というテーマで話したんです。新垣 晃先生はHigh activityの人にもどんどんTKA(Vanguard ROCC:ロック)していて,それでどんなエグいことやってるかっていうことを本人にインタビューをして,それをビデオで見せていました。その上で僕が「モバイルはいいんだ」と無理やりつけたような話をしたんですけども。モバイルはともかくHigh activityの人にはセメントレスが良いみたいですね

堀内:
はい。ロックを使うんですよね?

格谷:
先生はロックの使用経験は?

堀内:
僕はないんです,まったくありません。

格谷
ロックでサッカーなんかをやられる人がいて。そういう人にはやっぱりセメントはよくないなと思いましたね。その人が60代でも,10年経ってウィークリンクのようになったところにストレスかかると絶対ダメですもんね。

皆TKAが入って激しいスポーツ活動をしている! アスリートは止められない。
友愛医療センター 整形外科 新垣 晃先生ご提供

堀内:
そうですね。

格谷:
スポーツ活動としては何が多いですか? やはりゴルフぐらいですか?

堀内:
ゴルフくらいです。チャンピオンケースとしてはバレーボールやテニスの患者さんもいますけど。長野県は,歳取って人工関節を入れてスポーツをやりたいっていう方は少ないのでゴルフくらいです。

格谷:
うちが大阪だけど周りは結構田舎だからかも知れませんが,ゴルフしたら「よしよしよし!」っていう感じです。ちなみに最近スポーツしたいって言う人,増えてますか? 

堀内:
いや,正直そんなにいないです。

格谷:
僕もね,そんなに患者さんの活動性が上がってるとは思えないんです。かえって手術の平均年齢は高くなっているんですよね。80代のおばあちゃんの手術が多いんですよね。沖縄はそういう面ではちょっと違う感じですね。

堀内:
違いますね,文化が違うのかもしれませんね。

格谷:
結構,大阪の南部や長野は割と保守的なんですかね? あんまりしないなぁっというのが…。

堀内:
田んぼや畑仕事をやりたい方はもちろん多いですが,最近ゲートボールやマレットゴルフが減った気がしますが。せいぜいそんなものですね。

格谷:
それから新垣先生はどんな人にもパテラ非置換なんです。先生はセメントレスですがパテラはセメントで置換なんですよね。

堀内:
そうなんです。秋月先生の所に研修医で行ったときに,一番最初に見せてもらったのがMG1のメタルバックパテラのデブリで,それがずっと続いていて。それを日本語の論文にまとめさせていただいたんですが,あれを見てしまったので,三つ子の魂じゃないですけど。メタルバックパテラは10例ぐらいですが,問題は起きていないんですけど,セメントの方が安全域は高いかなと思ってやっていました。でもそうすると,せっかくずっとセメントレスやっててなんでそこでセメント使うのってよく言われるんですけど。患者さんのことを考えると,パテラは置換でセメントにしてます。

格谷:
CRでも置換っていうのは必須ですか? 

堀内:
一時ちょっと浮気しまして,非置換もやったんです。
浮気はだめですね。

格谷:
浮気はだめですよね(笑)。

堀内:
上手いこといかなかったです。

格谷:
わかりました。

堀内:
でも世の中,先生,今年のレジストリーを見ても日本だと半々ですもんね。パテラは。

格谷:
そうですね。手術見学に来た先生に「なんでパテラ変えないの?」って言ったら,圧倒的に多いのは「時間がかかるから」でした。

堀内:
あっ,そうですか。

格谷:
パテラに変えるのに時間がかかる,自信がない。それであまり成績が変わらないんだったら,変えない方がピースオブマインドみたいな。

堀内:
へえ~!

格谷:
変えない理由を聞いたら,主義を持って変えない人は案外少ない感じがしています。

堀内:
はあ,そうですか。

格谷:
パテラを変える自信がない。そうするとやっぱり手術に1時間半とか2時間かかる人にとってはあの10~15分が結構大きい。

堀内:
確かにそうなんです。僕もそれが原因で浮気したんですけど。
パテラに行くまでに時間がかかっちゃったら…。自分でやってるときはシステムができていたのでいいのですが,後輩にやらせる立場になると「この時間でここかぁ…」となって。そこでパテラを変えて,しかもセメントじゃないですか。どうしてもやっぱり20分はかかってしまうので。だから「パテラなしでいい,世の中半分変えてないからいこう」としていたのですが,1年ぐらいで膝蓋骨置換に戻しました。

格谷:
やっぱりそういう現実的な問題は手術室で毎日やってるとありますよね。ターニケットだって,あと10分が厳しいというときありますよね。

堀内:
そうなんです。

格谷:
セメントレスはターニケットレスと相性がいいんじゃないですか? セメントレスは完全なドライはいらないじゃないですか。

堀内:
そうですね。

格谷:
だから血がちょっと出ていてもいいので。セメントレスのターニケットレスっていうのは先生はやってますか。

堀内:
僕はターニケットつけてます。術中にドライフィールドじゃないと嫌なので。

格谷:
セメントレスでも?

堀内:
セメントレスでも。見えないと嫌なんです。

格谷:
あはは,こだわり派ですね。

堀内:
こだわり派というか,完全にクリアな視野でないと自信がないので。

格谷:
骨とインプラントの隙間がしっかり見えないとっていうことですか?

堀内:
いや,視野がしっかり見えないと嫌なので,ターニケットをしています。あとセメントレスでやると手術時間ももちろん短めなので,あんまりターニケットの弊害も起こりづらいですから。手術時間も短い,ターニケットも短くなる,そうするといいサイクルにいくんですよね。逆に悪い方に行くと,どんどんどんどん悪い方にいくので。手術は,早くすっきりいった方がいいんですよね。

格谷:
そうですね。

堀内:
先生はターニケットはどうされてるんですか? 途中で1回出血見ますか?

格谷:
いや,ターニケットはずすのは閉創してからです。やっぱりセメントするとターニケットしておきたいんですよ。

堀内:
絶対そうですよね。

格谷:
だけど,セメントガンを使えば,ティビアは特にですけどセメントが圧入できます。
ですから最近は,10例に1例くらいターニケットしないでやってます。なぜかというと,ご高齢の方が増えてきたので動脈硬化が気になるんです。
だから,術前にABIを測って1を切ってると,ターニケットしないでやろうということで。

堀内:
ああ~,なるほど。

格谷:
Zimmer Biometの回し者みたいになっていますが,セメントガンを使えばターニケットしなくても固定という意味ではいけるかなっていう感じがしますね。

堀内:
はい。そうですね,やはり何かしないときは,何かを足さないと。補うものがないとダメですよね。

格谷:
もう一個,Infectionに対するセメントレスの利点についてですが,先生以前書かれていましたが,一時,ガイドラインに載ったんですか? 

堀内:
少し載ったことがあるんです。

格谷:
なんのガイドラインに?

堀内:
感染のガイドラインです。感染のガイドラインに同等か少しいいみたいなことが出たんですけど,すぐ無くなりました。

格谷:
無くなったとは?

堀内:
1行くらいの文章が入ってたのが無くなりました。
感染率自体がかなり低いので,しっかりRCTもできないしエビデンスを出すのが難しいですよね? 

格谷:
そうですね。

堀内:
やっぱりLiving boneの方が感染しづらいし、一旦感染しても沈静化しやすいと思っています。
松代ではTKAで感染しても鏡視下でデブリしてから持続洗浄していました。もちろんインサートも変えられないんですよね。後半は鏡視下デブリだけで持続洗浄しなかったんですが,一例も抜去したのがないんですよ。感染は結構ありますけど。

格谷:
ほとんどはイリゲーションで治ってるっていうことですか?

堀内:
そうです。

格谷:
鏡視下のデブリが上手なんじゃないですか?

堀内:
確かに一生懸命やりました。やっぱりセメントレスだと細菌が,ボーン・インプラント・インターフェイスのところに入りにくいんだと思うんですね,Living boneなので。こんなこと言っていると来週にでも感染が来そうで嫌なんですけど。今のところだとセメントレスだと大丈夫ですね。

格谷:
感染率は変わらないけれども,セメントレスの方がインターフェイスが生きてるだけ,鏡視下デブリ,IRDで治せる可能性が高いという印象をお持ちだということですか?

堀内:
そうです,エビデンスとしては鏡視下デブリと持続洗浄有り無しですが,それでルースニング1例もない,インサートも変えてない。そういう例が30例程度あります。

格谷:
30例もやってらっしゃるんですか? すごいですね。
セメントインプラントでインサート入れ替えてオープンデブリで,勝率って6割くらいしかないんです。文献的には5〜6割くらい。

堀内:
そうですよね,はい。

格谷:
ですから,先生がそれで治ってるっていうのは,やっぱりセメントが関係あるのかもしれませんね。

堀内:
そういう気がしてます。別に,何か特別なことをやっているわけじゃないですし。やっぱり,Living boneっていうのは強いのではないかと思っています。

格谷:
そうですね。

堀内:
逆に大阪に伺った時も,岡島良明先生に「感染したときにセメントレスは抜けないんじゃないですか?」と言われて。

格谷:
抜きやすいんじゃないんですか? 抜けないんですか? 

堀内:
感染してどろどろになっていると多分スポッと抜けるんでしょうけど。例えばacuteで「3日前から膝がこんなことになったしまった」と言うような,イングロースしてるインプラントだとやっぱり抜きづらいですね。ただ,僕一例も感染で抜いたことがないのでわからないんですけど…。

格谷:
ええっ⁉ 感染で抜いたことないんですか?

堀内:
感染でセメントレスを抜いたことはないです。セメントはあります。

格谷:
ああ。じゃあ,それもやっぱりなにか関係があるのかもしれませんね。

堀内:
コントロールがないので。同じだけセメントとセメントレスをやっていればいいんですけど。ほとんどセメントレスの母集団ではありますが,セメントレスを抜いたのは一例もないです。大学に来てセメントは何例か抜きましたけど。

格谷:
特にセメントは,時間が経つとマテリアルとしても嫌だし,本当にいろんな意味でウィークリンクなんですよね。

堀内:
なんか感染したときってまさにそこが異物ですし。

格谷:
そう,そう。

堀内:
薄くなった骨梁にばい菌っていかにも入ってきそうじゃないですか。

格谷:
入ってると思います。

堀内:
子どもみたいな例えですけど。

格谷:
そうですね。セメントレスの大事なポイントかなと思いますね。

堀内:
エビデンスとしては,ずっと出ないと思うんですけど。

格谷:
わかりました。

(つづく)


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