どうして流産は起きるの?

私だけが流産しているのでは…

妊娠したのに流産してしまう…、本当に本当につらいですね。自分が何か悪いことでもしたのか?あのとき食べたものがよくなかったのか?あの人は普通にかわいい赤ちゃん生んでいるのに、私だけなんで?
いろいろなことを思い悩んでしまうかもしれません。

流産は、なかなか人に言うことはありませんので、自分だけがなぜ?と考えてしまう方も多いのですが、実はすべての妊娠のうち約15%が流産に終わります。また妊娠したことのある女性の約4割が流産を経験しています文献1)。そのため、珍しいことではなく、あなただけのことではありません。

また、ここでいう流産は、「超音波検査で妊娠を確認した後に流産する」ことを言います。妊娠検査では陽性になっても、超音波検査で妊娠が確認できないまま陰性化する化学流産(正確には生化学的妊娠)は含みません。
化学流産は、妊娠できる女性で避妊しないで性交をもっていると、およそ20~40%起きていることがわかっています。
化学流産は、受精卵が子宮内に着床直後に剥がれてしまっている可能性が高いのですが、子宮以外に着床する子宮外妊娠(正確には異所性妊娠)の可能性もあります。そのため、化学流産はここでいう流産に含まれません。

流産の「原因」は受精卵や胎児の染色体異常だけ

「今回流産してしまった原因はなんですか?」、流産した患者さんから筆者もよく聞かれます。流産の約80%は受精卵に偶発的に生じた染色体異常が原因です(文献2)。流産の原因と呼べるのは、受精卵や胎児の染色体異常以外はありません。他の因子は流産率を上げるだけで、絶対に流産させるような病気はもともとありません。そのため、流産に関しては「原因」ではなく「リスク因子」と言います。リスク因子に関しては、あらためて解説します。

ヒトの染色体は23対46本あります。流産になる染色体異常の大部分は、その染色体が多かったり少なかったりする数的異常です。一番有名な数的異常は21番目の染色体が一本多く3本あるダウン症(21トリソミー)です。21トリソミーの受精卵も実はほとんどが着床しないか流産で終わります。そのごく一部が着床し妊娠継続し生まれてきます。

染色体異常の発症リスクは加齢です

また受精卵の染色体異常は、女性の加齢によって発症リスクが増加します(文献23)。そのため、35歳以下では流産率は15%以下であるのに対し、40代では40%以上にまで上昇します文献4)。

年齢と流産率


つまり、高齢になればなるほど流産率も上がるため、偶発的に流産を繰り返すことも多くなります。
この加齢に伴う流産の発症リスクの増加は、卵子の老化により起こるため、海外での若い女性から提供された卵子を用いた体外受精では、年齢が上がっても流産率はほとんど変化ありません(文献5)。

流産を繰り返していても赤ちゃんを授かることはできるの?

流産を繰り返した女性が、流産に対する検査や治療を行わずに妊娠したときの流産率を確認した報告があります(文献6)。1回流産したあとの2回目の妊娠後の流産率は、ほとんど変わりません。ただ2回以上流産をすると、流産率は徐々に上がります。1回で約15%であった流産率が、2回で23.2%、3回で32.4%、4回で37.0%、5回で48.7%です。ただ逆に考えれば、2回流産しても検査や治療をしなくても7~8割の方が出産しますし、5回も流産していても半分以上の方が出産できます。そのため、流産を繰り返して絶望的になっている方でも、年齢の問題がなければ十分に出産できるチャンスはあります。

流産回数と正常核型・次回流産の頻度
流産回数と絨毛染色体検査の正常核型と次回の流産の頻度を示す。
流産回数が増えると、絨毛検査正常率、流産率は上昇する。

染色体異常はどうやって確認するの?

流産したときにその組織を染色体検査に提出すると、今回の流産が染色体異常によるものかどうかを確認することができます。その絨毛染色体検査の結果と流産回数の関係をみると、2回の流産では3分の2は染色体異常が原因ですが、流産回数が5回を超えると半分以上が正常核型の染色体です。そのため、胎児の染色体以外に流産するようなリスク因子が存在する可能性があり、詳細な検査や治療が必要になります。ただ流産はやはり精神的にも肉体的にも苦痛を伴いますので、実際の臨床では、一般的に2回以上流産を繰り返した場合に、不育症のリスク因子を精査します。

参考文献

1) Sugiura-Ogasawara M, et al: Frequency of recurrent spontaneous abortion and its influence on further marital relationship and illness: The Okazaki Cohort Study in Japan. J Obstet Gynaecol Res 2013; 39: 126-31.

2) Segawa T, et al: Cytogenetic analysis of the retained products of conception after missed abortion following blastocyst transfer: a retrospective, large-scale, single-centre study. Reprod Biomed Online 2017; 34: 203-10.

3) Pylyp LY, et al: Chromosomal abnormalities in products of conception of first-trimester miscarriages detected by conventional cytogenetic analysis: a review of 1000 cases. J Assist Reprod Genet. 2018; 35: 265-71.

4) Nybo Andersen AM, et al: Maternal age and fetal loss: population based register linkage study. BMJ 2000; 320: 1708-12.

5) Yeh JS, et al: Pregnancy outcomes decline in recipients over age 44: an analysis of 27,959 fresh donor oocyte in vitro fertilization cycles from the Society for Assisted Reproductive Technology. Fertil Steril 2014; 101: 1331-6.

6) Ogasawara M, et al: Embryonic karyotype of abortuses in relation to the number of previous miscarriages Fertil Steril 2000; 73: 300-4.


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