不育症の治療方法

 不育症の治療法は、何度も言いますが流産率を上げる不育症や流産のリスク因子を少しでも減らすことです。それぞれのリスク因子ごとの治療法を解説します。
 まず,今回は「血栓性素因」「甲状腺機能異常」「子宮内病変」「染色体異常」を取り上げます。

血栓性素因(抗リン脂質抗体症候群、プロテインC欠乏症、プロテインS欠乏症、第XII因子欠乏症)

基本は低用量アスピリン療法

血栓性素因の治療は、血液をサラサラにする低用量アスピリン療法が基本です。低用量アスピリン療法は、痛み止めでおなじみのバファリン®の小児用の薬剤もしくはバイアスピリン®という薬を1日1回、妊娠後から内服します。

アスピリンは着床前から服用してはいけません

低用量アスピリン療法は、血栓性素因により胎盤内の血流に血栓が形成されるのを予防することが目的です。基本的に胎盤ができなければ効果がない薬なので、妊娠後から内服するのですが、最近いくつかの病院が、妊娠する前から飲むように指示していることがあります。アスピリンは、受精卵が子宮の中に着床することを阻害する可能性があり(文献1)、早くから内服すると流産予防どころか妊娠すらしなくなってしまうことがありますので、ご注意ください。
病院で着床時期も内服するように指示があるようでしたら、エビデンス(根拠)のない治療になりますので、病院の変更なども検討してください。

アスピリンの内服期間

内服期間は通常妊娠28週までですが、不育症のリスク因子である抗リン脂質抗体症候群は胎児が大きくなってから死産になることがあります。そのため、妊娠後期まで投与します。

ヘパリンを用いた治療には注意が必要

また抗リン脂質抗体症候群の場合には、ヘパリンという注射剤も毎日注射して、流産予防をしなければいけない場合もあります。ただし、ヘパリンは抗リン脂質抗体症候群以外の血栓性素因で投与することは推奨しません。
むやみなヘパリン投与は、切迫流産の出血を増悪させ流産を誘導する可能性があり、また重篤な副作用も報告されています(文献2)。

甲状腺機能異常

甲状腺専門医の精査,治療が必要

甲状腺機能異常がみつかれば、まず甲状腺を専門とした内科のさらなる精査と、必要に応じて治療が必要です。基本、流産とかかわるのは甲状腺機能亢進症ではなく機能低下症で、その多くが甲状腺に対する抗体が甲状腺を攻撃してしまう「橋本病」と言われる病気です。ほとんどがレボチロキシン(チラーヂン®)の内服で治療します。
明らかな甲状腺機能異常を認める場合には、甲状腺専門医から妊娠許可が出てから妊娠をトライすることをお勧めします。
また妊娠した後には、hCGという妊娠のホルモンの影響で、さらに甲状腺ホルモンが低下することがあります。そのため、甲状腺機能低下症や橋本病を認めた場合、妊娠した後に再度検査をして、レボチロキシンの内服量の増量なども検討する必要があります。

子宮内病変

子宮鏡手術で子宮内の状態を整える

子宮内病変の中で子宮内膜ポリープ、粘膜下筋腫(子宮内に突出した子宮筋腫)、子宮内癒着、中隔子宮があれば、子宮鏡手術で子宮内を妊娠にとって適した状態に整えることを推奨します。手術により流産予防の効果があるか、いまだにエビデンスが不足していますが、不妊症の原因にはなりますので、妊娠をトライするうえでは手術をお勧めします。
子宮鏡手術は、腟を通して細い子宮鏡という内視鏡を子宮の中に入れて手術をします。侵襲性も低く、私の施設では日帰りで行っています。朝来院して手術をして昼過ぎにはみなさん歩いて帰ることができるくらいの手術です。

慢性子宮内膜炎を併発する子宮内膜ポリープや子宮内癒着には子宮鏡手術が有効

子宮内膜ポリープや子宮内癒着は、子宮内膜の慢性的な炎症が起きる、慢性子宮内膜炎を併発していることがあります(文献3, 4)。慢性子宮内膜炎は着床を阻害し、妊娠した後には流産率が高くなることがわかっています(文献5)。子宮内病変に併発する慢性子宮内膜炎の多くは、子宮鏡手術だけで改善することがわかっています(文献3, 4)

カップルの染色体異常

流産しやすい染色体異常が存在します

不育症のカップルいずれかに、生まれつき流産しやすい染色体異常をもっている場合が4~5%あります(文献6)。そのため染色体検査もスクリーニング検査として必要で、行う場合には必ずカップルともに検査を行い、異常を認めた場合には一度遺伝カウンセリングが必要です。

染色体異常による流産の回避にはPGT-SRしかない(保険適用はありません…)

流産しやすい染色体異常を認めた場合に流産を回避する方法は、体外受精による着床前診断(Preimplantation genetic testing for structural chromosomal rearrangements: PGT-SR)しかありません。着床前診断は受精卵の一部の細胞を採取し、詳細な遺伝子検査に提出し、流産しやすい遺伝子をもつ受精卵かを染色体の構造などを確認する検査です。
着床前診断は、受精卵の中の数個の細胞から非常に細かい染色体検査を行うため、非常に高額でもちろん保険適用はありません。1回採卵・体外受精・着床前診断・胚移植まで行うと100万円以上かかる場合もあります。

カップルに染色体異常がみつかっても絶対流産するわけではない!

ただ、カップルにみつかる染色体異常も流産率が高いだけで、妊娠したらすべてが流産するような染色体異常はみつかっていません。そのため染色体異常がみつかっても絶対流産するわけではありません。
カップルのいずれかに染色体異常がみつかり、着床前診断を行わずに妊娠したときの妊娠成績もすでに報告されています(文献7)。初回の妊娠で約60%の女性が出産でき、2回目までに約70%、3回目の妊娠までに約80%が無事に出産しています。
また、その生まれた赤ちゃんの染色体も確認しており、その異常の発生率は0.4%です。


参考文献

1. Stern C, et al. A randomized, double-blind, placebo-controlled trial of heparin and aspirin for women with in vitro fertilization implantation failure and antiphospholipid or antinuclear antibodies. Fertil Steril. 2003;80(2):376-83.

2. Nelson-Piercy C. Hazards of heparin: allergy, heparin-induced thrombocytopenia and osteoporosis. Baillieres Clin Obstet Gynaecol. 1997;11(3):489-509.

3. Kuroda K, et al. Prevalence of and risk factors for chronic endometritis in patients with intrauterine disorders after hysteroscopic surgery. Fertil Steril. 2022;118(3):568-75.

4. Kuroda K, et al. Analysis of the therapeutic effects of hysteroscopic polypectomy with and without doxycycline treatment on chronic endometritis with endometrial polyps. Am J Reprod Immunol. 2021;85(6):e13392.

5. Kimura F, et al. Review: Chronic endometritis and its effect on reproduction. J Obstet Gynaecol Res. 2019;45(5):951-60.

6. Morita K, et al. Risk Factors and Outcomes of Recurrent Pregnancy Loss in Japan. J Obstet Gynaecol Res. 2019;45(10):1997-2006.

7. Franssen MTM, et al. Reproductive outcome after chromosome analysis in couples with two or more miscarriages: case-control study. BMJ. 2006;332(7544):759-63.

 

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