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【ドローン輸送】日本記録70km長距離輸送成功でも世界から遅れる日本

世界初のオンデマンド商用ドローンデリバリーサービスがアイスランドのレイキャビクで開始されたのが2017年。現在では中国、アイルランド、オーストラリア、アメリカなどの一部地域に拡大したドローンデリバリーサービスのユーザー満足度は非常に高く、サービスを使用していない非ユーザーを含めた地域住民におけるドローン宅配サービスの好感度は驚異の9割です(詳細は以前の記事『【ドローン宅配】アメリカでの好感度は驚異の9割』を参照ください)。

さらに、コロナ禍によって検体やワクチンなど医療物資のドローン配送が加速し、ドローンが世界の医療サプライチェーンに変革をもたらしています(詳細は以前の記事『【医療物資のドローン物流】 コロナ禍で加速したドローンによる医療サプライチェーン変革[序章]』を参照ください)。

ドローンデリバリー、特に「医療物資のドローン物流」で活躍しているドローン機体(UAV)の種類がVTOL(垂直離着陸)固定翼ドローンであることは以前の記事『【医療物資のドローン物流】デリバリーで活躍するドローンたち 〜 コロナ禍で加速したドローンによる医療サプライチェーン変革[機体篇]』で紹介しました。

ドローン後進国日本の現実

その際、残念ながら医療物資のドローンデリバリーで使用されているドローン機体に日本製がないというドローン後進国日本の現実に触れました。取り分け、VTOL固定翼ドローンのラインナップがないのは深刻で唯一の選択肢はエアロセンス社の「エアロボウイング」(AS-VT01)でしたが、最大ペイロード1kg、最大航続距離50kmとラストマイル配送に向いた機種ではありませんでした。

ラジコン飛行機のスペシャリストが奮起

日本からドローンデリバリーに使えるVTOL固定翼ドローンは誕生しないのか?そんな状況に日本のラジコン飛行機のスペシャリストたちが立ち上がり、「株式会社空解」(Qu-Kai INC.)を設立したとのことです。嘗て日本のラジコン(RCモデル)は世界トップレベルでした。

VTOL固定翼ドローン「QUKAI FUSION」発表

模型飛行機のプロである彼らは今年(2021年)6月に軽量化に拘った電動VTOL固定翼ドローン「QUKAI FUSION」を発表。スペックの数値は、可搬重量2.5kg、最大航続距離120km、最高速度120km/h、最大ペイロード積載時飛行時間40分と海外で使用されているVTOL固定翼ドローンに比べ少し見劣りする性能ですが、「飛行安定性能は圧倒的で、VTOLドローンでは世界最高峰の性能と考える」と自信をのぞかせる「安定性」に期待したいところです。

70kmドローン輸送日本最長距離記録に挑む

VTOL固定翼ドローン「QUKAI FUSION」のデモンストレーションとして今年7月17日に千葉県銚子市学校給食センターから茨城県稲敷郡河内町「ドローンフィールドKAWACHI」まで約70kmのレベル3目視外飛行、フルオートによる「ワクチン5℃以下保冷想定」のコールドチェーン輸送(ドローン搬送)実験を実施するとのことです。成功すれば現時点における電動VTOL固定翼ドローン輸送での日本国内最長ドローン輸送距離になると言います(シングルローター型ドローンなどでは100km以上の長距離ドローンデリバリー実験が既に記録されています)。

日本記録でも世界に届かないドローン輸送

ですが、空解社の「QUKAI FUSION」が約70kmの電動VTOL固定翼ドローンによる日本国内最長ドローン輸送距離を樹立したとしても世界へのキャッチアップのスタートラインに立つに過ぎません。

【医療物資のドローン物流】デリバリーで活躍するドローンたち 〜 コロナ禍で加速したドローンによる医療サプライチェーン変革[機体篇]』で紹介したVolansi社(アメリカ)の電動VTOL固定翼ドローン「VOLY C10 - Gen 2」は既に医薬品やワクチンのコールドチェーンドローン配送に使用されており、総合的なスペックでも優位にあります。

ANAホールディングスによる「2022年度日本国内ドローン配送開始計画」の想定機体になっているWingcopter社(ドイツ)の電動ティルトローターVTOL固定翼ドローン「Wingcopter 178」も総合的なスペックは「QUKAI FUSION」よりも上です。

コンゴ民主共和国やマラウイ、モザンビークで新型コロナウイルス感染症(COVID-19)ワクチンをドローン搬送し、イギリスやオーストラリア、バヌアツなどで医療物資のドローン配送を実行している冗長性に優れたSwoop Aero社(オーストラリア)の電動VTOL固定翼ドローン「Kookaburra」も総合的なスペックは上になります。

空解社の「QUKAI FUSION」が市場で競争しなければならないのはこれら外国メーカーの電動VTOL固定翼ドローンです。

冗長性とフェイルオーバー

また、「IoTデバイス」としてのドローンの側面、UASであるということを無視するわけにはいきません。つまり、世界の電動VTOL固定翼ドローンと渡り合うには冗長性とフェイルオーバーが重要となります。機体の「安定性」に関連して「QUKAI FUSION」は「万が一飛行中にトラブルが発生した場合は、フェールセーフとして河川敷数カ所に設定した安全な緊急着陸ポイントに自動着陸します」とのことですが、ドコモLTE通信やGPS測位のバックアップ、オンボードDAAなども肝要な要素です。

世界を追撃するラジコン専門家の底力

空解社には是非とも今回の電動VTOL固定翼ドローン「QUKAI FUSION」での実験に成功し、日本における社会実装の加速と世界のドローンメーカーを追撃する橋頭堡を築いてもらいたいものです。ドローン産業におけるラジコンの逆襲を楽しみにしています。

(結果の追記)

結果Qu-kai社の70km挑戦は失敗

空解社による挑戦の結果、模型飛行機技術の高さは示したが、70km飛行目標だった1号機は通信系のトラブルでリタイア。予想された通り、「IoTデバイス」であるドローンとしては冗長性とフェイルオーバー不足だった。

2号機が62km飛行し、電動VTOL固定翼ドローンによる輸送として辛うじて日本国内最長ドローン輸送距離記録だけは達成した模様。

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