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「無名の医療者が医学書を出版するまでの道」より『出版企画書の書き方』の章を公開します①

好評発売中の「無名の医療者が医学書を出版するまでの道」(著:山本基佳)より、著者の了承を得て「出版企画書の書き方」の章を一部抜粋して公開します。出版を考えておられる方、必見の内容になっているかと思います。

【出版企画書の書き方】


 前章で出版企画書の作成と売り込みが書籍出版の大きな難関のひとつであるということを述べました。出版企画書が会議で通って、はじめて出版というスタートを切ったと言えます。どんなに興味深いネタを持っていたとしても、どんなに完成された原稿を持っていたとしても、企画が通らないことには出版という話は進まないのです。そのため、できるだけ研ぎ澄まされた企画書を用意する必要があります。
 出版企画書には特に決まった形式はないというお話をさせていただきましたが、一般書籍(特にビジネス書)の出版に関する教科書、参考書を何冊か読んでみると、載せるべき項目はほぼ下記の項目に絞られていました。

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 これらの項目は大きく3つに分けられます。1点目は「本そのものに関すること」、2点目は「著者に関すること」、3点目は「本の販売戦略に関すること」です。この出版企画書が完成すれば、出版社への接触は目前です。ここから各項目を順に詳しく見ていきます。

【「2度見」させるタイトル!】①タイトル


 本のタイトルは非常に重要です。売れ行きの半分以上はタイトルで決まるとも言われています。実際、自分が本屋さんで本を選ぶ時のことを考えてみましょう。書店の本棚には数多くの本が並んでいます。平積みにされている本もあります。特に目的の本がなくても、目の前の「1冊の本」を手に取ってぱらぱらと眺めた経験は誰にでもあると思います。さて、数多くの本の中で、なぜその「1冊の本」を選んだのでしょう? そうです。「タイトルがおもしろそうだったから」に違いありません。


 たとえばもうずっと前ですが、とある書店に『スタバではグランデを買え!』(ダイヤモンド社)という本が平積みされていました。グランデはコーヒーの大きなサイズです(470mL)。全部飲んだらお腹はガバガバです。いつもショートサイズ(240mL)かトールサイズ(350mL)しか頼んだことがなかったコーヒー好きの私は、「なんでグランデ?」と一目見て本を手に取ってしまいました。
 「おもしろそうなタイトル」の別の例も挙げましょう。先日市街地図を買いに書店に行った時のことです。地図売り場に向かう途中、とある本のタイトルを横目に通りすぎたのですが、そのまま巻き戻しをするように3歩後退してタイトルを2度見してしまった本があります。「市街地図を買いに行く」と目的を持って書店に行ったにもかかわらず、そのタイトルにつかまってしまったのです。その本の名前は、『うんこ漢字ドリル』(文響社)でした(つかまった自分が恥ずかしい……)。漢字ドリルの例文すべてに「うんこ」が使われているという、いまや日本一楽しい漢字ドリルとして有名なドリルです。
 皆さんもせっかく本を書こうとしているのであれば、一人でも多くの人に読んでもらいたいと考えるはず。でも、本は手に取ってもらえないと読んでもらえないのです。手に取ってもらうためには「目を引くタイトル」が必要なのです。


 どんなタイトルがベストセラーになるのでしょうか。これがわかれば苦労はいらないですし、実際に売り出してみないとわからないとは思います。しかし、ベストセラーになっている本のタイトルにはいくつか傾向や法則があります。『本を出したい人の教科書』(講談社)によれば、おもしろいタイトルには「新奇性」と「共感性」が必須で、いままでの常識を覆すような「新奇性」のあるタイトルや、「その経験、自分もあるある!」と思わせる「共感性」のあるタイトルが必要といいます。自分の本にタイトルを付ける際の参考になると思います。
 以下、まずは私がおもしろそうと思った一般書のタイトルをいくつか紹介しますが、いずれもどこかで見聞きしたことがあるタイトルではないでしょうか。


・『傷はぜったい消毒するな』(光文社)
・『さおだけ屋はなぜ潰れないのか?』(光文社)
・『食い逃げされてもバイトは雇うな』(光文社)
・『うつヌケ』(角川書店)


 おもしろいタイトルを考えるときには、「人はどんなタイトルに目を奪われるのか」を勉強しましょう。一番いい方法は、本屋さんに行くことです。書店で実際に本棚を眺めてみて、ぱっと手に取りたくなるようなタイトルがあればそれをメモする。そのタイトルの中には、目を引いたキーワードがあったり、ある程度の共通項があったりするはずです。きっと皆さんのタイトル作りのよいヒントになるでしょう。


 さて、先ほどのものは一般書のタイトルでした。医学書の場合はどうでしょうか。しっかりとデータを取った訳ではありませんが、医学書(もしくはそれを選ぶ医療者)の場合も「新奇性」「共感性」が大きなウエイトを占めているように思います。


◆「新奇性」
・『創傷治療の常識非常識?〈消毒とガーゼ〉撲滅宣言』(三輪書店)
 →消毒とガーゼの撲滅って?
・『もしも心電図が小学校の必修科目だったら』(医学書院)
 →心電図が小学校の科目?


◆「共感性」
・『誰も教えてくれなかった風邪の診かた』(医学書院)
 →たしかに教えてもらっていないぞ。


 前述のタイトル論に加え、医学書の場合は、「難度」「網羅性」「読者対象」が入っているものについても惹かれてくると思います。


◆「難度」
・『3秒で心電図を読む本』(メディカルサイエンス社)
 →あんなに難しい心電図を3秒で?
・『レジデントのためのやさしイイ胸部画像教室』(日本医事新報社)
 →やさしイイがセンスイイ
・『一気に上級者になるための麻酔科のテクニック』(三輪書店)
 →そんな方法あるの?
 やさしい○○、○○するだけ、必ずうまくいく!○○、確実にできる○○などと書いてある本は、初学者や一歩先を目指す医師の手に取られやすいです。「難度」は、「難しいと思われているものがより簡単にできる・わかる」タイプのタイトルの本の人気が高いようです。


◆「網羅性」
・『これ一冊で小外科、完全攻略 持っててよかった!』(日本医事新報社)
 →これ一冊でいいんだ!
・『心電図の読み方パーフェクトマニュアル』(羊土社)
 →これさえわかればパーフェクトだ。
 ○○ガイドライン、○○マニュアル、完全○○など。ただし「網羅性」のあるタイトルは安心はできますが、タイトルが堅いものだと目新しさがないことがあり、その場合は中身で勝負する必要があると思います。


◆「読者対象」
 そのほか、対象を絞っているものは、読者に自分に向けられた本と感じさせる効果があります。○○のための、ジェネラリストのための、レジデントのための、ナースのためのなど。「みんなの」などという、ちょっとずるいタイトルのものもあります。
 皆さんも実際に医学書店に足を運んだり、自分の病院の医局や図書室の本棚を見たりしてみましょう。医学書の中にも興味を引くタイトルはたくさんあります。医学書と一口にいっても、やや堅苦しい教科書的なものから寝っ転がりながら読める参考書・読み物的なものまでさまざまです。本の性格とタイトルがあまり乖離しすぎないように気をつけながら、まずは楽しんでタイトルをつけてみてはどうでしょうか。
 ただしタイトルを一生懸命考えたとしても、そのタイトルがそのまま採用されるとは限りません。企画段階でのタイトル作りは「ベストセラーのため」というよりは、「企画会議での編集者の目を引くため」と心得ましょう。それから仮タイトルになるかもしれませんが、本気で考え抜いたタイトルをつけることで「これから執筆しようとしている原稿の軸をぶれさせないため」などと考えた方がよいでしょう。

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【「2度見」させるタイトル!】②サブタイトル 

 サブタイトルはつける場合とつけない場合があります。サブタイトルをつける場合は、タイトルと同じことを言っても仕方なく、タイトルだけで伝えられなかったことを補足する目的でつけることになります。前述の『さおだけ屋はなぜ潰れないのか?』(光文社)は、タイトルだけだと何の本だかよくわかりませんが、サブタイトルまで読むと「身近な疑問からはじめる会計学」とあり、「ああ、会計学について書いてある本なのか」とわかります。


 医学書は一般書に比べてサブタイトルがついているものが少ないように感じます。しかし効果的につけると、対象読者を増やすことができます。たとえば「経食道心エコー」と書かれただけのタイトルではそのまま素通りされてしまいそうですが、タイトルに『初心者から研修医のための経食道心エコー』(真興交易医書出版部)、そしてサブタイトルに「部長も科長もみんな初心者」とついていたら、初学者だけでなく上級医まで手にとりやすくなります。また、「部長も科長もみんな初心者」と表現を崩してあるので、気楽に読めそうな印象があり、やはり購入の敷居が下がると思います。


【「2度見」させるタイトル!】③キャッチコピー

 キャッチコピーはタイトル同様、うまくいくとそれだけで本を手に取ってもらえるようになります。以前私が本屋さんに出かけた時のことです(私よく本屋さんに行くんです)。新書コーナーに『死刑執行人サンソン』(集英社)というタイトルの本が面陳列(表紙が見えるように置くこと)されていました。サブタイトルは見えませんでした。いえ、この表現は正確ではありません。ありのまま起こったことを話しますが、「新書が並んだ本棚の前を通りかかった。面陳列されている本を見たら表紙に荒木飛呂彦さんの書いたキャラクターがいた。タイトルを見たら死刑執行人サンソンと書かれていて、気がついたらいつのまにか本を手に取っていた」のです。何を言っているのかわからないかもしれませんが、これが正しい表現です(わかる人にはわかるはず)。荒木飛呂彦さんと言ったら、言わずと知れた『ジョジョの奇妙な冒険』(集英社)の作者です。「ジョジョ好き」の私は、帯に書かれた荒木飛呂彦さんのイラストというキャッチコピーに見事につかまり、文字通りキャッチされてしまったのです。申し訳ないことに、「死刑執行人」には興味はなかったのですが、このようにキャッチコピーには本当にそれだけで本を手に取ってもらえる効果があるのです。

 『本を出したい人の教科書』(講談社)には、タイトルが0.3秒、サブタイトルが3秒、キャッチコピーは30秒でわかることを書くように述べられており、参考になります。「サブタイトルは補足説明」「キャッチコピーは帯」と押さえておくとよいでしょう。サブタイトルもキャッチコピーも、タイトル同様、勉強すると奥が深いのですが、ここではこのあたりにしておきます。いずれも企画書のとおりに決まることはありませんので、考えすぎて肝心の企画書作成や原稿執筆が止まらないようご注意を。

(続く)


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