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【アフターコロナ】ITを積極的に活用して、患者主体の医療に

新型コロナウイルス感染症(COVID-19/以下新型コロナ)の拡大は、私達の生活に大きな変化をもたらした。なかでもリモートワークやオンライン授業など、ITを活用した新しい生活様式は、ニューノーマルとして定着しつつある。医療の分野でもオンライン診療などITの活用は進んでおり、今後はもっと大きな変化が起こりそうだ。アフターコロナに向け、ITの活用で医療がどのように変わっていくのかを考えてみる。

対面診療の壁を打ち破る最新医療デバイスが続々登場

新型コロナで注目を集めたオンライン診療だが、現状はなかなか普及が進んでいない。その理由の一つとして、触診や検査などで得られる診察に必要な情報が対面診療に比べて少ないという問題がある。現在、そうしたオンライン診療の抱える物理的制約の壁を越えるべく、さまざまなデバイスの開発が進んでいる。

その一つが、離れた場所でも聴診が行える「デジタル聴診器」だ。実際にオンライン診療で利用する実証実験[1] も始まっており、音響機器メーカーなど数社が開発を競っている。音声をデジタル化することで、環境ノイズを減らしたり、心音、肺音を強調して抽出したりといったことも可能だ。視覚情報が頼りのオンライン診療に聴診が加わることで、診察の質の向上が期待される。 

また、2020年9月には順天堂大学が世界初となる3次元でのオンライン診療システムを開発したと発表した[2]。患者の3次元動作情報を 、医師のヘッドマウントディスプレイに映し出すことで、まるで患者が目の前にいるかのような感覚で診察ができる。5Gが普及すれば実用が可能になる。情報が3次元になったことで、患者の動きがよりリアルに観察できるようになり、神経科や整形外科領域のオンライン診療でも活用できると注目されている。 

アプリやデバイスで“医療”が生活の一部になる

私達の生活に欠かせなくなったスマートフォンなどのデバイスを、医療に活用する動きも進んでいる。2020年8月には、株式会社CureAppが開発したニコチン依存症治療アプリが、厚生労働省に薬事承認され[3] 、今年度中の保険適用を目指している。他にも、国内外の製薬会社によって、糖尿病の管理指導用アプリ[4] やうつ病治療アプリ[5] 、不眠症治療アプリ[6] などが続々と開発中で、投薬による治療と併せてアプリを活用するという時代が到来している。 

また、身体に装着することで体温や血圧、呼吸など、患者の日常生活のデータを取得できる「ウェアラブル端末」も、医療分野での活用が進められている。武田薬品工業は米国Verily社のStudy Watchを使い、パーキンソン病患者のバイタルサインや運動症状などの解析を行う研究を開始。[7] 新たな介入療法の開発などに生かされることが期待されている。

普及の障壁となる保険適用とITリテラシー

さまざまな可能性を秘めた医療へのIT活用だが、広く普及するにはいくつか乗り越えなくてはならない課題もある。その一つが保険適用の壁だ。
例えば、治療用アプリなどは、現在リリースされているニコチン依存症治療アプリが保険適用の見通しがあることからも、今後は「薬」に並ぶ治療の選択肢として認められていく可能性が高いと言えるだろう。

一方で、3次元でのオンライン診療機器などは、実際のオンライン診療に導入するには、パソコンやヘッドマウントディスプレイなどの導入コストや5Gなどの高速通信の整備が必須なることから、保険適用となるのはまだまだ先になると思われる。また、今後次々と開発されるであろうITを活用した新しい形の医療テクノロジーを、従来の保険制度で正確に評価ができるかと言われれば、難しい場合も出てくるだろう。 

現在、さまざまなベンチャー企業が医療IT分野へ参入を進めているが、「保険が適用されるか」どうかは、採算性を取るための大きなネックになってくる。その技術が、どれだけのベネフィットを医療関係者や患者に与えることができるのかを正当に評価し、新たな医療として保険の適用を認めることができるかどうかが、IT活用推進の大きなカギとなるだろう。

また、もう一つの障壁となるのが、医療従事者と患者のITリテラシーの低さだ。オンライン診療が大きく普及しない要因の一つは、病院をよく利用する高齢者がスマートフォンやPCの操作に不慣れだというのも事実だ。

ITを活用するためには、患者側にはアプリやデバイスなどを使いこなす知識が必要とされ、医療従事者の側には機器類の操作やデータを読み解く力などが求められる。IT化の恩恵を享受するには、私達も負けずに進化していくことが必須であろう。 

ITの利用で身近になる医療 自らの健康に積極的に関わる時代へ

このように、ITを上手く活用できれば、医師と医師、医師と患者が離れていても多くのデータをやり取りすることができるようになり、病院へ行かなくても離れた場所から医療へのアクセスが可能になる。「専門医がいる病院が遠い」「高齢で受診が大変」といった物理的な制約がなくなることは、多くの人にメリットをもたらすだろう。 

また、患者が治療のためにアプリやウェアラブル端末を利用するようになると、病院に行くときだけでなく、日々の生活の中でも医療とつながることができる。その結果、自分の体調の変化に意識が向き、治療の継続率が高まったり、病気の進行抑制効果がもたらされたりといったことも期待できるだろう。 

こうしたITの活用促進は、病気を防ぐために健康を管理していく「予防医学」とも相性がいい。生活習慣病などの予防には、アプリやウェアラブル端末を利用して健康管理を行うことが効果的だ。また、忙しくて健康診断のアフターフォローに行けないという人にとっては、オンライン診療はとても利用しやすい受診形態だ。 

高齢化社会を迎えた今、自らの健康を管理し、病気の治療へ積極的に関わっていくというのは、これ以上医療費を増大させないためにも大切なことである。また、新型コロナの拡大で経験したように、一人ひとりが健康管理を主体的に行っていくということは、自分の生活だけでなく社会全体を安定させることにもつながる。「医療をもっと豊かにするために、ITを積極的に利用する」という意識を医療従事者と患者が持つことが、今後の医療を大きく変えていくのではないだろうか。


[1]スマホ通し聴診・薬は郵送 仙台市でオンライン診療実験(朝日新聞 2020年8月19日)
https://www.asahi.com/articles/ASN8L6TPBN8LUNHB001.html
[2]順天堂大学 3次元オンライン診療システムを開発
https://www.juntendo.ac.jp/news/20200917-01.html
[3]アジア初、医師が処方する「治療用アプリ」が国内で誕生
https://cureapp.blogspot.com/2020/08/blog-post_21.html
[4]大日本住友製薬「Save Medical と大日本住友製薬による 2 型糖尿病管理指導用
モバイルアプリケーションの共同開発契約締結および治験開始のお知らせ」
https://savemedical.jp/wordpress/wp-content/uploads/2020/08/ne20200803-1.pdf
[5]田辺三菱製薬 「認知行動療法アプリに関する京都大学、国立精神・神経医療研究センターとのライセンス契約締結のお知らせ-日本初のうつ病治療用医療機器アプリをめざして」
https://www.mt-pharma.co.jp/news/2020/MTPC200901.html
[6]SUSMED 不眠症治療アプリ
https://www.susmed.co.jp/
[7]武田薬品工業「Verily社のStudy Watchを用いた日本人のパーキンソン病患者の運動症状を解析する 共同臨床研究について」
https://www.takeda.com/jp/newsroom/newsreleases/2018/20181218-8031/

■著者プロフィール 
西村 陽子(にしむら ようこ)
人材派遣会社営業、TV番組リサーチャー、子育て講座の講師(現職)を経て、2008年よりライターを始める。医療、美容、生活、子育てなどの分野で幅広く執筆している。アプリを開発する長男、AIを使いこなす次男に刺激を受け、ITの勉強中。【医療×IT】が患者、医療従事者にもたらすメリット(幸せ)を伝えられるようなライターを目指す。モットーは既存の価値観にとらわれず、柔軟であること。
日本化粧品検定1級、コスメコンシェルジュ、美肌食マイスター初級、薬膳漢方マイスター、認定子育てアドバイザー、実用日本語教育能力検定試験合格。
https://note.com/acacia49http://acacia.her.jp/

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