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コロナ禍でも、当たり前の対応をしてくれる医療従事者に“ありがとう”

この記事は、2020年8月から受講している『オンラインで学ぶ医療ライティング添削講座』の課題として書いたものです。毎回提示されたテーマに基づいて執筆をするのですが、今回は「コロナ禍で大変な苦労をされている医療従事者への感謝のメッセージ」というテーマでした。

何を書こうか迷いましたが、新型コロナウイルス感染症(COVID-19・以下、新型コロナ)が猛威をふるう中で妻が精神を患って入院し、医療従事者には感謝してもしきれないほどお世話になったこと、そして「ありがとう」という気持ちを、文字にするのがベストだという結論に達しました。

読者の皆さんの参考になるか自信はありませんが、ここ数ヶ月の体験を通して感じたことをお伝えします。

自治体の保健師さんに「ありがとう」

2020年4月29日の朝、目覚めると前日まで何でもなかった妻の様子がヘンです。床の上で四つん這いの奇妙なポーズを取って、意味不明の言葉を口走っています。それからトランスに入ったような状態が続き、意思の疎通ができなくなりました。結婚して5年になりますが、こんなことは初めてです。

妻からは、私と知り合う何年も前に精神を病んで入院したことがあると聞いていました。それが再発したに違いないと、スマホで近くの精神科を調べて片っ端から電話をかけました。

しかし、病院からは“新型コロナ対策のため、紹介状のない患者さんはお断りしています”という返事。他も似たような対応で、緊急事態宣言のせいだとは思いますが、医療機関にすぐ診てもらえないことに愕然としました。

どうしようかと途方に暮れながら、私が住んでいる地域版のタウンページをめくりました。ワラにもすがる思いでそこに記載されている自治体の「健康づくり課」に電話をすると、保健師さんが対応してくれました。そしてすぐに医療機関を探してくれて、その日のうちに家から30分ほどの精神科クリニックで診察を受けられることになりました。

緊急事態宣言が出されたタイミングで、自治体もいろいろな対応に追われていたことでしょう。そんな状況でも突然の電話に丁寧に対応してくれた保健師さん、ありがとうございました。

クリニックの女医さんに「ありがとう」

妻は精神科クリニックに週1回のペースで通い、薬をもらいながらカウンセリングを受けました。カウンセリングは、新型コロナ対策のため、女医さんと私たち夫婦の間は透明のビニールシートで仕切られ、十分な間隔が保たれている中で行われます。

院長でもある女医さんは毎回1時間以上、過去の様子も含めて話をじっくりと聞いてくれました。

以前の入院が2007年で、仕事や人間関係の悩みが重なって精神を病んでしまったこと。心配になって家を訪ねてきた職場の同僚が、気を失って倒れている妻を発見して救急車を呼んでくれたこと。それから精神科病院に入院したことなど、私の知らなかった詳細が明らかになりました。

クリニックに通い始めてから妻の様子は多少落ち着いたものの、夜中に突然絶叫したり、足をバタバタ踏み鳴らしたり、「ここ(家)にいるのが怖い」とわめいたり、発作的な急変が度々起きました。

ある朝カーテンの紐に首をかけようとして、私が慌てて止めたこともありました。“死ね”とささやく知らない男性の声が聴こえたというのです。

これはもう入院させるしかないとクリニックに相談したところ、以前入院した病院が良いだろうと紹介状を書いてくれました。人との接触を最低限にしなければならないと言われる中で、毎回1時間以上も話を聞いてくれた女医さん、ありがとうございました。

精神科病院の皆さんに「ありがとう」

入院先は、郊外の閑静な環境にある590床の精神科病院。ホームページに記載された番号に電話をして「なるべく早く入院させたい」と伝えると「今日から受け入れられます」という返事でした。“新型コロナ対策のため断り”という返事もあり得ると覚悟していたので、本当に救われた気分になりました。入院は5月26日。妻が具合を悪くしてから約1ヵ月が過ぎていました。

車で約1時間かけて病院へ到着するとすぐに体温チェックと面接が行われ、妻は病棟の扉の向こうへ消えて行きました。それから2日後、妻の担当になったソーシャルワーカーさんから電話があり、主治医との面談が決まりました。

その翌週に初めて顔を合わせた主治医の先生は「まだ意思の疎通が難しく、病名の診断もできかねる。しばらくは何種類かの薬を試して様子を見る」と、厳しい状況を口にしました。いろいろと判断に迷っている様子に私は心配になりましたが、面談を重ねるにつれて不安は解消されていきました。心の病は一朝一夕で治るものではなく、先生は真剣に妻に向き合ってくれていることがわかってきたのです。

ソーシャルワーカーさんは、何も知らない私に医療費の補助制度などいろいろなことを教えてくれました。「病院のスタッフから新型コロナの陽性者が出てしまったので、面会を制限します。本当に申し訳ありません」と、電話をくれたこともありました。おそらく私以外の患者家族にも、1軒ずつ同じ電話をしていたことでしょう。本当に大変な苦労だったと思います。“いいえ、貴女が謝ることはありませんよ”と、思わず返事をしてしまいました。

この間に妻は「統合失調感情障害」と診断され、症状も徐々に改善していきました。7月には日帰りの一時帰宅、8月上旬には1泊の一時帰宅ができるまでになり、8月25日の退院を勧められました。私は正直なところ“まだ早すぎるのではないか”と思いましたが、それから約1ヵ月を経た現在まで問題は起きていません。今になって振り返ると、病院が提示した退院日に従って正解だったと思います。

妻はこのように、入院生活を振り返ります。
「スタッフの皆さんは常に新型コロナ対策のために消毒液を持ち歩き、時には防護服を着ながら24時間頑張っていた。主治医の先生、ソーシャルワーカーさん、看護師さん、作業療法士さん、食事の配膳や清掃の皆さん、そして出入りの業者さん……、本当にいろいろな方が支えてくれた。とくに「困ったことは相談してね」という看護師さんの一言が嬉しかった」。

現在妻は外来通院し、引き続き同じ先生に診てもらっています。まだ完全に良くなったとは言えませんが、家事や買い物はできるようになりました。入院前の状況を思えば、よくここまで回復したものだと思います。

“当たり前の仕事”をした医療従事者の皆さんに「ありがとう」

改めて振り返ると、本当にいろいろな立場の医療従事者に助けられました。皆さんには、感謝の気持ちでいっぱいです。それが仕事なのだから、やってくれて当たり前だという意見もあるかもしれません。しかし医療現場にとどまり“当たり前のことを当たり前に”黙々とこなす皆さんの働きがなかったら、私たち夫婦は救われませんでした。

ましてやコロナ禍という、普通ではない状況です。それでも自治体からクリニック、病院へとバトンがつながれ、平常時とほとんど変わらない医療サービスを受けれられました。これはまさに、奇跡に近いことではないでしょうか。

医療従事者の皆さんは患者のケアだけでも大変でしょうに、それに加えてコロナ対策まで行うのは想像を絶する負担だと思います。高い使命感がなければ、投げ出してしまう仕事かもしれません。心から「ありがとう」を伝えたいと思います。

■著者プロフィール 
長濱慎(ながはま しん)
都市ガス業界のPR誌で約10年、エネルギー・環境分野のオピニオンリーダーへのインタビュー、全国各地の事業者の取り組みについて取材執筆を担当しました。現在は医療ライターの修行中です。医療は人々の生命と健康を守る大切な分野なので、緊張感と使命感を持って伝わる記事を執筆したいと考えています。

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