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【オンライン診療】LINE来航。医療界の門戸を開く5つの強み


コミュニケーションアプリ「LINE 」を提供するLINE株式会社と、医療関連サービスを提供する株式会社エムスリーが共同で立ち上げたLINEヘルスケア株式会社は、オンライン診療サービス「LINEドクター」を2020年11月から提供することを発表した。圧倒的ユーザー数を誇る日本最大のソーシャルメディアは、医療界にどのようなインパクトを与えるのだろうか。 


なかなか普及の進まないオンライン診療にLINEが参入

新型コロナウイルス感染症(COVID-19/以下新型コロナ)の拡大を受け、厚生労働省は2020年4月にオンライン診療の対象を初診にまで広げる時限的な措置を発表した。日経メディカルが2020年5月に行ったアンケート[1] によると、電話またはオンラインによる診療を行った医師は半数を超えている。

しかし、その多くは電話による再診で、スマートフォンやパソコンを使ったオンライン診療の利用は一割程度だ。普及が進まない原因は、「初診の難しさ」や「導入コスト」「ITリテラシーの低さ」などが挙げられる。LINEドクターはオンライン診療の普及にどのような影響を与えるのか、LINEの持つ強みから検証してみる。 


【強み1】すべての年代で圧倒的なシェア 70代でも利用率46.2% 

NTTドコモのモバイル社会研究所が2020年1月に行った調査[2] によると、LINEは10代から70代まで幅広く利用され、その利用率は72.6%と圧倒的な高さを誇る。医療機関をよく利用する高齢者への普及も進み、60代で61.1%、70代でも46.2%が利用している。

このように、LINEの最大の強みはオンライン診療に必要な「オンライン」の環境がすでに多くの国民との間に築けているという点だ。LINEが多くの国民にアクセスできるという強みは、厚生労働省の新型コロナへの健康調査にも利用されている。「LINEドクター」はすでに広く利用されているLINEを利用できる点で、一気に幅広いユーザーを掴む可能性を持っている。 

【強み2】LINEで友達登録するだけ!アプリのインストールも不要

既存のオンライン診療サービスは、専用アプリのインストールやアカウント登録が必要であることが多い。新しいアプリを利用することは、スマートフォンを使い慣れている世代にとっては苦になることは少ないが、高齢者などでは難しいと感じる人も多いのではないか。

実際、いくつかのオンライン診療アプリのレビューを見てみたが「エラーが出て進めない」「アプリが強制終了される」「解約できない」といった声が散見された。 

「LINEドクター」はLINEアプリの中にあるサービスの一つなので、新たなアプリをインストールする必要がない。ユーザーはLINEアプリを立ち上げ、サービス一覧から「LINEドクター」を選択、友達に追加するだけだ。ふだんから使い慣れているLINEで簡単に始められるというのは、ITリテラシーの低い人にとって、使いやすいサービスであることは間違いないだろう。 

【強み3】受診前の相談から会計までをライン上で完結できる

LINEヘルスケアは、LINEドクターに先立ち、2019年12月にLINEでのオンライン健康相談サービスを開始している。これは、LINE上で医師に「今すぐ病院に行くべきか?」「何科を受診すればよいか?」といった相談ができるサービスだ。

オンライン 健康相談も、LINEアプリから「LINEヘルスケア」を友だち追加するだけで利用が可能だ。さらに、LINEにはクリニック検索や会計(LINE Pay)などの機能も備わっているため、オンライン診療に関わるすべての流れがLINE上で完結できるという、とても利便性の高いサービスになっている。 

【強み4】患者、医療機関とも手数料が無料

医療機関でのオンライン診療の導入が進まない理由の一つが、導入や運営にかかるコストの問題だ。既存のオンライン診療サービスにかかる費用を比較してみた。 

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既存のオンライン診療サービスは導入費用や月額費用が掛かるサービスがほとんどである。導入費用、月額費用無料のcuronに関しては、患者側に1回の診療につき300円の料金が掛かるのがネックだ。LINEが提供を始めるBasic Planは、患者側も手数料が無料というのは大変魅力的ではないだろうか。 

【強み5】AIとの連携でさらなるサービス向上の可能性も

LINEはヘルスケア部門以外にもさまざまなサービスを提供しており、最近力を入れているのが「人に優しいAI」だ。AIを使った高度な会話ができるチャットボットは、ユーザーの問い合わせや予約、キャンセルなどに無人で対応が可能で、現在、飲食店の予約や宅配便の再配達受付などに利用されている。この機能がLINEドクターに搭載されれば、オンライン診療に対する問い合わせへの対応や予約の変更、キャンセルなどに人員を割く必要がなくなるだろう。

また、AIを使ったOCR(光学文字認識)を利用すれば、スマートフォンを診察券にかざすだけで、名前や診察券番号を読み取ることも可能になる。AIの効果的な活用によって、オンライン診療の利便性はさらに高まることが期待される。

ネックは医療に求められる安全性と信頼性

LINEの持つ強みを上げてみたが、参入に関しては否定的な意見もある。無料ということで、個人情報や診療情報を吸い上げられるのではという声も聞かれる。

また、今回医療関連サービス会社のエムスリーと組んではいるが、LINE自体は医療業界では新参者。患者側との距離は近い企業だが、医療機関や医師とよりよい関係を築けるかは未知数だ。また、LINEヘルスケアの健康相談では、特定の医師が不適切な回答をしたとして、利用規約違反で登録停止されるという案件も発生している。

LINEドクターが今後オンライン診療サービスとして選ばれるためには、コストや利便性だけでなく、医療を扱う上での信頼性や安全性といった質の高さを、どれだけ実現できるかが重要となってくるだろう。 

LINEのインパクトがオンライン診療の質を上げていく

Withコロナの時代において、オンライン診療は感染予防だけではなく患者の利便性向上や治療の継続促進、医療の人材不足の改善など、さまざまなメリットをもたらす診療形態として注目されている。

しかし、日本においてはオンライン診療がなかなか進んでいないのが現実だ。その原因の一つである「ITリテラシーの低さ」を考えるとき、最も身近なITの一つであるLINEが、医療界と患者を結ぶ意味は大きい。 

LINE社は企業理念に「CLOSING THE DISTANCE(距離を近づける)」を掲げている。人と人、人と情報・サービスの距離を縮めるという意味だ。コロナ禍では、感染防止のため人と人との物理的距離が必要とされている。このような状況下で、LINEが医療と人との「心の距離」を縮めることができれば、その意義は大きいのではないだろうか。

オンライン診療がもっと身近なものになれば、利用者が増え、LINE含む各社の提供するオンライン診療サービスの質も上がっていくだろう。LINEの医療界への参入が、オンライン診療を日本に根付かせるきっかけとなることを期待したい。

[1]日経メディカル医師3900人に聞いた「電話・オンライン診療を実施しましたか?」
https://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/all/report/t349/202006/565699.html
[2]NTTドコモ モバイル社会研究所 【SNS】LINE利用率72.6%・10代は9割超えhttps://www.moba-ken.jp/project/others/sns20200629.html
[3]
CLINICS https://clinics-cloud.com/online/price
curon https://curon.co/
ポケットドクター https://www.pocketdoctor.jp/med/
YaDoC https://www.yadoc.jp/signup
日経メディカル「第2波に備えよ!オンライン診療システム比較」  https://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/mem/pub/report/t349/202006/566053.html

■著者プロフィール 
西村 陽子(にしむら ようこ)
人材派遣会社営業、TV番組リサーチャー、子育て講座の講師(現職)を経て、2008年よりライターを始める。医療、美容、生活、子育てなどの分野で幅広く執筆している。アプリを開発する長男、AIを使いこなす次男に刺激を受け、ITの勉強中。【医療×IT】が患者、医療従事者にもたらすメリット(幸せ)を伝えられるようなライターを目指す。モットーは既存の価値観にとらわれず、柔軟であること。
日本化粧品検定1級、コスメコンシェルジュ、美肌食マイスター初級、薬膳漢方マイスター、認定子育てアドバイザー、実用日本語教育能力検定試験合格。
https://note.com/acacia49http://acacia.her.jp/


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