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LINEヘルスケアからLINEドクターへ。越えるべき公共性の壁

はじめに

2020年4月、新型コロナウイルス感染症(COVID-19:以下新型コロナウイルス)の感染拡大に伴う時限的、特例的な対応として、初診からのオンライン診療が認められるようになりました。

それを契機に、LINEとエムスリーの合弁会社であるLINEヘルスケア社では、同年11月をめどに、オンライン診療に本格参入すると表明しました。

同社はすでに、健康相談サービスとして同名の「LINEヘルスケア」を開始していますが、具体的にどのような点が異なるのか、把握しづらい方も多くいらっしゃるのではないでしょうか。

ここでは、LINEドクターが具体的にどのようなサービスで、どんな方向性を進もうとしているのかについて解説していきます。

また、LINEドクターに期待できる点や、潜んでいる問題点についても述べていきます。

LINEヘルスケアとはどのようなサービスなのか

「LINEヘルスケア」とは、2019年12月より開始した、健康相談サービスです。日本国内において、8000万人以上が利用しているといわれるSNSサービス「LINE」から、直接医師に相談でき、新規に専用のアプリをインストールせずに利用できるのが特徴です。

誤解を招きやすいところですが、この「LINEヘルスケア」は、あくまでも健康相談サービスのため、症状から病名を特定することや、薬の処方といったような診療行為を行うことはできません。

これまで、無料でサービスを提供してきましたが、2020年10月1日午前0時より、サービスが有料となります。料金は「いますぐ相談する」では30分2000円、「あとから回答をもらう」では1000文字1000円です。

LINEドクターとLINEヘルスケアの違い

LINEヘルスケア社がこれから始める「LINEドクター」は、以下の点で「LINEヘルスケア」とは異なる点があります。

● LINEヘルスケアは「健康相談サービス」、LINEドクターは「オンライン診療サービス」

「LINEドクター」が「LINEヘルスケア」と大きく異なる点は、後者が「健康相談サービス」であるのに対し、前者は「オンライン診療サービス」である点です。

「LINEドクター」は、LINEビデオ通話を利用して、診療や処方といった診療行為が、オンライン上で受けることができることが、その大きな違いです。

診療費や薬剤費、自宅への薬剤の配送料は別途かかるものの、オンライン診療を受ける際の追加手数料がかからないことが、LINEヘルスケア社からアナウンスされています。

将来的には、薬剤師による服薬指導や、薬の自宅での受け取りなどについてサービスを拡大することも、LINEヘルスケア社は視野に入れています。

● 全てがLINE上で完結する

「LINEドクター」は、クリニックの検索や予約、実際の診療、そして決済までの全てをLINE上で対応できることが特徴です。「LINEヘルスケア」同様、新たなアプリをダウンロードすることなく、サービスが受けられることが最大の強みとなります。

新型コロナウイルスの感染拡大に伴う、時限的、特例的な対応として、初診からLINEドクター上で診療が受けることが、当面の間は可能となります。

なお、上記の対応が終了した際は、初診に関しては、医療機関で対面診療を行い、オンライン診療については、医師の判断において対面診療と組み合わせて行うこととなっています。

【参考】「対面診療」と「オンライン診療」について
医師による診療の方法は「対面診療」と「オンライン診療」の2種類があります。「対面診療」とは、患者が医療機関へと足を運び、医師と直接顔を合わせて診療や処方を受けるという、従来から行われている方法です。

一方「オンライン診療」とは、スマートフォンなどの情報通信機器を用いて、画像や音声で医師とやりとりしながら、診療や処方を受ける方法です。オンライン診療では、予約から決済まで全てのプロセスを、オンライン上で完結することができます。患者側のメリットとして、場所を選ばず受診でき、医療機関への往復の手間や、診察や会計の待ち時間を省くことができる点が挙げられます。

また、不特定多数の人と直接顔を合わせることがないため、プライバシー保護の面や、新型コロナウイルスなどの感染症を予防する面においても有効です。オンライン診療の欠点としては、触診ができない点と、患者の顔色や様子が、画面からでしか判断できない点が挙げられます。

LINEドクターに期待できることとは

● 手間やコストの問題を解決できる

オンライン診療については、患者側の利用にあたっての手間や、医療機関側の導入にあたってのコストといった面が、普及の大きな妨げになっていました。LINEドクターでは、既存のアプリやインフラストラクチャーを活用できることから、これらのハードルを一気に下げる期待が大いに持たれています。

● LINE世代の間で普及がしやすい

LINEに慣れ親しんでいる世代においては、その活用機会が増えることが考えられます。例えば、子供を持つ親で、コミュニケーションツールとしてLINEに親しんでいる世代にとっては、家事やテレワークの合間に、子供の診察が手軽にできることが期待されます。

また、症状が安定していて触診の必要もなく、薬の処方も変更がない場合は、LINEビデオ上で診察や処方を行うことによって、通院の手間を省くことができるようになります。

このように、仕事や家事で忙しい場合や、受診する医療機関が遠い場合、LINEを使ってその場で受診できることは、患者やその肉親にとって、通院の手間を省ける面において、大きなメリットが期待されます。

LINEヘルスケアで生じたトラブル

● 物議を醸した不適切回答と情報の質

「LINEヘルスケア」の健康相談サービスにおいて、ある登録医師が暴言を伴う不適切な回答を行った件は、記憶に新しいところです。医療や健康に関する不適切な情報としては、DeNA社の医療メディア「WELQ」が問題になり、閉鎖に追い込まれた例が挙げられます。

WELQの場合は、医学的知識のない不特定多数のライターによる、根拠のないでたらめな記事が問題になりました。サービスを急速に立ち上げるために、回答する側をできるだけ多く集めようとすると、運営側は募集資格のハードルを下げざるを得なくなります。

また、多くの質問に答えようとするために、その回答に対して精査する手間を、運営側は極力省こうとします。回答する側の資格を制限せず、その回答の内容を吟味するシステムが欠落すると、情報やサービスの質は低下する傾向に陥ります。

● 助言する側、される側の双方が匿名であることの弊害

LINEヘルスケアでは、募集の際に、医師確認書類および本人確認書類の提出を必要としており、先に挙げたWELQのように素人が紛れ込むというリスクはありません。ただ、募集科目における専門医資格は必要とせず、例えば、整形外科の専門医が専門外の内科の相談を受けることが物理的に可能です(以上、参考1)。

また、プロフィールの内容も医師の任意で編集できるため、医師のフルネームや所属している医療機関、住所や連絡先を伏せて、プロフィール上に掲載することも可能です。そのため、不自然あるいは不完全なプロフィールの医師が登録されており、その質が疑わしい点が挙げられています。

虚偽とみられる資格を登録している医師や、対応診療科の範囲が不自然に広すぎる医師が登録されているケースもあります。LINEを利用するサービスの性格上、LINEヘルスケアは、医師と患者の双方が匿名で参加することが可能となっています。

インターネット掲示板やツイッターなどのように、匿名で参加できるサービスは、時として差別を伴う過激な発言や、炎上をもたらしてきました。匿名の医師が、匿名の患者にアドバイスを行うことは、お互いのモラルハザードを引き起こすおそれもあります。

いかに登録医師の質を保障していくのかとともに、匿名での参加についての見直しも、今後の課題と言えるでしょう。

● 医療機関単位での実名による登録によって、質はある程度担保できる

LINEヘルスケアでは、医師個人単位で登録されているため、医師個人の資質が問われる面が大きく、プロフィールだけでは判断しにくい部分も多くあります。

一方、LINEドクターにおいては、医療機関単位での登録となり、診察や決済も行うことから、検索された医療機関の具体的な地域や実名が分かるようになるのは確実です。そのため、検索された医療機関の評判や口コミが調べやすくなるので、LINEヘルスケアのような問題は起こりにくいと考えられます。

また、LINEヘルスケアは健康相談サービスのため「自由診療」に属するのに対し、LINEドクターはオンライン診療サービスであるため「保険診療」となります。保険診療は「公的医療制度の対象となる診療」となるので、自由診療に比べて様々な規制があります。

LINEドクターは、公的医療制度の枠組みにあるため、その点においても、サービスの質は担保できると考えられています。

LINEドクターの今後の課題

● 利用にあたってのバリアフリー化をどう推し進めていくか

LINEドクターは、オンライン診療サービスとして、既存のアプリを活用できる点において、非常に高いアドバンテージを有しています。

しかし、お年寄りを中心とした、スマホになじめない層にとっては、依然、ハードルの高いものであることには変わりはありません。

こうした層に対しても、利用にあたってのバリアフリー化をいかに推し進めていくかが、今後の普及のカギを握るのではないでしょうか。スマホやその他のIT環境になじめない層を、いかに取り込んでいけるかが、今後の課題と言ってよいでしょう。

● 医療の特殊性について、LINEヘルスケア社はどこまで理解しているか

医療は「公共性」といった面で、特殊性を有しています。運営母体が民営・公営のいずれを問わず、営利目的による医療機関の開設には、許可が下りないことがある旨、医療法第七条の第六項において明言されています(参考2)。

また、不適切な診療行為が行われた場合、患者の命にも関わってくることがあります。LINEドクターが、公的医療制度の枠組みの中にあるかぎりは、利益を生み出しにくい部分が出てくることは間違いありません。

もしも、LINEヘルスケア社が利益を上げる方向に舵を切った場合、医療機関の審査や登録、そしてモニタリングが甘くなる可能性がないとは言い切れません。これらの体制が甘くなったところで再び、不適切な診療が行われてしまうおそれも生じてきます。

LINEヘルスケア社が、医療の「公共性」や「命に関わる部分」をどこまで理解しているかによっても、サービスの永続性を左右することになるでしょう。

まとめ

LINEヘルスケアとLINEドクターのサービスの違いとして、LINEヘルスケアは「健康相談サービス」、LINEドクターは「オンライン診療サービス」であり、どちらもLINE上で完結できる点が特徴です。

既存のアプリやインフラストラクチャーを活用できることから、医療機関および患者の双方でかかりうる、あらゆるコストを省き、特にLINEに慣れ親しんでいる世代の間での普及が見込まれます。

一方、LINEヘルスケアで問題となった不適切な対応を機に、医療機関および医師の審査や登録体制、モニタリング体制について、一層の改善が望まれます。

オンライン診療に参入する以上、LINEヘルスケア社は、医療の公共性や命に関わる部分に携わるという、自覚と責務を持つ必要があるでしょう。

さらに、突発的なシステム運用上のトラブルなどにも、迅速に対応できる体制づくりを進めていけば、サービスへの信用度は高まるのではないでしょうか。

LINEドクターは、オンライン医療サービスとしては、高いポテンシャルを秘めています。さらなる普及のカギを握るのは、LINEに親しみのない層に対して、安心と信頼をもって、いかに取り込んでいくかという点に尽きるでしょう。

(参考1)LINEヘルスケア・エムスリー 医師募集サイト
https://m3comlp.m3.com/lp/m3com/LHC20191227LP 

(参考2)医療法 第七条
「6 営利を目的として、病院、診療所又は助産所を開設しようとする者に対しては、第四項の規定にかかわらず、第一項の許可を与えないことができる。」厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=80090000&dataType=0&pageNo=1

※医療法
https://elaws.e-gov.go.jp/search/elawsSearch/elaws_search/lsg0500/detail?lawId=323AC0000000205#233

■著者プロフィール
平賀 知(ひらが さとる)
大学卒業後、自動車、電機メーカーを経て、プラスチック成形工に。
2011年より、医療機器販売会社で一般事務職として勤務。文章を書くことに強い関心があり、2013年ごろからクラウドソーシングサイトを利用して、文章を書き始める。
これまで、所属する武道団体の試合記事や、生活情報・趣味関連のサイトで記事を多数執筆。本業とのシナジー効果を目指すべく、目下、医療関連の記事の執筆にチャレンジ中。

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