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コロナ禍、診療所生き残りのカギは「サービスマインド」

新型コロナウイルス感染症(COVID-19/以下、新型コロナ)の影響により、医療機関の経営状況が悪化している。診療所に限って言えば、2020年3〜5月の入院外総点数が前年同月と比べて16.4%減少しているとの調査結果が出た。新規患者数も伸び悩み、再診患者数も回復していない。経営状況が悪化している診療所が生き残るためにはどうしたらいいのか――。
生き残りのヒントは診療所経営者の意識変革、「サービスマインド」を持つことではないだろうか。

コロナ禍の診療所経営の実態

日本医師会から「新型コロナウイルス感染症対応下での医業経営の状況(http://dl.med.or.jp/dl-med/teireikaiken/20200722_2.pdf)」として、2019年及び2020年3〜5月のレセプト(診療報酬明細書)調査が発表された。この調査によると、2020年3〜5月の診療所総点数が前年同月比で−16.9%、なかでも内科−14.8%、整形外科−15.1%、小児科−35.8%、耳鼻咽喉科は−33.5%であった。

筆者が注目したのは「初診料算定回数」並びに「再診料等算定回数」だ。

無床診療所における初診算定回数は、対前年同月比で3月−31.3%、4月−39.5%、5月−44.7%だ。そのうち5月に関しては、内科−52.6%、整形外科−28.2%、耳鼻咽喉科−43.9%だった。再診料等算定回数は、同比で3月−8.1%、4月−16.7%、5月−18.2%である。また、内科−14.4%、整形外科−17.3%、耳鼻咽喉科−33%だった。

ちなみに無床診療所へのアンケートで、「長期処方の患者数が増えたか」との質問に対して、「大幅に増えた」「やや増えた」と回答した割合が無床診療所の73.8%にのぼった。

この調査からは6月以降の状況が分からないが、経済活動や学校の再開に合わせて多少患者が戻っている可能性もある。しかし、初診患者が2019年と比べて半減しており、再診患者数も2割近く落ち込んでいる状況から、すぐに前年と同様の患者数に戻っているとは考えられない。多くの診療所では、前年に比べて患者数が減少している状態が続いているのではないか。

開業医は意識の変化が必要?

このような状況下で、どうしたら診療所は生き残っていけるのだろうか――?
現在、経営難に直面しながらも、目の前の患者のために精一杯の努力をされている開業医は大勢いる。しかし、自らが経営する医療機関がコロナ禍で生き残っていくには、開業医自身の意識改革も必要になってくる。待っていても患者が来る時代は終わった。「医業はサービス業」という意識を再認識する必要があるのではないだろうか。

コロナ禍でも勢いのある診療所の共通項

筆者は2020年1〜9月の間、無床診療所を経営する院長約10人に、経営について取材してきた。その中で、コロナ禍でも患者の減少を1割程度に抑え、今後の展望を明るく力強く語る医師には共通して「サービスマインド」があった。

整形外科の医師は「いかに提供するサービスの価値を高めるか。その視点を意識するためにも、サービス業であることを意識した方がいいと思っています。そうすると例えば、患者に高圧的な態度を取ってしまいそうになったとき、それは良くないと気づくことができるかもしれません。また、目先の利益が減るからと、キャッシュレス決済導入を踏みとどまっているかもしれませんが、例えばキャッシュレス決済によって患者の利便性が高まり、患者への価値提供を1つ増やすことができれば、『また利用したい』と思ってもらえて、結果的に患者数が増えると思います」と言っていた。

あるリウマチ科医は、「今までの習慣で定期受診を続けてきた患者が、『受診によって得られる価値』と『新型コロナ感染リスク』を天秤にかけて、受診継続か否かを考え直していると思います。患者数が減少しているのは、受診によって得られる価値が新型コロナ感染リスクよりも低く、不要不急と判断されたことの現れではないでしょうか。今までの患者への価値提供の結果」と話していた。厳しい言い方かもしれないが、患者へどんな価値を提供できているのかを考え抜いているか否かが、患者数に影響しているということだ。

また、患者のニーズに徹底的に応えることにこだわっていると話す診療所では、どんな検査も実施後30分以内に結果を伝える体制を構築し、健康診断の結果も当日渡している。他にも、レントゲン1枚や内視鏡検査など保険診療で行う項目も含めて全ての料金を診察室や廊下に貼り出し、診察時に患者へ説明している。さらには、スタッフがおもてなしを学べるようにレストランでの研修を実施し、「高級ホテルのような対応をしてくれる」と患者から評価を受けている。ここまで患者のニーズを意識し、サービスの価値を高めているので、コロナ禍でも経営的に大きな打撃を受けていない。

「サービスマインド」で患者への提供価値を高める意識を

いかにして再診患者数を増やすか、初診患者を取り込むか――。その追求のためには「サービス業」としての意識を持ち、どのように患者への提供価値を高めるかを考え抜くことが求められている。

例えば、私たちが食事するレストランを選ぶ際、料理の味以外に、お店の雰囲気、接客態度、サービスの良し悪し、心地いい時間を過ごせるかといった目的に合った食事ができるかなど、さまざまな角度から選んでいる。患者が診療所を選ぶ場合に置き換えると、レストランでいう料理に相当する医療行為自体は、保険診療であればあまり大きな違いがない。つまり、診療行為自体では差別化できないからこそ、サービスマインドを持ち、医療行為以外で患者へ提供する価値を高める努力をしていく必要があるのではないだろうか。

コロナ禍で経営難に陥っている中でサービスマインドを持ち、変化していかなければならないのは、開業医にとって大きな負担だと思う。しかし、1つでも多くの診療所がコロナ禍を乗り越え、本当の意味で患者に寄り添った医療を提供できるようになることを願っている。

■著者プロフィール
北森 悦(きたもり えつ)
大学卒業後、百貨店勤務を経て、2015年より医療系Webメディアでライター兼編集者としての活動を始める。
これまでに、のべ200人の医師にキャリアや開業経営についての取材を重ねてきた。また、妊娠出産や医療ベンチャーなど、幅広く医療に関連する分野で執筆している。


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