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西村康稔氏の『コロナとの死闘』を読んでみたが凄まじい本だった

政治家というものは、人々の生活に多大なる影響を与えるため、時に悪役を引き受けることもあるし、嫌われることもある。しかし大変な仕事であるため、後に政治家の振り返りを読むと「あぁ、そんなに大変だったのか。あの時はただただ罵詈雑言を浴びせていたけど、ちょっと申し訳ないな」ぐらいの感覚は抱くものである。

しかし、西村康稔・前・新型コロナウイルス感染症対策担当大臣/経済再生担当大臣のコロナ振り返りの本『コロナとの死闘』(幻冬舎)を読んでもまったくそのような気にならない。読み終えた感想は「こちらは『コロナ脳との死闘』『意味ないカンセンタイサクとの死闘』、そして『無能専門家・政治家・メディアとの死闘』だよ」としか思えないのである。ホメる点がほとんどない本なのだが、その最大の理由は以下である。

感染症オタクともいえる専門家の提言を真に受け、効果のないことを効果があると信じ込み、その思い込みで日本をアホな方向に突き進ませたことについて「ワシは最善を尽くしたぞ、ドヤ!」とやっている点。

ワシは書評を書くにあたっては、上記のように大事な部分やツッコミポイント部分を折り、蛍光ペンでハイライトを付ける。とにかく、徹頭徹尾、ツッコミポイントだらけなのである。後半、あまり折っていない様子が分かると思うが、これは、来たる参議院選挙で自民党の支持を集めるのと、次期総裁選で西村氏が勝つための政治アピールである。「令和ノミクス」とやらの政策提言をしているが、これは理想論ばかりで取るに足りないものだ。

それにしても、「令和ノミクス」の発端となるこの一文はすさまじい。自身が「経済破壊大臣」と呼ばれていたことを当然知っているだろうに、こう書けるのは心臓に毛が生えているとしか思えない。

私は、コロナ禍は、日本の仕組みを変えていくラスト・チャンスと考えています

そのうえで、デジタル化の推進、東京一極集中の是正、女性・非正規で働く人への支援等ができていなかったことを浮き彫りにしたから、コロナ禍はむしろ「ラスト・チャンス」のきっかけを作ったという。そして「おじさん中心経済からの脱却」を目指し、女性が理系に進むべきだと主張する。ただ単に日本が元々抱えている問題と、コロナを結び付けただけである。

というわけで、本題へ。前提として、コロナはヤバ過ぎる殺人ウイルスではない。2020年初夏あたりまでは未知のウイルスで、重症率・致死率も高かった。西村氏は、第一波の新規陽性者数がピーク時に1日あたり644人となり、その19日後に重症者数はピークとなる328人になったとのグラフを紹介している。これは確かに陽性者が累計数千人出ている中、高い数字である。一方、現在のオミクロンの状況を見てみると、2022年5月13日の重症者数は153名。19日前の4月22日の陽性者数は38674人(私が参照するのは厚労省のデータを基にした東洋経済オンラインのデータ)。そして、この2年4ヶ月の累積陽性者数は797万2191人で、死者数は2万9997人。死亡率は0.38%である人口1億2600万人の日本では毎年140万人が亡くなる。つまり、死亡率は1.11%だ。年代別陽性者数と死者数、そして死亡率も見てみよう。なお、以下の「死者」は、「PCR検査陽性が出た死者はコロナ死」とカウントするため、交通事故で亡くなった人や肺炎で亡くなった人なども含まれる。

80代以上:28万7321人/1万8737人/6.5%
70代:28万6268人/6339人/2.2%
60代:39万8379人/2193人/0.55%
50代:75万6393人/1081人/0.14%
40代:118万6402人/390人/0.033%
30代:123万7145人/114人/0.0092%
20代:141万3317/37人/0.0026%
10代:113万1643人/8人/0.00071%
10歳未満:108万4919人/6人/0.00055%

要するに「寿命」なのである。そして、オミクロンは明らかに武漢株とは別の弱毒ウイルスに変化している。だからこそ、諸外国はオミクロンを風邪の一種と認定し、規制を解除し、人々はマスクを外し、ワクチンのブースター接種もやめた。一方日本はどこに行こうが「カンセンタイサクノテッテイヲー」と金切り声でアナウンスをし、外でもマスク率は99%超。海外の要人と会う時はマスクを外す岸田文雄首相は、マスクを外すのは「現実的ではない」とし、子供達にもマスクは重要だと国会で答えている。

正直、この2年間、上記のようなデータを示し、コロナ脳に対して「コロナはそこまでヤバくない」と言ってきた。しかし、ヤツらは徹底的に数字が読めないのだ。医クラや専門家が言ったことを鵜呑みにするだけである。下記など、実に分かりやすい例である。

これに対してこのように私はツッコミを入れた。馬鹿は見せかけの数字に騙され、それを鵜呑みにしてしまう正直、このような知的レベルの者が多過ぎるため、「コロナはヤバ過ぎる」思想が蔓延し、感染対策神話が終わらないのだ。

初期に設定した「コロナはヤバ過ぎる殺人ウイルス」から2年以上経っても脱却できないのが日本であり、そしてその元凶を作ったのが西村氏をはじめとした政治家、そして政権を2つぶっ潰した尾身茂氏率いる分科会(前身は専門家会議)の無能ぶりと柔軟に考えを変えられない頑固さにあるのだ。とにかく呆れ果てる部分が多過ぎる本なのだが、特に呆れてしまう部分をいくつか引用しよう。まずは、感染対策を徹底した全国の知事を列挙し、感謝するのだが、コレにはズッコケた。

長崎幸太郎山梨県知事は、全国のモデルとなるような飲食店の認証制度に取り組んでくれました

いや、この人さ、ワクチン打ってない人間は外に出るなとか言ったり、卒業式参加の条件がPCR陰性とかとんでもないアイディアマンですよ。挙句の果てにはワクチン3回打って自身がコロナ陽性になるという。何、こんな人を絶賛しているのですか。そして、以下には西村氏の恨みがこもっている。

ほとんどの知事と情報共有、意見交換を行いました。その中で、多くの知事とは対策の方向性などで共有できましたが、二人の知事だけは政府の取組に対して全く理解を示してくれませんでした。

これ、奈良県と宮城県の知事じゃないかと私は予想する。そして、とにかく「無症状の人が感染を拡大させる」という尾身茂氏や小池百合子都知事の説を頑なに信じている。2020年6月以降、「夜の街」が徹底的に悪者にされた時の話である。

六月の早い段階で歌舞伎町でのまん延を止めていれば、もう少しその後の感染拡大が抑えられたかもしれないという思いはあります。これは後に専門家からも指摘された点ですし、この経験は後に、地域を限定して強い措置をとる「まん延防止等重点措置」のアイデアにつながっていきます。

新宿でPCR検査を重点的に行うようにして、接待を伴う飲食店で働く人たちに検査を呼びかけました。無症状の人が、感染を広げていたからです。検査によって、無症状の人が見つかるため、一時的に感染者数が急上昇します。しかし感染の判明した人たちが出歩かず、自宅にいることで、二次感染(誰かに移すこと)が避けられるので、およそ二週間ぐらいで減少していくわけです。

新宿区が陽性者に10万円払ったアレですよ。2020年7月の話です。あのね、この頃って「第二波」前夜で、陽性者が増え始めた時期です。結果的に8月7日にピークを迎えたわけですが、別に新宿で6月に検査をしても、第2波の到来は防げなかったに決まっている。世界中で同じような波で陽性者は増えたでしょうよ。なんで「歌舞伎町で検査すれば感染拡大にならない」なんだよ。思い込みでしょ? 当時のテレビでは「ホストクラブでは酒の回し飲みをするからクラスターになる」とかやっていましたが。皆さん! 我々はこんな認識の男に政策を委ねていたんですよ! つーか、こんな無知を2022年5月にドヤ顔で本に書くって一体どんな神経しとるんやら。さらにアホ部分を取り出す。

専門家からは、クリスマス、初詣、新年会などの様々な行事、飲食の機会、規制などの移動を通じ年末年始に感染者数が急増する可能性を指摘されており、私は「勝負の三週間」と繰り返し呼びかけました。特に懸念されたのは、医療従事者も休む人が増えるので、年末年始の医療体制が薄くなることです(中略)ところが「勝負の三週間」と呼びかけた後も、感染拡大に歯止めがかかりません。批判もありました。そうした中、日本医師会の中川俊夫会長は記者会見で「政府の明確なアナウンスにより、かなりの国民が自粛の努力をしたと思う。呼びかけがなければもっと感染が広がっていたのでは」と評価してくださいました。

西村康稔も中川寿司夫も結局は根性論なのだ。「我慢すれば減る」「気が緩むと増える」と考えており、もはやウイルスという自然現象を人間の「根性」「忍耐」「努力」でなんとか撲滅できると考えている。新型コロナウイルスはなんと慈悲深いウイルスなのだろうか頑張った人が報われるウイルスなのである。ちなみに「気の緩み」も西村氏の発言だが、本書では「油断しないでください」と言うべきだったと反省している(笑)。そして、この「信仰」ともいうべき部分は以下にも表れている。

旅先のようないつもと違う状態では、どうしてもリスクの高い行動を取ってしまうことを指摘する声もあります。お互いに距離を取り、アクリル板も入れ、そしてこれまでクラスターも発生しない、感染防止策を徹底されている事業者であっても、地域で感染が広がり、一定レベルを超えると時短や休業をしなければいけない。ステージ3はそういうレベルです。

飲食の場はマスクなしで会話がなされるために、特に大人数、長時間のお酒を伴う会合は、大声になる可能性もあり、リスクが高いとされており、専門家も2020年11月の分科会などで、飲食店が感染拡大の「起点になっている」と分析しています。五人以上になるとリスクが高まること、またクラスターの発生も五人以上が極めて多くなっていることのデータ分析も明確に示されています。

なお、西村氏は金融機関を通じ、飲食店を締め上げるといった類の暴言を吐き、すぐに猛烈な反発から撤回。その件についても当然触れているが、実にサラリとしたもので、ただの言い訳だ。そして、分科会がいかに強力な力を持っているかが分かるのが「前代未聞の諮問案取り下げ」という項で、ここは2021年5月の緊急事態宣言とマンボウをめぐる政府と分科会のせめぎ合いが描かれている。政府は北海道・岡山・広島をマンボウにするべきだと考えていたが、西村氏は緊急事態宣言にすると主張していた。理由は以下の通り

毎日、尾身先生をはじめとした専門家と一時間は意見を交わし、感染状況を分析していた私は危機感を共有しています。

なんのことはない、尾身氏をはじめとした専門家に洗脳され、操り人形になっただけだ。そして専門家と話した内容を菅義偉首相(当時)に伝えた。

菅総理は顔色を変えることもなく「専門家がそこまで言うなら」と理解されました。分科会の途中で政府として諮問案を取り下げ、緊急事態宣言を出すことで新たに示す形となったのです。(中略)政府が審議会などに諮問した案を、途中で取り下げて変更することは、ひどくみっともないことかもしれません。しかし、最終局面、すなわち諮問する分科会で専門家の意見を重視して変更したわけですから、こうした”諮問の仕組み”が機能している証左だとも言えます

もう、脱力である。そして「オリンピックによる感染者増はなかった」という項がある。「おっ、やるじゃん!」と思ったが、これまた脱力だ。

感染が拡大する要因として考えられたのは①海外の人たちがウイルスを持ち込むリスク、②地方から観戦に来て感染したりさせたりするリスク、③首都圏在住の人が居酒屋で盛り上がるなどで広がるリスクの三つです(中略)オリンピック開催が直接の原因として急激に広がるといったことは起こりませんでした。無観客にしたことは残念でしたが、危機を未然に防ぐという観点からはよかったと思います。

ただの差別主義者である。本書では第5波が人流関係なく収束したことに言及しつつ、第4波までは人流抑制に効果があったと主張し、そのまま第5波の収束についての分析もせず、逃げ出す。そして、2021年8月末から急速に陽性者数が減ったことについてはこう仮説を立てている。

①感染対策が定着してきて多くの人が協力してくれた
②引き続き夜間人流は7月上旬の25~30%減、特にワクチン未接種の方の外出が減少
③出勤者数が2020年より5~10%低い(オリパラ中の企業へのテレワーク等の協力要請が一定の効果か)
④7月の4連休、8月の3連休、お盆など活発な活動が集中する時期が過ぎた
⑤一時的かもしれないが、情報効果により行動が慎重に(医療逼迫・重症者増、30代の人が自宅で死亡(8/11報道)、新規陽性者が8月中旬に全国で2万人、東京で5千人を超えた等)
⑥ワクチンの効果(特に、高齢者、中高年)
⑦検査数の増加
⑧無症状の感染者が減っている可能性
⑨季節変動(涼しくなり、窓開け・換気がしやすいシーズンとなった)
⑩夏の長雨による活動・消費の低下

もう、さらに脱力しませんか……? この本の発売は2022年5月。2020年3月頃からほぼアップデートされていない信仰や思い込みでしかない10の理由を本に掲載するのである。ここの部分を読んで私は最大にずっこけた。

こりゃ、日本のコロナ騒動終わらんわけだwwwwwwww こんな認識の人間が舵取りをしているんだからさ。もう、永遠にやってろよwwwwww

そして、西村氏がセコいのは、今回のコロナ騒動の戦犯とも言える人々の名前を列挙して感謝し・その能力を称えている点である。本人は「ワシはこれだけ多くの一線級の素晴らしく有能な人を束ね、支えてもらったんだぞ!」と言いたいのだろうが、なんてことはない。糾弾される段になった時、「オレら連帯責任だもんね、彼らもオレと同じだよ。ほら、こんなにたくさん悪者がいるんだよ。オレの罪なんて大したことないでしょ」と言える予防線を貼っているのである。

まぁ、どうしようもない本ではあるが、日本のコロナへ危機感が広がったきっかけが志村けんさんの死であることは理解しているようで、「おっ、分かってるじゃん」と思わせるのはそのぐらいであった。

この本自体はどうしようもない悪書ではあるが、戦争の時の軍部がいかに愚かだったかの資料と同様に、日本のコロナ対策の司令塔がいかに愚かだったかを振り返るにあたっては一線級の資料になるだろう。

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