【特集・前職候補者の「今期の業績」を見てみよう!】二世議員は文化政策の夢を見るか?―宮城4区・伊藤信太郎候補
投票には、選挙運動での信条や政見・政策や人物の経歴を踏まえた「未来の選択」の要素とともに「過去の業績評価」という側面もあります。
今期、衆議院48期に宮城県の前職衆議院議員はどんな活動をしていたか。役職などの目に見えるだけの経歴だけではなく、それがどんな内容を持つのか、国会での活動や政党での活動の実際や実態も考慮しながら、政策だけにとどまらない、その政治家の個性も含めた政治家全体としての活動を、公的な情報に基づきながら振り返ろうとするものです。
今期の各候補者の業績や活動を振り返るこの企画【リンク先は記事一覧】。3人目は、伊藤信太郎氏です。
おことわり
・文責・著作権は、筆者(池亨)に属します。また評者の所属先にも一切関係しません。
・資料協力:海辺の図書館 庄子隆弘さん
・本批評は、特定の候補者への支持投票を呼びかけるものではありません。
宮城県第4区 情報
宮城4区には他に、日本共産党公認 舩山由美候補と日本維新の会公認 早坂敦候補が立候補しています。お二人の名前をクリックしていただくと、それぞれの動画インタビューをご覧いただくことができますので、ぜひ参考にしてください。
伊藤信太郎候補は、メディアージが申し入れを行った独自インタビューについて返答をいただいておりません。ボートマッチのアンケートには回答いただきました。
国際・環境・文化志向な二世議員の個性
元衆議院議長や科学技術庁長官を務めた故伊藤宗一郎氏の長男として地盤を継ぎ(ただし単純な世襲ではなく、公募による予備選挙で立候補)、宮城4区から立候補している伊藤信太郎氏。かれの前期(第48期:2017-2021年任期)の業績を見てゆくうえでこの経歴を含めたバックグラウンドの観点を欠かすことができません。
幼稚舎から大学院まで慶応で過ごし、数々の留学経験もあり4ヶ国語を操り、映画監督として作品も撮って国際映画祭で入賞。バブル期には『CNNデイ・ウォッチ』で武見敬三現参議院議員らとともにキャスターをつとめ、いくつもの大学でコミュニケーション論、マスメディア論や国際関係論などの教鞭をとる……と一般人にはめまいを覚えるような大変な経歴ですが、このややもすれば高踏的でディレッタントにもみえる経歴は、彼の関心と日常の活動に結びついていることが見て取れます。
伊藤氏は前期は政府の役職についていませんので(以前に外務副大臣経験あり)、その普段の政治家としての活動は、国会内での活動と自民党内での活動に集約されます。
これらの活動は、ご自身が映画を撮るなど「表現者」としての意識を持っていらっしゃるからでしょうか。多様なツールを通じてその日常の活動動向について逐次発信されています。宮城の自民党の衆議院議員としてはおそらくもっともマメな報告者で、有権者に自らの関心を伝えようとする姿勢が強いといえます(マスメディアへの露出度が多くないことの裏返しともいえますが)。
かれの関心分野は主に(1)外交や国防・安全保障、環境といった「ハイポリティクス」の側面、(2)おそらく最も関心の中心であるところの文化芸術政策やメディア分野、(3)旧宮城2区の他の小野寺氏・安住氏と同く、地盤の有権者には関心の高い農林水産分野(とくに大票田塩竈地区にかかわる水産分野)、に大別されるでしょう。
部会活動概観:関心の二極化と「論」の不在
政府与党である自民党の中堅議員は、野党議員に比べると一人あたりの質問時間の配分が限られることもあり、国会で華々しい論戦を繰り広げる機会にあまり恵まれません。政府の出す法案(内閣提出法案)は自民党内の政策調査会に置かれた各政策分野別の「部会」(あるいは調査会)において事前審査を受けるため、実質的な討論はこの部会などでなされます。このため実質的にどのような議論を与党内で経たのかが外部からは見えにくくなるというのが日本の国会審議と政党のしくみが持つひとつの問題点です。
その部会への参加を主にTwitterを利用して報告しているのが伊藤氏の特色で、そこでの資料画像をアップしていることも多く、一般有権者には見えにくい政治過程の一端をのぞかせてくれます。この部会での活動報告も上記の(1)〜(3)を中心としたものです。
ただし、これらの部会で何が論点で伊藤氏がどう主張したのかが(皆無ではないものの)分からないものが多くありました。テーマと方向性だけはざっくりとわかるのですが、伊藤氏がどう考えているかの「論」がこれらからはわかりづらいのです。ちなみにブログもお持ちなのですが、Twitterと異なり比較的長い文も書けるにも関わらず、「〇〇」しました、誰々と会いました、式の報告が多く、あまりここにも政策「論」が見当たらないのです(同じ東北福祉大で助教授職にあった「論客」小野寺氏と比較してみると面白いかもしれません)。
外交・国防安全保障や環境政策などの「大所高所」の話と、地元の農林水産にかかわる個別の対策対応という地場の話が、はなれて同居する関心の「二極化」が見て取れます。
これは国会質問でも同様の傾向がみられました。政府方針をテーマに沿って大まかに確認するだけの(与党議員にしばしばありがちな)タイプの質疑と、地元でのヒアリングに基づいた、震災後の水産加工業の実態についての具体的な質疑とのあいだに、どうも乖離があるように見受けられました。
議員個人の指向、得意不得意があるとはいえ、地元の業界の要望には耳をかたむけるが、あとは大きな国際的な課題の提示に留まり、その中間領域である国民生活に関わる経済政策や社会保障分野に関して伊藤氏なりの見通しや意見が見えてきません。有権者に、もうすこしメッセージとして広く語り伝えていただきたいところです(一部では、フリーランスへの傷病手当金を国として一律に支給すべきだという傾聴すべき重要な指摘もありました。おそらく後述する文化芸術関係者に対する共済制度の確立との関係で意識されていたのかもしれません)。
文化芸術への支援を強調――総務会にタブレット導入を提案も
そのなかで、やはり文化芸術分野への関心は並々ならぬものがあるように思えます。今期後半はコロナ対策、なかでも生計手段を失うことになる文化芸術関係者への支援が大分強調されていました。また映画や書道等々芸術へのシンプルな言及が多く見られます。ブログの長めの文章も政策や社会評論からは一歩離れた、メディアや映画をめぐるエッセイ(小論)。やはり一番の関心=愛好事項なのでしょう。このほかに著作権の課題やデジタル化など情報分野への関心も強いようです。
この分野での存在感を今後発揮していくのであれば、ただの高踏的趣味人だと受け取られないよう、諸外国の事例なども参照しながら体系的な文化・芸術政策観をぜひとも披瀝していただきたいものです。
最後にちょっとユニークだと思ったエピソードをひとつ。自民党総務会でタブレット対応を進言し実現したそうです。
データ
伊藤信太郎 候補【宮城県第4区】自由民主党公認(当選回数6回)
個人Webサイト・Twitter・Facebook・Amebaブログ・Youtube
衆議院 第48期 2017(平成29)年10月22日〜2021年10月19日
国会会期 第195回国会〜第204回国会
質問・出席回数は、政治学者菅原琢氏作成のWebサイトによる。
国会役職 外務委員会 与党筆頭理事(現在)
消費者問題特別委員長代理
農林水産委員長代理
環境委員長代理
委員や理事として所属
外務委員会(19回出席 発言1回)
東日本大震災復興特別委員会 委員(37回出席 発言1回)
消費者問題特別委員会 委員(53回出席)
環境委員会 委員(24回出席 発言1回)
農林水産委員会 委員(発言1回)
質問主意書 0本 本会議での質問 1回(追悼演説)
注意:政権与野党どちらに所属しているかの違い、政府や国会の役職によって、議員としての出席や発言回数は異なりますので、あくまでこれらの数値は参考に留めてください。与党議員は質問主意書を出さないのが慣行となっています。野党のほうが発言回数・質問主意書数が多くなります。
政党役職 政党役職 政務調査会長代理
農林・食料戦略調査会 副会長
東北ブロック代表 総務
2021年衆院選(宮城県選挙区)特集について
・2021年衆院選(宮城県選挙区)に関する情報発信のまとめ
・NPO法人メディアージ Webサイト 特集ページ
・NPO法人メディアージ Youtubeチャンネル 再生リスト
*池亨(いけ・とおる) 1977年、岩手県一関市生まれ。埼玉県で育つ。宇都宮大学教育学部社会専修(法学・政治学分野)、東北大学大学院情報科学研究科博士前期課程(政治情報学)を経て、東北大学大学院法学研究科博士後期課程満期退学(政治学史・現代英国政治思想専攻)。修士(情報科学)。現在、㈱日本微生物研究所勤務。これまでに、宮城県市町村研修所講師(非常勤)、東北工業大学特別講師ほか。著書に『新幹線で知る日本』(天夢人刊)。
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