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~パキスタンアップデート~ デフォルト回避から経済成長までの道筋

 今までのパキスタン情勢につきましては、前回の投稿↓をご覧ください

IMFの支援の継続

  IMFはパキスタンに対して、2023/6/29、9カ月にわたり30億ドルの金融支援を行う(Stand-By Arrangement)SBAプログラムを開始しました。
直ちに初回12億ドルの支援が決定され、同国はデフォルトを免れることができました。
その後、IMFによって今年の1/11に第1次レビューが実施・承認され、7億ドルの追加支援が行われることとなりました。
これにより、パキスタンの外貨準備高は88億ドル前後になる見込みで、輸入額の2カ月分にまで回復することとなりました。
一時は1ヶ月未満の水準まで低下している状況でした。
(健全な水準は輸入額の3ヶ月分と言われています。)

パキスタン直近の外貨準備高推移


今後のIMFの支援について

 IMFがパキスタンに対して支援を継続する条件としては、新政権が発足することでした。
この点は今回の選挙によりクリアになったかと思います。

 これからの課題としては、現行のSBAプログラム支援額30億ドルのうち、受け取っていない11億ドルの受け取りをすることです。
そのためには、IMFによる2次レビューを通過しなくてはなりません。
また、現行のプログラムは今年の4/12に終了することとなっており、これに続く支援を取り付けることも必要です。
IMFは3/15にパキスタンを訪問する予定となっており、その際現行プログラムの2次レビューと、継続する次のプログラムに関する審査・話し合いが行われるのではないかと考えています。

SBAプログラム第1次レビューにより7億ドルの追加支援:

IMFの支援プログラムの今後について:


株価の直近の予想

 以下はドル建てETFの株価になります。

直近のドル建てETFの値動き

 6月末のIMFの追加支援の承認以降、下げ止まり、総選挙に向けて上昇を続けてきましたが、昨年末よりレンジとなっています。
総選挙の結果は良いものでしたが、やはり材料織り込み済みとなっているのだと思います。
 この先マーケットが期待することは、デフォルトリスクがさらに低下することであり、具体的なイベントとしてはIMFの支援継続となります。
現状では、IMFの訪問がある3/15前後に動きがあるのではないかと考えています。
ただし、アメリカマーケットの調子次第でズレが発生することも頭に入れておく必要があるでしょう。

 では、この上昇がどこまで続くのか。もう少し長期的なチャートで確認していきたいと思います。
以下はパキスタンの外貨準備高、パキスタンルピー(対ドル)、ドル建てETFを比較したチャートです。

パキスタンの外貨準備高、パキスタンルピー(対ドル)、ドル建てETFの比較

 パキスタンの外貨準備高はコロナ後の増加を経て、2021/9頃から減少局面に入ります。
タイミングを同じくしてパキスタンルピー、及びドル建てETFも下落しています。
したがってこれらは全て同じ要因、つまり外貨準備高の減少とデフォルト懸念によって引き起こされていると言えるでしょう。
 以上のことを踏まえると、デフォルト危機~財政の健全化プロセスに向けて株価が回復していく上限は、2021年レンジの上限値、1.3付近なのではないかと思います。
それ以上の上昇を続けるには、経済成長の期待が必要と思われます。

起こるか分からない未来。FDIの流入

 成長が軌道に乗る前の発展途上国の成長エンジンは、FDI(foreign Direct Investment=外国企業の直接投資)にかかっています。
外国企業が現地にオフィスや工場を構え、雇用を生むことで経済が回り始めるからです。
FDIの流入による経済成長が続き産業や国内企業が十分に成長してくると、消費市場の勃興が始まり、経済は単独で回るようになります。
新興国の誕生です。
 パキスタンは、過去にアメリカや中国からの大規模なFDIを受けて経済発展してきた経緯があります。
しかしながら、現状メディアのニュースを見る限りでは、経済が単独で回復局面に戻るほどのレジリエンスは有していないように見えます。
大規模なFDIの流入が必要不可欠なのです。

 以下はFDIとパキスタン指数、及びGDPをプロットしたものです。

パキスタンへのFDI流入額とGDP、株価の関係

 FDIの流入が増えている局面においては、GDP成長率は高く推移し(概ね4%以上)、株価も伸びている傾向があります。

 近年、パキスタンには2回大規模なFDI流入が起こりました。
 まず一つ目は、2000年代。
2001年の9・11同時多発テロ以降、アメリカはテロとの戦いを掲げ、対アフガニスタン軍事作戦を活発化させました。
この際、パキスタンはアメリカへ協力的な立場をとったことから、多額の資金が流入し経済が成長しました。
この間、為替変動を加味したドル建ての株価を計算すると1000%異常上昇しています。

 次に大型のFDIがあったのが2010年代です。
対米関係の悪化を受けて、パキスタンは中国に接近する外交政策を取りました。
対インド安全保障の側面から、両国は蜜月関係を築くこととなります。
特に目玉となったのが、グワダル港と中パ経済回廊(CPEC)の建設です。
港湾、発電所、鉄道、道路といった大規模インフラ投資が行われ、経済は上向くこととなりました。
この間、為替変動を加味したドル建ての株価を計算すると300%異常上昇しています。

■総括

 過去の投稿において、パキスタン株はデフォルト回避ゲーと記載しましたが、今も状況は変わっていません。
ギリギリ最悪の状況は免れたものの、デフォルトせずに済むかは不透明な状態が続いています。
ここ半年の株価の上昇及びパキスタンルピーの下げ止まりは、悪材料織り込み済みのリバウンドの域を出ておらず、長期的な成長に基づいたものではありません。
当面は、IMFからの支援プログラムが継続できるか、そのために必要な改革をパキスタン政府がこなすことができるかをチェックしていくこととなります。

 長期的な成長が訪れるという仮説に基づき投資を検討し始めるフェーズは、FDIが継続的に増加し始めた時となります。
中国経済が低迷していることがコンセンサスになっている今、同国からのFDIが上昇したとしても、株式市場で材料視されるのは難しいでしょう。
よって、アメリカ寄りの材料がポジティブ視されると考えられます。
アメリカとの関係が改善する。中東安全保障上の要衝として認知される。などです。

 投資するしないにかかわらず、パキスタン情勢をウォッチしていくことは、どん底に落ちた国が、暗闇の中を這い上がって行く過程をたどれるという点において、非常に魅力的だと考えています。
もしも、その先に希望に満ちた経済成長が待っているならば、言うことはありません。

■参考

西側諸国の視点で見たパキスタン情勢(ロイター):
https://www.reuters.com/world/asia-pacific/pakistan-may-face-more-economic-misery-if-election-result-unclear-2024-02-09/

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