民法 問題43

 Aは、Bに対して負う貸金債務を担保するため、自己所有の建物をBに譲渡して所有権移転登記をしたが、引き続き建物を占有していた。ところが、Aが期限に債務を弁済しなかったので、BはAに対し、建物の評価額から被担保債権額を控除した残額を提供し、建物の明渡しを求めたが、Aはこれに応じなかった。その後、AはBに対し、債務の弁済の提供をした上、建物をCに賃貸した。Cは、Aを建物所有者と信じて、長期間にわたりAに賃料を支払ってきたが、この間に、建物はBからDに譲渡され、その旨の登記がされた。
 この場合における建物をめぐるAD間、CD間の法律関係について述べよ。


1 AD間
 Dは、Aに対して、所有権(206条)に基づき、本件建物の明渡請求をすることが考えられる。
 これに対し、Aは、本件建物の所有権は自己に帰属するとして拒むことが考えられる。
 Dの上記請求が認められるためには、Aが本件建物を占有しており、Dが本件建物の所有権を有していることが必要である。
 Aは、賃借人である直接占有者Cを通じて間接占有しているため、Aが本件建物を占有しているといえる。
 では、Dは本件建物の所有権を有しているといえるか。
 これが認められるためには、Bから所有権を承継取得していることが必要であるところ、Bが所有権を有していたといえるか。AがBに対して譲渡担保権を設定したと考えられるため、その法的性質が問題となる。
(1) この点、譲渡担保契約の当事者の意思としては、担保を目的としている以上、設定者が所有権を有し、譲渡担保権者は担保権を有するにすぎないと解する。
 したがって、譲渡担保設定時に本件建物の所有権はAが有することとなる。
(2) そうだとしても、Aは貸金債務を弁済しなかったため、Bが清算金を提供して本件建物の明渡請求をしている。これにより、本件建物の所有権がBに移転しているのではないか。譲渡担保権実行による所有権の移転時期が問題となる。
 この点、譲渡担保権の法的性質が担保的構成でも、債務者が弁済をしない場合は、債権者は譲渡担保権の実行により、目的物の所有権は譲渡担保権者に移転すると解する。
 もっとも、譲渡担保権設定者は受戻権により目的物の所有権を回復し得る。そこで、受戻権はいつまでにする必要があるのかが問題となる。
 この点、譲渡担保権者には清算義務があるところ、本件では債務者Aに建物評価額から被担保債権額を控除した残額を提供しているため、帰属清算型だと考えられる。この場合、弁済期到来後、債権者が清算金を提供した時点で、目的物の所有権が移転すると解する。
 したがって、Bは清算金の提供をしているため、のちにAのしたBに対する弁済の提供にかかわりなく、清算金提供時にBに本件建物の所有権が移転したと解する。
 よって、Dが本件建物の所有権を有していると考え得る。
(3) もっとも、Aは、Cに対して本件建物を長期間賃貸していることから、所有権を取得時効(162条)により再取得したことを主張することが考えられる。
 この場合、Aは、Bの清算金の提供に応じなかったことから「他人の物」であることにつき過失があると解する。したがって、Bが所有権取得後「20年」経過し、かつ、DがBから譲り受けたのが時効完成前であれば、Aは登記なくして本件建物の所有権取得をDに対抗することができる。
(4) 以上により、Aが本件建物を時効取得しない限り、Dの上記請求は認められる。
(5) さらに、Dは、Aに対して、Cから受け取った賃料相当額の返還請求することができる(190条1項、703条)
2 CD間
 Aが本件建物を時効取得しない場合、Dは、Cに対して、所有権(206条)に基づき、本件建物の明渡請求をすることが考えられる
 これが認められるためには、Cが本件建物を権原なく占有していることが必要である。
 では、Cは、権原があるといえるか。Cは賃借権を主張してDの上記請求を拒むことが考えられるところ、当該賃借権がDに対抗できるかが問題となる。
(1) この点、前述のとおり、Aは本件建物につき無権限であり、AC間の契約は他人物賃貸借にあたり、債権的には有効(559条・560条、601条)であるものの、Cは賃借権をDに対抗し得ず、Dの上記請求が認められるのが原則である。
 そこで、Cは賃借権を時効取得したことを主張して、Dの上記請求を拒めないか。債権である賃借権が「所有権以外の財産権」(163条)にあたるかが問題となる。
(2) この点、取得時効の趣旨は、永続した事実状態の尊重にあるところ、債権は通常、永続した事実状態を観念できないため、原則として「所有権以外の財産権」にあたらない。しかし、不動産賃借権は不動産の占有を内容とした債権であり、上記趣旨が妥当すると考えることができる。
 したがって、不動産賃借権を時効取得し得る。 
 この場合、時効取得され得る者との調和から、①継続利用という外形的事実の存在と、②賃借の意思が客観的に表現されていることが必要だと解する。
(3) 本件では、Cは賃料をAに支払い続けていることから、継続利用の外形的事実と賃借の意思が客観的に表現されているといえる。したがって、Aを建物所有者と信じていることから、「10年間」占有している場合には、本件建物の賃借権を時効取得したことを主張し得る。
(4) よって、Cが、かかる主張をした場合、Dの上記請求は認められない。
以上


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