民法 2


問題

 Aは、自己所有の甲土地を、建物所有目的でBに賃貸した(賃借権の登記はしていない)。Bは、甲土地上に乙建物を建築して居住しているが、未だ、乙建物について所有権保存の登記をしていない。ところが、Aは、甲土地をCに売却して登記も移転してしまった。
 その後、Cが、Bに対して甲土地の明渡しを請求してきた。しかし、Bは、Aに対して賃貸借契約の債務不履行(Aが甲土地をCに売却した為に、甲土地をBに使用収益させる債務が履行不能となったこと)に基づく損害賠償請求権があるとして、この損害賠償請求権に基づく留置権を主張して、Cへの甲土地の明渡しを拒んでいる。
 この主張の当否について検討しなさい。

※一橋大学法科大学院 2015年度入試問題改題 

答案

1 Bに留置権が成立するためには、295条の要件を満たす必要がある。
(1) まず、Bは、甲土地上の乙建物を所有していることから、「他人の物」である甲土地を占有している。
(2) そして、Aは、甲土地の賃貸人Bが乙建物につき登記(借地借家法10条1項)していないにもかかわらず、甲土地をCに譲渡している。そうすると、Cは借地権の負担のない所有権をBに対抗でき、その明渡しを求めることができるため、AがBに対して負う甲土地を使用・収益させる債務は社会通念上履行不能となっている。したがって、Aが、乙建物につき登記未了であることについて過失なく知らなかったといえるような場合でない限り、履行不能につきAに帰責性があるといえるため、BのAに対する履行不能に基づく損害賠償請求権(415条)が発生する。
 もっとも、かかる損害賠償請求権が甲土地「に関して生じた債権」といえるか。「その物に関して生じた債権」の意義が問題となる。
ア そもそも、留置権は、物の引渡しを拒むことによって債務の弁済を心理的に強制する担保物件である。そして、被担保債権となり得る債権の成立時点においてその債務者と物の引渡請求権者が同一でなければかかる心理的強制は意味をなさない。
 そこで、かかる場合に「その物に関して生じた債権」といえると解する。
イ 本件では、BのAに対する履行不能に基づく損害賠償請求権は、AのCに対する甲土地の譲渡により発生している。だとすると、上記損害賠償請求権の発生時において、その債務者はAであるのに対して甲土地の明渡請求権者はCであり、債務者と物の引渡請求権者が同一ではない。
 したがって、上記損害賠償請求権は甲土地「に関して生じた債権」とはいえない。
(3) よって、Bに留置権は成立せず、これを主張してCへの甲土地の明渡しを拒むことははできない。
以上

論点

  • 留置権 目的物と債権との牽連性

条文

295条 415条 借地借家法10条

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