民法 問題58

 A社は、B社に対し、実験用マウス30匹を売り渡した。ところが、この中に、人及びマウスに有害なウィルスに感染したものが混じっていた。その後、Bの従業員Cがこのウィルスに感染して発病し、長期の入院治療を余儀なくされた。Bは、このウィルスに感染した他のマウス200匹を殺すとともに、Bの実験動物飼育施設に以後の感染を防止するための処置を施した。
 右の事例において、(1)Aに過失がなかったときと、(2)Aに過失があったときとに分けて、AB間及びAC間の法律関係について論ぜよ。


第1 問(1)
1 AB間
(1) Bは、Aに対して、売買契約(555条)の内容に適合をしないことを主張して、追完請求(562条1項)することが考えられる。
 ABの売買契約では健康なマウス30匹をBが納入する必要があったところ、納入したマウスはウィルスに感染していたのであるから、「品質・・・関して契約の内容に適合しない」といえる。
 したがって、Aの上記請求は認められる。
(2) また、Bが上記追完請求をしてからAが履行しない場合、Bが相当の期間を定めて履行の追完を催告し、その期間内に履行の追完がなければ、Aは代金の減額を請求することができる(563条1項)。
(3) さらに、注文した実験用マウスにウィルスに感染していたことは、社会通念上軽微とはいえないため、売買契約を解除(541条)をすることができる。
(4) もっとも、Aに過失がないときは帰責性が認められないため、損害賠償請求はすることができない(415条ただし書)
(5) Bは、Aに対して、不法行為(709条)に基づき、他のマウス200匹の相当分の金額と、感染防止措置のかかった費用を請求することも考えられるが、Aに過失がない以上、これは認められない。
2 AC間
 Cは、Aに対して、不法行為に基づく損害賠償として入院費用等を請求することが考えられるが、前述のとおりAに過失がない以上、認められない。
第2 問(2)
1 AB間
(1) 第1で論じたように、Bは、Aに対して、追完請求、減額請求、解除をすることができる。
(2) また、本問ではAに過失があり帰責性が認められることから、415条に基づく損害賠償請求をすることができる。
 では、この場合、どの範囲まで請求することができるか。416条の解釈が問題となる。
ア この点、当事者間における損害の公平な分担という416条の趣旨から、1項は過失行為から相当因果関係内にある損害についての賠償(通常損害)、2項は、相当因果関係を判断するにあたって、特別事情を債務者に予見可能性がある場合にのみ判断の基礎とすべき旨を規定(特別損害)したものと解する。
イ 本問では、ウィルスに感染したマウスを引き渡せば、他のマウスに感染することも通常といえる。また、ウィルスが他の動物に感染しないよう感染防止措置を採ることも通常のことである。したがって、①マウス200匹相当と②感染防止措置に必要な価額を合わせた金額は通常損害として同条1項で認められる。
 また、マウスの持つウィルスが人間にまで感染することは通常とはいえないものの、右ウィルスが人間にまで感染することは決して少なくなく、マウスを扱う会社としてはそれを予見することが可能であったと考えられる。
 したがって、同条2項で因果関係を判断するにあたってこれを基礎とすることが認められるから、仮にBがCに対して③入院費用や休業分の給料を補償をしていた場合、その金額相当を特別損害として請求することができると解する。
ウ 以上により、Bは、上記①~③を合わせた価額の請求をすることができる。
(3) また、これらは、不法行為(709条)に基づく損害賠償としても請求し得る。なお、上記415条に基づく損害賠償請求権とは請求権競合となると解する。
2 AC間
 Cは、Aに対して、不法行為に基づく損害賠償請求をすることができる。
その内容は、前述の③のとおりである。
 なお、Cが、Bからすでに損害賠償を受けていた場合には、「損失」がないといえるため、この場合は上記請求が認められない。
以上


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