民法 1
問題
Aは自己の自転車(甲)をBに貸したが、その際に「甲を売却する代理権を与える」と冗談で伝えた。しかし、それを真に受けたBはAの代理人としてCに甲をを売却し引き渡してしまった。AC間の法律関係について論ぜよ。
答案
1 Aは、Cに対して、所有権(206条)に基づき甲の返還を請求することが考えられる。これに対し、Cは、BC間の売買契約(555条)の効果がAに帰属(99条1項)し、自己に甲の所有権が移転していることを主張し、これを拒むことが考えられる。
(1) Aの、Bに対する代理権授与は冗談であるため、BC間の売買契約はBの無権代理行為であり、Aの追認(113条本文)なき限りAに効果帰属しないのが原則である。
(2) もっとも、上記代理権授与行為は、Aが「真意ではないことを知ってした」ものであるから心裡留保(93条)にあたる。そこで93条の適用を検討する。
ア Aの相手方Bが、Aの心裡留保につき善意かつ無過失の場合は、Aの代理権授与行為が有効となる結果(同条1項ただし書)、BC間の売買も有効となる。この場合、Cの主観的要件は問わない。
イ Bが悪意または有過失の場合でも、Cが、Aの心理留保につき「善意」の場合には、「第三者」であるCとの関係では、Aの代理権授与行為が有効となる(同条2項)ため、BC間の売買も有効となる。
ウ 以上により、Aの心裡留保につき①Bが善意かつ無過失の場合、②Bが悪意または有過失でもCが善意の場合には、Cは自己に甲の所有権が移転しているとを主張できると思える。
(3) しかし、仮にAが代理人Bを介在することなく直接Cと契約を締結した場合、Aに甲を売るつもりがないことにつき善意かつ無過失でなければAの意思表示は有効とはならない(同条1項ただし書)。そうであるなら、代理人を介した場合でも同様に考えるべきである。
また、そう考えても代理人であるBは独自の利益を有しないため、BがAの心裡留保に善意かつ無過失であっても、Cが悪意または有過失のであればAが直接Cと契約した場合と同様、Aの無効主張を認めても良いはずである。
そこで、本事例においては、同条1項ただし書を類推適用して、Cが善意かつ無過失でなければ、上記代理権授与行為は有効にならないと解する。
(4) 以上により、①Aが追認した場合、②CがAの心裡留保につき善意かつ無過失であることを主張した場合は上記代理権授与行為が有効となる結果、BC間の売買契約の効果がAに帰属するため、Cは、Aから甲の返還請求を拒むことができる。
なお、この場合、Aは、Cに対して売買代金請求権を有する。
2(1) 上記①②にあたらず、Cが甲をAに返還した場合、CがBとの契約締結に関して交渉費用の発生等、何らかの損害が発生した場合、不法行為(709条)に基づく損害賠償を請求できる。なお、これに関してCに過失がある場合、過失相殺され得る(722条)。
だだし、Cが、Aの心理留保につき悪意の場合は、Bと契約を締結しないことで回避できたため、たとえ損害が発生していても因果関係が認められず、709条に基づく損害賠償は請求できない。
(2) これに対し、AはCに対して、甲の賃料相当額の使用利益を求めることが考えられる(703条)。
この点、Cが甲を専有していた以上、原則Aの上記請求は認められる。
もっとも、CがAの心裡留保につき善意であり、甲の所有権を取得していたと信じていた場合には果実を収受できることから(189条1項)、上記請求を拒むことができる。
したがって、CがAの心裡留保につき悪意であり、甲の所有権を取得していないと自覚していた場合のみにAの上記請求は認められる(190条1項)。
以上
論点
心理留保
条文
93条 709条 703条 190条 99条 116条 113条 206条 555条
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