民法 問題42

 A社は、ブリ、ハマチ、カンパチ等の養殖、加工、販売等を業とする株式会社である。A社は、B銀行から1億円の融資を受けるに当たり、B銀行との間で、B銀行のA社に対する1億円の貸金債権を被担保債権、A社の生簀内にある養殖魚(以下「本件養殖魚」という。)全部を譲渡担保の目的とする譲渡担保契約を締結し(以下「本件集合動産譲渡担保契約」という。)、占有改定の方法により本件養殖魚全部を引き渡した。

 以上の事実を前提に、次の各小問について論ぜよ。なお、各小問は独立した問いである。

(1) その後、A社は、Cに対して、本件養殖魚全部を売却し、占有改定による引渡しをしたが(以下「本件売買契約」という。)、Cが本件養殖魚の現実の引渡しを受ける前に、B銀行が本件集合動産譲渡担保契約に基づく譲渡担保を実行しようとしていた。
 Cは、B銀行による譲渡担保権の実行に対して、いかなる法的主張をすることができるか。

(2) A社が本件集合動産譲渡担保契約を締結する少し前、A社は、D社から、養殖用のブリ1万匹を仕入れていた。しかし、A社は、B銀行に対する融資の返済も、D社に対する売買代金の支払もしないので、B銀行とD社は、それぞれ担保権を行使することにした。
 この場合、D社はいかなる担保権を行使し得るか。また、D社の担保権とB銀行の譲渡担保権ではいずれが優先するか。


1 問(1)
 Bが、Cに対して譲渡担保権を実行するためには、本件集合動産譲渡担保契約(以下、「本件契約」という。)が有効に成立しており、それをCに対して対抗できることが必要である。
(1) まず、Cは、Bに対して、集合物に譲渡担保を設定することは一物一権主義に反しており、本件契約は無効であると主張することが考えられる。
 この点、そもそも一物の定義は自明でなく、一物とは取引通念上、一つの物と観念されているにすぎない。また、集合物全体に担保権を設定するという当事者の意思を重視すべきである。
 そこで、集合物を全体として一つの物とみて、その上に譲渡担保権が設定されると解する。
 したがって、本件契約は一物一権主義に反せず、有効に成立している。
(2) そうだとしても、Cは、Bに対して、本件契約後に搬入された養殖魚については対抗要件(178条)が具備されていないため、Cに対抗することができない旨の反論をすることが考えられる。
 ここで、集合物動産譲渡担保の性質から、対抗要件は集合物自体の占有改定(183条)で足りるところ、目的物である養殖魚は常に入れ替わっている。そうすると、その度に占有改定が必要となるのではないか。集合物動産譲渡担保における特定性の欠如をどのように考えるのかが問題となる。
 この点、種類、所在場所及び量的範囲を特定する等、何らかの方法により目的物の範囲が特定されれば、その範囲が1個の集合物として譲渡担保の目的物になると解する。そして対抗要件も、譲渡担保権設定時に当該範囲を指定して占有改定による引き渡しをすれば足り、その後に当該範囲内の目的物が入れ替わっても、その度に占有改定による引き渡しを要しないと解する。
 本件では、A社の生簀内にある養殖魚という形で種類、場所及び量的範囲が特定されている。そして、本件契約時に右特定された範囲で占有改定による引き渡しをしている。したがって、その後養殖魚の入れ替わりがあっても対抗要件を具備していると考える。
(3) そうだとしても、Cは、Aから本件養殖魚全部を購入し占有改定による引き渡しを受けている。
 そこで、Cは、Bに対して、本件養殖魚の所有権(206条)はCに移転しているため、Bの譲渡担保権の効力が及んでいない。仮に及んでいるとしても、Bの譲渡担保権はCに対抗することができない旨の反論をすることが考えられる。
 まず、そもそも、本件養殖魚に譲渡担保権の効力が及んでいるのかが、譲渡担保の法的性質と関連して問題となる。
 この点、譲渡担保契約の当事者の意思としては、担保を目的としている以上、設定者が所有権を有し、譲渡担保権者は担保権を有するにすぎないと解する。
 したがって、設定者からの譲受人は担保権負担付きの所有権を取得すると解する。
 なお、占有改定での即時取得(192条)は認められていないため、占有改定により引き渡しを受けているBに担保権負担のない所有権を取得していると解する余地はない。
 また、譲渡担保は公示のない担保物件であるため、取引の安全の観点から、1(2)で前述した範囲から担保目的物が外れた場合は譲渡担保権を対抗できないと解する。
 したがって、Cは、担保権負担付きの本件養殖魚の所有権を取得していることとなるため、Bの譲渡担保権の効力が及んでおり、また、本件養殖魚はいまだ上記範囲に存するため、Bは、これをCに対抗することができる。
 よって、Bは、Cに対して、譲渡担保権を実行することができる。
(4) 以上により、Cは、Bの譲渡担保権の実行に対して拒むことはできない。
2 問(2)
(1) Dは、Aとのブリ1万匹という「動産の売買」(311条5号)契約により代金債権を有している。
 したがって、Dは先取特権を行使し得る。
(2) では、Bの譲渡担保権といずれが優先するか。集合物譲渡担保と動産売買先取特権との関係が問題となる。
 この点、動産譲渡担保権は機能的に動産質権と同様である。そこで、334条を類推適用して、譲渡担保権者は先取特権者に優先すると解する。
 したがって、譲渡担保権者Bは、先取特権者Dに優先する。
以上


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