民法 問題47

 甲所有の家屋を乙が賃借中、乙は甲の承諾をえて借家の2階全部を丙に転貸していた。ところが、丙の失火によってその借家が全焼した。この場合における甲乙丙三者の法律関係いかん。

※旧司法試験 昭和33年 第1問


第1 甲乙間
1 甲は、乙に対して、甲所有の家屋(以下「甲」という)の賃貸借契約(601条)に基づき賃料請求することが考えられる。
 もっとも、甲が焼失しているところ、目的物の滅失により使用収益が不可能となった場合は賃貸借契約を存続させる実益はない。したがって、賃貸借契約は終了するため、甲の上記請求は認められない。
2 次に、乙は賃貸借契約に基づく目的物返還義務を負うところ、甲の焼失によりそれが不可能となっているため、甲は、債務不履行(415条)に基づく損害賠償請求を乙にすることが考えられる。
(1) そこで、転借人の過失を乙の「責めに帰すべき事由」といえるかが問題となる。
(2) この点、帰責事由とは、債務者の故意・過失及び信義則(1条2項)上、これと同視すべき事由をいうと解する。
 そして、債務者は履行補助者を利用し活動範囲を拡大している以上、その者の故意・過失によって生じた損害についても責任を負うべきである。 したがって、履行補助者の故意・過失は、債務者の故意・過失と信義則上同視でき「責めに帰すべき事由」にあたると解する。
(4) 丙は転借人であるため、乙の履行補助者にあたると考える。よって、丙の過失は乙の過失と同視できるため、「責めに帰すべき事由」といえると解する。
(5) 以上により、甲の上記請求は認められる。
第2 甲丙間
1 甲は、丙に、失火につき重過失が認められる場合には、損害賠償請求をすることができる(失火責任法、709条)
2 次に、甲は、丙に対して、債務不履行に基づく損害賠償請求をすることが考えられる。 
 「転借人は、賃貸人に対して直接に義務を負う」(613条)ため、甲の請求は認められるのが原則である。
(1) では、どの範囲で丙は責任を負うのか。丙は乙から甲全部ではなく2階部分のみ転借していたことから問題となる。
(2) この点、甲は建物全体を構成する一つの物である。だとすると、これを焼失させた以上、転貸借契約の内容にかかわらず全体の責任を負うべきである。したがって、甲につき全部の責任を負うと解する。
(3) したがって、甲は、建物全体についての損害賠償請求を丙に対してすることができる。
第3 乙丙間
1 甲乙間と同様、乙丙間の転貸借契約も終了する。
2 また、丙に重過失が認められる場合、乙は丙に損害賠償請求をすることができる(失火責任法、709条)
3 さらに、乙は、転貸借契約の目的物返還義務の不履行による損害賠償請求をすることができる(415条)。
 なお、これと上記2の損害賠償請求とは請求権競合となる。
以上


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