民法 問題50

 家具商を営む甲は、乙とタンス1さおを乙に売る契約を締結し、履行期に乙方に届けたところ、乙から受けとることを拒まれた。そこで、甲は、運送業者丙に運送賃を支払ってその運送を依頼し、これを持ち帰って甲の店舗に保管していたところ、地震により右店舗が倒壊したため、右タンスがき滅した。乙が受領を拒んだ理由が、
(1) 置場所が片付いていないことにある場合
(2) 右タンスに契約内容不適合がある場合
とに分けて、甲・乙の法律関係を説明せよ。


第1 問(1)
1 乙は、甲に対して、売買契約(555条)に基づき、本件タンスの引渡請求をすることが考えられる。
(1) もっとも、本件タンスはき滅している。本件タンスが、物の個性に着目した特定物だとすると、き滅している以上、乙の上記請求は認められない。
(2) では、不特定物だった場合はどうなるか。本件タンスが特定(401条2項)、すなわち「物の給付をするのに必要な行為を完了した」といえるかが問題となる。
 この点、特定の趣旨は債務者の負担軽減にある。だとしたら、それに見合う行為をした時点で特定が生じたといえると解する。
 本件では甲の債務は持参債務となる(484条後段)ところ、甲は乙方に届け現実の提供をしている。現実の提供があった場合は上記趣旨に見合う行為をしたといえるため、本件では特定が生じたと考える。
(3) したがって、目的物がき滅している以上、乙の上記請求は認められない。
 もっとも、甲側から代替物を提供することは可能であると解する。
2 次に、乙は、甲に対して、債務不履行に基づく損害賠償請求(415条)をすることが考えられる。
(1) 本件では、甲に故意・過失があった場合には、「責めに帰すべき事由」があるといえ、乙の上記請求は認められる。
 そこで、甲に故意・過失があったといえるかが問題となる。
ア この点、債務者は目的物につき善管注意義務(400条)を負う。もっとも、前述のとおり甲は本件タンスにつき現実の提供をしているため、492条の「弁済の提供」が認められる。その結果、債権者乙は受領遅滞が認められる。
イ 受領遅滞がある場合、413条の2第2項により、「当事者双方の責めに帰することができない事由」があった場合は、「債権者の責めに帰すべき事由によるものとみな」される。
ウ 本件では、店舗が倒壊するほどの大きな地震であることから、「当事者双方の責めに帰することができない事由」があったといえる。したがって、本件タンスがき滅したのは、債権者乙の「責めに帰すべき事由によるものとみな」される。
(2) よって、甲に故意・過失があったとはいえず、乙の上記請求は認められない。
2 では、甲は、乙に対して、売買契約に基づく代金支払請求権をいまだ有するか。危険負担が問題となる。
 この点、前述のとおり、き滅の責めは乙が負うため、債権者主義(536条2項)が適用される結果、乙の反対給付たる代金支払債務は存続する。
 したがって、甲の上記請求は認められる。
3 また、甲が、タンスを持ち帰り保管した際に費用が発生した場合は、413条2項によりこれを乙に対して請求することができる。
4 なお、甲が、乙の受領遅滞が債務不履行だとして損害賠償・解除を主張することも考えられるが、債権者に受領する義務は認められないため、甲は、債権者である乙に、かかる主張はすることができないと解する。
第2 問(2)
1 乙は、甲に対して、売買契約(555条)に基づき、本件タンスの引渡請求をすることが考えられる。
(1) 本件タンスが特定物の場合、前述のとおり乙の上記請求は認められない。
(2) もっとも、本件タンスはき滅しているため修補請求はできないものの、同等品の代替物の引渡しを請求することができる(562条1項)。
(3) では不特定物の場合はどうか。
 この点、本件売買契約に契約不適合がある以上、「債務の本旨に従っ」たとはいえないため、特定は生じない。そのため、甲は、代替物を用意して乙に引き渡す必要があることから、乙の上記請求は認められる。
2 では、甲は、乙に対して、売買契約に基づく代金支払請求をすることができるか。
(1) 不特定物の場合は、乙の代金支払債務は、甲の弁済の提供と同時履行の関係にあるため、代替物の弁済の提供をすれば、甲の上記請求は認められる。
(2) では、特定物の場合はどうか。
 この点、危険負担の問題となるが、前述とは異なり債務者主義(536条1項)となることから、甲の上記請求は認められない。
2 甲の、乙に対する、債務不履行に基づく損害賠償請求・解除が認められるか。
(1) 特定物の場合、前述のとおり、乙に受領義務はないため、甲の上記請求は認められない。
(2) 不特定物の場合、そもそも弁済の提供がないため受領義務自体が存しない。したがって、この場合も、甲の上記請求は認められない。
3 乙は、甲に対して、債務不履行・解除することができるか。
(1) 特定物の場合、上記代替物による追完がなされない場合、契約の解除(564条、541条、542条)をなし得る。
 また、契約不適合につき甲に帰責事由があれば、債務不履行に基づく損害賠償請求(564条、415条)をすることができる。
(2) これに対し、不特定物の場合、541条・542条の要件を満たせば、解除し得る。また、契約不適合につき甲に帰責事由があれば、債務不履行に基づく損害賠償請求(564条、415条)をすることができる。
4 なお、本件タンスが特定物の場合、甲は、弁済の提供の効果として、本件タンスを持ち帰って保管した費用を乙に請求することができる(485条ただし書)。
 不特定物の場合は、弁済の提供が認められない以上、甲は、乙にこれを請求することはできない。
以上


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