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Fateで学ぶ西洋美術: エウロペ編

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エウロペさん

エウロペを画題にした絵画の中でも、頭一つ抜けて知名度のある名画がある。博覧強記の読者諸兄はこの勢いある構図に見覚えのあることだろう。
ティツァーノの『エウロペの略奪』である。

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ティツィアーノ・ヴェチェッリオ(1559-62制作)『エウロペの略奪/The Rape of Europa』

ここで描かれているのは、「白い牡牛に変身したゼウスが王女エウロペを誘惑し、クレタ島へと連れ去った」という、オウィディウスの『変身物語』に由来するワンシーンである。

つぶさに観察してみれば、対岸の方に数名の人間がいることに気づくだろう。エウロペは赤いヴェールを振って対岸の侍女に助けを求めているが、侍女たちにはもはやエウロペが陸から遠すぎてどうすることもできない。一方でゼウスもエウロペの取り乱しぶりに混乱しており、上述の『変身物語』で「目は穏やかで……」と言及されたような眼の様子ではなく、驚愕に眼をかっ開いたような描写となっている。

フェリペ

このように説明すれば、まるでこの絵が行く先の暗さを暗示しているように聴こえるが、この後エウロペ自身はゼウスと3人の子をなしクレタ島の王家の母となる、エウロペが渡った海の向こうの西方一帯がヨーロッパと称されるようになるなど、『エウロペの略奪』は前向きな意味を含む主題である。この絵画は子宝に恵まれなかったスペイン王フェリペ2世に、子孫繁栄や領土拡大の意味を込めて送られたと言われている。後にフェリペ3世を授かりスペインは最盛期を迎えることを考えれば、巨匠ティッツァーノがこの絵に込めた意味の通りになったと言えるか。


さて、その後もエウロペは主題として絵画に描かれていくが、ティッツァーノの『エウロペの略奪』が直接影響を与えた絵画も存在する。その絵は、当時外交のためにスペインを訪れていた一人の画家に模写を描かせた。ルーベンスの『エウロペの略奪』である。

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ピーテル・パウル・ルーベンスによる模写(1628制作)『エウロペの略奪/ The Abduction of Europa』

ルーベンスといえばピンとくる方もいるだろう。アニメ『フランダースの犬』の主人公ネロが憧れた画家である。この模写はバロック期の巨匠ルーベンスが既に名声を高めた1628年頃、スペインのマドリードを訪れた際にティッツァーノの『エウロペの略奪』を模写したものである。もはや色味が違うだけの本物のようにしか見えない。この絵画はフェリペ3世の息子フェリペ4世に購入され、現在もプラド美術館の収蔵品となっている。


フェリペ2世のお抱えであった巨匠ティッツァーノの後輩として、スペインに滞在していた巨匠ルーベンスの親友として、また1人の巨匠が『エウロペの略奪』を自身の作品内に取り入れた。ベラスケスの『織女たち』である。

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ディエゴ・ベラスケス(1657制作)『織女たち/Las Hilanderas』

これも『変身物語』が出典であり、アテナとの機織り勝負において、タペストリーの題材としてゼウス(アテナの父)の浮気シーンを選び、アラクネがそれを織り上げる一幕である。この後アラクネはアテナに自死まで追い込まれた上に、蜘蛛に転生させられる。アラクネが選んだ題材として、この絵画では『エウロペの略奪』そのものを組み込んでいる。この絵画はフェリペ4世の猟師のために描かれたもので、今はルーベンスの『エウロペの略奪』とともにプラド美術館に収蔵されている。

ルーベンス


さて、今回紹介するエウロペが題材の絵画はここまでであるが、他にも「光の画家」レンブラントやフランス象徴主義を代表的画家ギュスターヴ・モローなど、著名な画家達が美しいエウロペを描いている。興味があれば西洋美術の世界に一歩足を踏み入れてみてほしい。


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