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ML試し書き1

 訪れた別れはあまりにも唐突だった。
 与えられた家でいつも通りの一夜を過ごした翌朝のこと。
「今日で君とはおしまいになるね」
「え?」
 うとうとしながら聞いていた私はその一言で目を覚ました。シーツが体に絡んだまま。
「ど、どうして……」
「妻に勘付かれたようでね。女なら許すが男なら許さんと匂わせてきて。すまないね。君のことは本当に可愛いと思っているのに」
 当たり前のように、起き上がった私の頬を撫でる。半開きになった唇が塞がれた。最後のキスだった。

「惜しんでくれるかな?」

 それが最後だった。私は裸で、シーツだけ纏って彼を見送った。

 言ってしまえば私は愛人で、四十過ぎた男が好きだという五十過ぎた男の夜の相手をずっとしていた。夜に限らなかったけど。

 日本に何十人いるかわからないような、精力的に金を稼いでいるような男だった。だから私を一人囲うために小さいながらも二人が一夜過ごせるような一軒家を買い与えることもできたのだ。

 そういう人の妻なので、愛人そのものは認めていたようだが、どうにもそれが男となると我慢ならなかったようだ。何が駄目だったんだろう。私は少しずつ高くなる日が、窓の形をした光の形を変えていくのを眺めながらぼんやりと考えた。

 彼のものどころか、自分の体温も徐々に冷めていく。このまま死んでしまいたいとは思わなかったが、どうしたら良いかもわからなくて、私はただ壁を凝視したまま、時間を無為に過ごしていた。


これはとても真面目な話ですが生活費と実績になります。