見出し画像

靴デザイナーが解説!靴イラストの描き方

どうもイラストレーターのみえです。
実は靴デザイナーもやっています。

仕事柄わりと常に靴を観察し、絵型なんかも描いているので、靴のイラストにはこだわりがあって、それなりに描ける自信もあります。

プライベートでイラストを描いていたり、色んなイラストレーターさんの絵を見たりする機会も多いのですが、「あぁっ、この靴は構造的にこうはならないんだけどな…」とか「なんか靴だけバランスがヘンだな…」みたいな違和感を感じることがあって、皆さん結構靴を描くのって苦戦しているんじゃないか、と思い、今回はイラストレーターとしてではなく、靴デザイナーとしての視点から「靴のイラスト」の描き方を解説していきます👠👟👞

(靴の絵柄は基本的に左足の外側を描くため爪先が右を向いていることが多いので、絵文字だと全部右足に見えるのが違和感です、笑)

●こんな人の役に立つかも

・「靴って描くのむずくね?」って人
・「ちゃんと足を描いてから履かせてるはずなのになんかうまく描けないんだよね」って人
・「靴描きたくないから全身の構図描かない!」って人

●なぜ靴がうまく描けないのか

それはずばり「靴の構造をいまいち理解できていないから」です!
顔や体、服のバランスは完璧なのに、靴だけ違和感があるイラストにたびたび出逢います。そういうイラストの靴は、靴デザイナーから見ると「構造的に無理のある形」「一般的な靴のセオリーからズレている形」になっていることが多いです。なのでイラストを描く際に最低限必要な靴の基礎知識をマスターすれば、違和感のない靴が描けるようになる、はず!!

●まずは足をちゃんと描こう

たいていの絵描きさんはまず裸の人体を描いてから服を着せていくと思います。これは靴でもそうでしょう。まずはベースとなる「裸足の状態の足」をちゃんと描きましょう。指とかはサンダルや下駄でない限り割愛しても大丈夫。

足の描き方

骨とか筋肉とかまでちゃんと把握できたら最高ですけど、そこまでする必要はないとおもいます。踵、くるぶし、指の付け根の位置を把握しとくくらいで十分です。くるぶしは割と重要かも。わたしも骨の構造とかの話になるとちょっとよくわかんないです。

●これだけは覚えとこう!靴の基礎知識

…爪先のゆとり「捨て寸(すてずん)」

靴というのは基本的に爪先にゆとりができるように設計されています。
歩くときに靴の中で足が前後に動くため、その衝撃を逃すための空間です。

捨て寸
捨て寸なし
捨て寸比較

どうでしょうか、これはもはや変態の域だと思うんですが、捨て寸を意識して描いた上段より、捨て寸を無視した下段の方が若干バランスが悪い(気がする)です。

捨て寸は、靴種にもよりますが1~2cmほどが理想と言われています。
実際の足のサイズより爪先より気持ち大きめに描いてあげるとサイズ感のバランスが整うはずです。

…靴はだいたい爪先が上がっている「トゥスプリング」

世の中のだいたいの靴は「トゥスプリング」といって、地面から1~2cmくらいつま先が上がっています。歩くときにつまずきにくくし、前へ蹴り出しやすくするためです。

トゥスプリング
トゥスプリングなし
トゥスプリング比較

ハイテクスニーカーなんかは結構ぐいっと上がっているものが多いので、スニーカーが上手く描けない!という方は意識してみてください。

…爪先から甲にかけてのカーブのバランス

無地のスリッポンとか履くとわかると思うんですが、指の付け根あたりにシワができますよね、そこを起点に靴が屈曲しているからです。このポイントを意識して甲のカーブを描くとバランスが美しくなります。

甲カーブ
甲カーブ無視
甲カーブ比較

(甲のカーブラインを「クリッピングライン」とか言ったりするんですが、厳密にいうとクリッピングって革に施す工程の名前なのでちょっとしっくりこないです。正式名称なんていうんでしょうか。「甲のカーブライン」?)

●「靴擦れしない靴」を描こう

新しい靴をおろしたとき、靴擦れすることってあると思うんですが、あなたはどこが靴擦れしますか?

人によって様々だとは思うんですけど、中でも踵(アキレス腱らへん)、つま先(親指・小指の付け根)、くるぶしあたりが多いんじゃないかと思います。これらは関節があり、足が動く支点となっている箇所です。

この支点である関節の動きを邪魔する靴は靴擦れします。我々靴デザイナーは、必ず商品の足入れ時は関節の動きを意識して、寸法を修正したり柔らかい仕様にしたりしています。そんなふうにして靴はつくられているので、関節の動きを無視した形の靴(=靴擦れする靴)は、自ずとバランスも悪くなってくるわけです。

画像11
画像12
画像13

靴のバランスをとるのが難しい、という人は、この考え方を意識して描いてみるとよいと思います。

●靴種別「描き方のポイント」まとめ

…パンプス

画像14
画像15

違和感のあるパンプスに多いのが、ヒールがついている「位置・角度がヘン」。
ヒールは基本的に踵の中心から地面に向かって垂直に取り付けられています。あんな細い物体で何十キロという体を支え、折れたら怪我につながるので靴を作る工程ではかなり強度にこだわるパーツです。絶対に取れたり折れたりしてはいけないので、ヒールは曲がったりしなったりしません。

またヒールのあるパンプスには、必ず「シャンク」といって土踏まずのアーチを支える硬いパーツが使われています。これがないと、アーチが歪み、ヒールに負荷がかかり、ヒールが取れたりして体を支えられません。なのでシャンクとヒールがついている部分もまた曲がったりしなったりしません。

…スニーカー

スニーカーはパーツが多く複雑なものが多いので難しいですよね。わかる。
でも基本的なパーツを把握しておけば結構ラクに描けるようになると思います。スニーカーといってもハイテク〜ローテクなどいろいろ種類があるのでざっくりと分類を分けて解説していきます。

◉レースアップスニーカー
スニーカーを描く上での難関は「紐の部分」だと思います。なんか複雑で描きにくいですよね。でも安心してください。レースアップを構成する要素を把握してしまえば楽勝です。たぶん。

画像16
画像17

レースアップの基本的な要素はこんな感じです。これを覚えておけばある程度のスニーカーはいい感じに描けると思います。

◉ローテクスニーカー
コンバ●スのオ●ルスターやアデ●ダスのスタ●スミスなどに代表される「ローテクスニーカー」。トゥスプリングは低めで、やや直線的な印象のものが多いです。

画像18

◉ハイテクスニーカー
ナ●キのエアマ●クスやリーボ●クのイ●スタポンプヒューリーなどに代表される「ハイテクスニーカー」。トレンドの「ダッドスニーカー」なんかもそうですが、このへんはソールで全てがキマってくる印象です。あとはパーツがとにかく複雑。
ブランドごとの個性も現れやすいので、本物を描きたい方は本物をよ〜〜〜く観察して描いてください!!!

画像19
画像20

(パーツが複雑すぎて心折れたので、細かいステッチやらディテールは割愛しました…。)

…その他

◉ローファー
学生さんが履いているような、カチッとしたローファーは、わりと固めな素材で作られていることが多いので、比較的直線的に、固そうなイメージで描くとそれっぽくなります。

◉革靴
仕事ではレディーズ靴しか描かないので、メンズの靴ってなかなか描き慣れないのですが、革靴は爪先が長く(ノーズが長い、とか言います)捨て寸も長いのでその辺を意識するとそれっぽくなります。

◉厚底
厚底のイラストでよく目にする違和感は「底」。
厚底の靴というのは基本的に底材が固く、屈曲しません。なので厚底靴を履いたキャラが走り出してる構図などで、靴底がぐにゃりと曲がっていたりすると「歩きやすそうだけど…構造的には無理があるな〜」となって見た目の違和感になってたりします。

●まあ、ゆうても絵は自由だからネ

というわけでたらたら能書きをたれてきたわけですが、あくまで「靴デザイナー」という視点で見たときに「仕様書にこの絵型で描いたら工場に怒られるな」という特殊な感覚を持ってしまっているが故に違和感を覚えるだけなので、「あんたの違和感なんぞ知ったこっちゃないわ!」でも全然OKだと思うし、「絵」としての世界観とかが出来上がってたら靴のセオリーなんて無視してたって全く何の問題もないんですけど、「靴、描くのむずっ」と思っているひとのお役に立てたら幸いです✌️

★イラスト添削企画はじめました!

予想以上に反響いただいたので、「靴のイラストがうまく描けない!」「こんな靴はどう描いたらいいの?」という方に向けて、靴屋目線でイラストのアドバイスができれば…!と思って企画を立てました🙌🏻

ツイートを読んでいただき、イラストと困ってるポイント、参考画像などリプでもDMでもRTでもよいので、送っていただけたらコメントさせていただきます!どうぞよろしくお願いします〜🙇🏼

★「靴の描き方」が本になりました!

デザイナーだからこそ解説できる「靴の描き方」を凝縮した「靴・足元のコレクション」発売中です✨

パンプス、革靴、スニーカーはもちろん、サンダルや、下駄、草履など日本古来の履物までみっちり解説しているほか、知っていると役立つ靴の豆知識などもふんだんに詰め込みました☺️

オリジナルデザインの靴が60種以上収録されており、どれもデータダウンロード可能、トレース・商用利用可能!となっております✨こちらもなにとぞよろしくお願いします〜💃🏼💃🏼💃🏼

いいんですか!?