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ソラを見上げて #24 閉じた扉

2022年12月 都内
深夜の六番町SMEビルの5階には、まだ明かりが点いていた。

―SME六番町ビル・多目的スペース(OnSITE)―

梅:お時間取っていただきありがとうございます。

今:気にするな。それより体調の方はどうだ?

梅:大丈夫です。問題ありません。

今:そうか。で、わざわざこんな時間を指定したって事は……聞かれたくない話か?


梅:どうしても、お伝えしておきたい事があります。

今:伝えておきたい事?

梅:新キャプテンに任命されたばかりで、こんな事を言うのは申し訳ないんですが……

今:おいおい何だよ、怖いよ。

梅:私は、空扉を歌いません

今:……は? 何だって?

(予想外の言葉に耳を疑う今野)


梅:これから先、私は空扉を歌いません。

今:歌いませんって、空扉は梅澤がセンターの曲だろ!

(思わず立ち上がり、声を荒げる今野)


梅:お願いします。

今:お願いしますってなんだよ、歌いたくないって事か?

梅:歌いたくない訳じゃありません。でも  歌えないんです。今の私には、どうしても無理なんです。

(俯き涙を流す梅澤)


今:どうしても……か?

梅:……

(黙ってうなづく梅澤)


今:だが、遅かれ早かれファンは気づくぞ? そうなったらどうするつもりなんだ?

梅:その時は、私が……

今:いや、余計な事を考えさせて悪かった。とにかく今日は帰って休め。マネージャーとスタッフには俺から伝えておく。

梅:すみません

(そう告げた今野は、席から立ち上がり会議室出口へ向かう)


今:……はぁ

(立ち止まり深くため息をつく今野)


今:梅澤。

梅:はい

今:久保の事は残念だった。正直、俺もまだ悪い夢を見ている様な気がするよ。

梅:……

今:だがな……辛くても、悲しくて苦しくても、それでも前に進まなくちゃいけない時がある。今の乃木坂がそうだ。そのためにも梅澤、お前の力が必要だ。それを自覚しておいてくれ

(ガチャンと扉が閉まる)


梅:……


この日、梅澤は自らの意思で空扉を封印。

同月、乃木坂46は紅白歌合戦に出場。齋藤飛鳥がグループから卒業した。

梅澤は新キャプテン就任の不安、齋藤飛鳥卒業の寂しさを抱えたまま新年を迎えるのだった。

また、梅澤と桃子は病院で衝突して以降、連絡を取ることはなかった。

そして  



―仙台・某マンション417号室―

『……ん』


『あれ?』

『ここは、仙台?』

『私、どうしてここにいるんだろう?』


とあるマンションの一室で目を覚ました女性。
彼女がソラと呼ばれるのは、それから約二年半後のことになる。

ーつづくー



【おまけ】

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