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ソラを見上げて #31 他人のソラ似

※物語は【#19 海へ続く螺旋の階段】の直後から始まります


―仙台服飾専門学校・実習室―


講師:乃木坂……46だ。

〇:乃木坂!?

□:すげーじゃん! もう将来約束されたようなもんじゃねーか!

〇:乃木坂……

△:どうした、驚きすぎて声が出なくなっちまったか?

〇:乃木坂って、なんだ?

講師:○○、乃木坂46を知らないのか?

〇:なんすか、寺の名所とかですか?

△:嘘だろ?

□:十代男子の風上にも置けん発言だな。

講師:乃木坂46というのは、アイドルグループだ。


〇:アイドルって……歌って踊る的な?

□:そうだよ。テレビとかで見たこと一度くらいあんだろ?

〇:いや、さっぱり

△:そんな事より! どうすんだよ。

〇:どうって、なにが?

講師:乃木坂さんが○○の作品を使いたいって話だ。勿論受けるだろ?

〇:いや、大切な作品なんで名前も顔も知らない人達に使わせる気はないっす。

講師:そうだろうそうだろう……ん? え、断る気か!?

〇:断るっつーか、保留で。

△:はぁ?

□:正気か!?

〇:センセーとお前等の反応で随分有名だって事は何となく分かった。だけど、それと作品を使うのは別問題だ。

講師:おいおい、それじゃあ私は乃木坂さんに何と言えば……

〇:いや、だから保留って言ってくださいよ。

講師:そんな失礼な返事出来るわけないだろう!? 学校を潰す気か!

〇:そんなんで潰れねぇっすよ。それと、俺達これから打ち上げあるんで、明日にでもゆっくり相談しましょ。

△:まーじか

〇:行こうぜ、そろそろ時間だろ?

□:俺なら即決なのに……

(唖然とする講師を残し、実習室を出ていく3人)

講師:クビ、覚悟しなきゃかなぁ……



―校内・渡り廊下―

△:おい。打ち上げは夜からだろ。なんであんな嘘ついた?

〇:だってあぁでも言わなきゃ逃げられないだろ。

□:乃木坂から逃げる男なんて、お前しかいねーだろうな。

〇:今夜はマスターがご馳走を沢山作ってくれるんだ。そっちの方が楽しみに決まってんだろ。あー、腹減ったなぁ~♪

△:和ちゃんに会えるチャンスだったのに……
□:咲月ちゃんに会えるかもしれなかったのに……



(4時間後……)

―○○の自宅マンション・夕方―

(パソコン画面にメール受信の通知が表示される)

ソ:お、メールだ。なになに……


【ソラ、今日は学校が終わったらそのままマスターの所に行くことにしたよ。ソラの分もちゃんと持って帰るから待っててね。それと、今日は貸し切りだから内緒でお店に来ても野球は見られないからね】

ソ:うーん……なんでバレた?



(PM18:00)

―野球狂の詩・店内―

マ:という事で! ○○、優秀賞受賞おめでとう! カンパーイ!


全員:カンパーイ!

(ソフトドリンクが入ったグラスを交わす○○達。マスターはビールを一気飲みしている)


マ妻:なんでアンタが乾杯の音頭取ってんのよ。今日の主役は○○でしょうが。

マ:だぁっはっは! いいじゃねーかよ、身内みたいなもんだよ。なぁ○○!

〇:はい。俺こういうの初めてだし、乾杯とかやった事ないのでマスターにお願いしたんです。

マ:ほらぁ~

(満面の笑みでドヤ顔するマスター)


マ妻:ま、なにはともあれ楽しんでいきな!

マ:喜んでぇ!

マ妻:アンタじゃなくて○○に言ったの! 喜んでないで働け!

〇:あっはっは!

マ:だぁっはっは!

マ妻:もう……アンタ達、笑い方が似てきたんじゃない?



(PM20:30)

(テーブルの皿を片付けているマスターの妻)


△:いやぁ、マジで美味かった。

□:いいよなぁ、こんな美味い店のまかない食えるんだから。

〇:だろ? マスターとおかみさんに会えたのは本当にラッキーだったよ。

マ妻:それはコッチのセリフだよ。この店を勧めてくれた友達にも感謝しないとね!

マ:おぉ、そうだ! 君達が勧めてくれたんだろ?

△:え? お前が言ったの?

□:いやいや、俺も知らないぞ。

〇:今日はちょっと急用で来てなくて……

△:○○、俺達以外の友達って……誰だ?

□:この店を勧めたって事は……地元の友達じゃないよな?

〇:あー、えーっと……その、何て言ったら  

マ:ん? どうした○○。

△:まさか……あの子か?

□:あー! 絶対そうだ!


マ妻:あの子?

マ:あの子ぉ?

〇:いやいや! マスター達は気にしなくてOKですから! ホントに……

□:マスター聞いてくださいよ。○○の奴、課題のモデルを  

【カランコロン…】

(入口のドアに括り付けられている鈴が鳴る)


マ妻:あら、誰かしらね? 貸し切りって看板出してるのに……はーい!

(立ち上がり、店の入り口へ向かうマスターの妻)


マ:で? ○○の課題のモデルがなんだって?

△:それがめちゃくちゃ可愛い女の子で  

マ:なんだって!?

〇:だぁぁ! 勝手にしゃべんなって!

マ妻:えぇぇぇぇ!?

(店内にマスターの妻の大声が響く)


マ:なんだ? おい、どうした!?

(急いで入口へ向かうマスター)


〇:大丈夫かな……何があったんだろ?

マ:えぇぇぇぇぇ!? どうしたの? あ、ちょっと今日は貸し切りだから……

(マスターの声と共に長身の女性が○○が座るテーブルにやってくる)


?:失礼します。この中に、○○さんはいらっしゃいますか?

〇:おれ……ですけど。

□:う、うわぁぁぁぁ! なんでぇぇぇ!?

△:うそだろぉぉぉ!?

(驚きのあまり、慌ててテーブルの陰に隠れる△△と□□)


マ:梅ちゃん!

〇:梅ちゃん?

△&□:乃木坂のキャプテンが乗り込んで来たぁぁぁ!

〇:キャプテン? 乃木坂?

梅:打ち上げの最中に申し訳ありません。私は梅澤美波といいます。どうしても○○さんにお会いしたかったのでこちらに伺いました。


〇:はぁ……で、何を伺いたいんですか?

梅:こちらの依頼を保留した理由も含めて、色々と。

〇:保留?

△:まさか……

□:センセーが言ってた乃木坂からの依頼って……

梅:今日、仙台服飾専門学校へ電話して衣装を使わせてほしいとお願いをしたところ、○○さんが保留と言っていると伺いましたが……

〇:あー、そのことか。

梅:職員の方に直接○○さんとお話ししたい旨を伝えたところ、ここで打ち上げをしていると教えていただきました。

〇:プライバシーもへったくれも無いな。

梅:それに、ここのご夫婦とは知り合いなので突然伺っても大丈夫だと判断しました。

〇:知り合い? 本当ですか、マスター

マ:前に話したことあったろ、応援してる子がいるって。

〇:あの特別メニューの?


マ妻:そう。その子よ

〇:まじか。

(笑顔で手を振るマスターの妻。会釈で応える梅澤)


□:どういう状況?

△:一旦情報を整理しよう。○○の作品を使いたいって連絡してきたのは乃木坂のキャプテンだった。だが○○は作品の使用を保留にしたからキャプテンが打ち上げに乗り込んできた。そして、この店のマスターとおかみさんはキャプテンと顔見知りで、○○はここでバイトしてて……

□:駄目だ! 情報量が多すぎる!

梅:出来れば場所を変えませんか? 込み入った話になる可能性があるので。

〇:まぁいいですけど。マスター、個室使ってもいいですか?

マ:んぇ? お、おぉ! いいぞ。

(席を立ち、奥の個室へ移動する○○と梅澤)


マ妻:だけどさ、○○と梅ちゃんが何を話すんだろうね?

マ:さぁな。○○の反応からして初対面って感じだったが……

マ妻:でも梅ちゃんは○○を探しに来たんでしょ?

マ:う~ん、さっぱりわからん。



―野球狂の詩・個室―

梅:ここなら誰にも聞かれる心配は無さそうですね。

〇:込み入った話って何ですか? 保留にした件をお金で何とかしようだなんて思ってないですよね?

梅:ごめんなさい。ハッキリ言わせてもらうけど、○○さんの作品を使わせてほしいから連絡した訳じゃないの。


〇:はぁ?

梅:ただ、【sora】という作品に興味があったから連絡したの。

〇:それだけの為に嘘の依頼までしたって事ですか?

梅:そう。

〇:いいんですか、そんな嘘を平気でついて。アイドルなんでしょ?

梅:そんな事はどうでもいい。どうしても教えてほしい事があるの。

(梅澤の声のトーンが下がる)


〇:……なんです?

梅:【sora】のモデル。あの子は誰?

〇:どういう意味ですか?

梅:そのままの意味よ。あのモデルが誰なのか教えてほしいの。

〇:どうして教えなきゃいけないんですか?

梅:それは  

〇:アナタの話は聞きますけど、答えるとは一言も言ってませんからね?

梅:展示会のパンフレットに『作品のモデルは主に生徒同士で協力して制作しています』って書いてあった……学校の生徒なの?

〇:僕の話聞いてました? だから答えるなんて  

梅:おねがい!

(テーブルに手を叩きつける梅澤)


〇:……なんで、怒鳴った方が追い詰められた顔してんすか。

梅:ごめんなさい。

〇:どうしてそこまでモデルに執着するんですか?

梅:私の、親友にそっくりなの。

(視線を伏せたまま、携帯電話の画面を○○に見せる梅澤)


〇:……!!!

梅:ね? そっくりでしょ?

◯:そう……ですね。

梅:だから知りたかったの。彼女と知り合いなのかなって

◯:え、それだけ?

梅:うん。

◯:なんだ……凄い形相だから盗作とか権利問題とか言われるのかと思いましたよ。

(安堵の表情を見せる〇〇)


梅:そんなんじゃない。ただそれだけよ。

◯:ならお答えしますよ。作品のモデルの顔がアナタの親友に似てるとしたら……それは偶然、他人の空似ってやつです。採寸は知り合いに頼みましたけど、顔は適当です。サイズに合わせてボディラインを描いて、最後に適当に顔を描いただけですから。

梅:そうなんだ……さっきと違って随分あっさり答えてくれるのね。

◯:質問の意図が分かったんでね。じゃ、そろそろ戻りましょうか

梅:三年経つの、今年で。

(席を立つ○○。座ったまま話を続ける梅澤)


◯:三年? 何の話です?

梅:親友が亡くなってから

◯:……⁉

梅:彼女、私と同じ乃木坂のメンバーだったの。

◯:そうでしたか。

梅:あの日、展示会で同じ顔を見つけた時は驚いた。

〇:……

梅:もちろん、製作者が乃木坂のファンで意図的に似せて描いた可能性もある。だけど、【sora】からはそんな薄っぺらいモノを感じなかった。一緒に見ていたメンバーも言っていたけれど……

〇:だからそれは  

梅:生きてるみたいだった。今もそこに存在してるかのように。

〇:……

(黙って再び席に座る○○)


梅:どうしてあの表情で描こうと思ったの?

〇:質問の意味がわからないです。

梅:もし乃木坂46を知っている人なら……笑顔で描くハズ。アイドルの彼女を知っている人ならきっとそうすると思う。

〇:なにかご不満で?

梅:……

(○○の問いに無言で首を振る梅澤)


梅:笑っていないのにどことなく幸せそうで、でも少し寂しそうな表情。アイドルの表情じゃない、むしろ私達にしか見せない様な表情だったから……

〇:……

梅:だから、ただファンが似せて描いた様に思えなかった。

〇:この話、いつ終わるん  

梅:展示会には作品の他に、サイズや採寸データまで公開されていたでしょ?

〇:まだ続くのかよ……

梅:私はそれを書き留めて東京に持ち帰った。そして、かつて親友が着ていた衣装と照らし合わせた。そしたらどうなったと思う?

◯:……さぁね。

梅:同じだった。何もかも。

◯:……

梅:キミが作った【sora】と乃木坂の衣装。そしてモデルの顔と私の親友の顔。

◯:何が言いたいんです?

梅:モデルの子。本当に適当に描いただけなの?

〇:そうだって言いましたよね?

梅:じゃあどうして最初にそう言わなかったの?

〇:え?

梅:キミは私が『この子は誰?』と聞いたら『どうして教えなきゃいけないんですか?』と言った。

〇:それは……

梅:私の目を見て答えて。

〇:……

(言われるがまま梅澤の目を見るが、数秒も経たない内に目を逸らしてしまう○○)


梅:私が『この子は誰?』と聞いた時、キミの頭の中には別の答えが浮かんでいた。私の親友と同じ顔の誰かを……違う?

(再び携帯電話の画面を〇〇に見せる梅澤)


〇:最近のアイドルは一般人に取り調べみたいな事するんですね。それもファンサービスってやつですか?

梅:アイドルはね、相手の目を見た一瞬で何を考え、何を求めているか読み取る事が出来るのよ。

◯:アイドルよりFBI捜査官の方が向いてるんじゃないすか?

梅:なりふり構ってられないのよ、私も。

◯:どうせ本当の事を話しても、アナタはきっと信じませんよ。

梅:大丈夫。キミが嘘を言ってるかどうかは何となく分かるから。

◯:それもアイドルの特殊能力ですか?

梅:ふふ、そうよ?

◯:もしデザイナーになれたとしたら、絶対にアイドルとは仕事したくないっすね。

梅:そう? 良いビジネスパートナーになれそうな気がするんだけど?

〇:人の目を見て話すのが苦手なんでね。



―野球狂の詩・店内―

(梅澤と○○が戻ってくるのをテーブルで待つ四人)

マ:まだ話してんのかな?

△:乃木坂のキャプテンと密室で何を話してんだよ。

□:(小声)羨ましい……

マ妻:男の子だねぇアンタ達。

マ:そういえば、〇〇の課題がどうとかって言ってたよな?

(身を乗り出すマスター)


△:あ、その話しちゃいます?

□:優秀賞取った事だし、見せても怒らないだろ。

マ妻:あぁ、さっき言ってたあの子?

△:そうです。学校の課題で制作した作品のモデルの子なんですけど、〇〇に聞いても何も話さないんです。学校の生徒じゃないと思うんですけど……

□:この水色の衣装を着た子なんですけどね。

マ:どれどれ

(携帯電話の画面をマスターに見せる□□)


マ:……え?

マ妻:ほ、本当にこの子なの? 何かの間違いじゃ……

△:いや、だってここに〇〇の名前が入ってますよね? 間違いないですよ。

□:ね? 超可愛いでしょ?

△:その上、乃木坂46から直々にオファーがあったのに『知らね―から保留』とか生意気な事を言うんですよ、どう思います? 勿体ないですよね⁉

マ:あ、あぁ……そうだな。

マ妻:(小声)アンタ、もしかして梅ちゃんがここに来た理由って……

マ:とんでもない事になってきたな。


―つづく―



【おまけ】

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