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ソラを見上げて #18 両手に黄色い花束を

探し物は、時として向こう側からやってくる事がある。だが残念なことに、それに気付ける者はごく僅かしかいない。

―○○の部屋・夕飯―

(夏の課題を提出して10日が過ぎ……)

ソ:さぁて! 今日は週に一度のご飯の日だぁ♪ 早く帰ってこないかなぁ

【ガチャ……🚪】

〇:よっと……ふぅ、疲れた。

ソ:あ、帰ってきた! おかえり○○!

(元気いっぱいの笑顔で出迎えるソラ)


〇:お……おぉ、ただいま。

ソ:どうしたの?

〇:いや、帰ってきておかえりって言われるとさ……

ソ:へへ、嬉しいでしょ?

〇:うん。それに、一緒に住んでるみたいだなって。

ソ:え……///


〇:一緒に過ごす様になってしばらく経つのに、おかえりって言ってもらうと改めて実感するっていうか……一緒に生きてるんだなって

ソ:片方は死んでるけど?

〇:そうだった。あっははは

ソ:ふふふ。ほら、早くあがったら?

〇:うん。あ、そうだ! 今日はソラに報告したいことがあるんだ!

ソ:報告したいこと?

〇:そう。とにかく早くご飯のしよう!

ソ:なになに、どうしたの?




ソ:で、報告したいことって?

〇:ソラがモデルしてくれた課題なんだけど……

ソ:うん

〇:校内コンテストの優秀作品に選出されて、仙台駅の展示会に出してもらえる事になりました!

ソ:えぇぇぇ! ホントに? やったじゃん○○、おめでとう!


〇:ありがとう! 発表された時、もう本当に嬉しくてさ……

ソ:ふふ、じゃあマスター達にも報告しなきゃね。

〇:そうだね。みんなのお陰で貰えた賞だからね。

ソ:何回フィッティングしたことか……

〇:その度にソラが暴れて生地が裂けちゃってさぁ……

ソ:だってくすぐったいんだもん


〇:それも今となっては良い思い出って事で。

ソ:そうだね。さ、ご飯食べよ?

〇&ソ:いただきまーす!

ソ:さぁてなにから食べようかなぁ♪

(実体化したソラはテーブルに並んでいる料理を楽しそうに眺めている)


〇:ソラ

ソ:ん?

〇:ありがとう

ソ:え? はわ……

(ソラを力強く抱きしめる○○)


〇:今までこんなに嬉しかった事ないよ。ぜーんぶソラのおかげ。

ソ:んん……///

〇:本当にありがとね。

ソ:いぃぃいつまで抱きしめてんのよ!


〇:あと10秒くらい?

ソ:えぇ!? あと10秒もするの……///

〇:うん。感謝の気持ちを全部伝えなきゃ……

ソ:んもぅ……早くしてぇ!

(10秒後……)

〇:さ、冷めないうちに食べよ?

ソ://///(ぷしゅ~)


〇:あれ、食べないの?

ソ:く……

〇:く?

ソ:食えるかぁぁぁ! いきなり何してくれてんのよ! バッカじゃないの? 私の事、前菜にして何十秒もだっ抱きしめ、るなんて……


〇:感謝を伝えただけだろ?

ソ:あんなに強く抱きしめられた私の身にもなってよ!

〇:ご、ごめん。痛かった?

ソ:痛くは、なかったけど……

〇:じゃあ、嫌だった?

ソ:嫌なんて、言ってないじゃん……


〇:……///

ソ:……////

〇:とっとりあえず食べよっか。冷めるし、時間勿体ないし……

ソ:うん///

(いつもは限られた五分間で料理を口いっぱいに頬張るソラだが、この時は少し大人しく食事を楽しむのだった)



(翌日……)

―○○の部屋・夜―

ソ:遅いなぁ。友達とご飯でも行ってるのかな?

(ベッドに腰かけて○○の帰りを待つソラ)


【ガチャ……🚪】

〇:ただいまー!

ソ:あ、帰ってきた。おかえり! ってどうしたのそのダンボール!

〇:どれを買うか迷ってたら遅くなっちゃった

ソ:随分大きいけど、デザイン用の画材道具とか?

〇:何言ってんの。ソラのために買ってきたんだよ。

ソ:私のため?

〇:ほら、早くリビング行こう!

ソ:なによ、自分だけ楽しそうに……教えてくれてもいいじゃないの。

〇:いいからいいから、こういうのは開ける時が一番楽しいんだから。

(いそいそと荷物をリビングに運ぶ〇〇)


〇:じゃあ開けるよ? ソラ。

ソ:うん

【ジャキッ、ビリビリ……ガサゴソ】

ソ:これって……まさか、もしかして!


〇:言ったでしょ? ソラの為に買ってきたって

(大きなダンボール箱を開けて出てきたのは……)

ソ:テレビだぁ! やったぁぁ! 嬉しい!


〇:喜んでもらえて良かった。

ソ:喜ぶに決まってるじゃん! うわぁ……本物だぁ、えへへ

〇:なんだよ本物って

ソ:でもどうして私の為に?

〇:どうしてって、ソラのお陰で課題制作出来たんだよ? その上、優秀作品にまで選ばれたんだ。お礼しなきゃ末代まで呪われるよ。

ソ:ちょっと? いくら私が地縛霊だからってバチが当たるじゃなくて、呪われるって表現にしなくてもいいんじゃない?


〇:お、鋭い。

ソ:もぅ、人が素直に喜んでたらこれだもん。ふふ……

〇:ソラがいなかったら、きっと今頃一人で悩んで抱え込んで……マスター達にも会えないまま挫折して、デザイナーの夢を諦めていたかもしれない。

ソ:私も○○に会えなかったら、名前が無い怖がられるだけの幽霊のままだった。死んじゃってもこんなに楽しくてうれしい事があるなんて、なんだか夢みたい。

〇:ソラに会えてよかった。

ソ:私も。


〇:なぁソラ。

ソ:なに?

〇:どうしてソラは死んでるの?

ソ:え?

〇:僕達はこんな出会い方しかなかったのかな。もっと早くソラと会えていたら  

ソ:だめ。それ以上は言っちゃ……だめ。


〇:……ごめん

ソ:ううん、嬉しいよ。

〇:気が付くと忘れてるんだ。ソラが幽霊だって……

ソ:私は○○の目の前にいる。今はそれでいいじゃない?

〇:そうだね

ソ:ふふ。ねぇ、せっかくだからテレビ見よ?

〇:よし。やるか!




〇:受信設定完了……よし、点けるよ?

ソ:なんかドキドキするね。

〇:スイッチオン!

(リモコンの電源ボタンを押すと、テレビ画面に食べ歩きの番組が映る)


ソ:映った! やったぁ! うわぁ、おいしそう。

〇:すご。めっちゃ綺麗に映るね。

ソ:あぁぁ……早くこのテレビで野球が見たいなぁ。うふふ、えへへへ


〇:ソラ、あっぶねぇ笑い方してるよ?

ソ:もう嬉しくて嬉しくて……

(ソラは満面の笑みでテレビを撫でている)


〇:あっはは。じゃあ僕は夕飯の支度してくるね

ソ:はーい♪



(数分後…)

〇:いただきまーす

ソ:……

(ソラは夢中でテレビを見ている)


〇:女優さんもこういう番組に出たりするんだね。

ソ:……

〇:うわぁ、おいしそうなご飯。やっぱり土鍋で炊くと違うのかな?

ソ:……


〇:ソラ?

(異変を感じた○○がソラの顔をのぞくと……)


〇:えぇっ? どうしたの!? なんで泣いてるの?

ソ:え? …あれ? わたし泣いてた?


〇:気づかなかったの? 目も真っ赤だよ。

ソ:やだ、ホントだ。別に悲しくないのに……どうしてだろ? あはは。

〇:もしかして、生前は凄く貧乏でご飯も満足に食べられなかったとか?

ソ:んなわけあるか! 白米で泣けるほど酷くなかったわよ! 多分……

〇:だったらなんでそんなに……

ソ:わかんない。テレビ見てただけだし


〇:そんなに感激するような食レポじゃなかった気がするけど。なんか、しゃもじ持って歌ってたし

ソ:別に悲しくなったわけじゃないから。気にしないでご飯食べて?

〇:う、うん

(戸惑う○○を気遣うソラ。テレビからは楽しそうな会話が流れている)


『今はちゃんとIH使えてんの?』
『あー、あったねぇ』
『あーあー聞こえません。いつまで覚えてるんですか、もう!』


ーつづくー



【おまけ】

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