言えず終いのI love you
ロンドンの中心部に位置するwarrant street。私が滞在していたアパートがある場所。I love youを置いてきた。盛大な忘れ物。
詳しく書いてしまったら溶けそうで、無くなりそうなので書かない。というか書けない。22年間生きてきて、こんなに夜が更けて欲しくないことも、朝が来て欲しくないことも、さよならを言いたくないこともなかった。いつも直感で生きてきたからこそ、自分の直感に従うしかないし、それが正しいかは誰にも分からないこと。ただ一つ言えることがあるとするならば、日本から5000マイル以上離れたイギリスの首都で、カラッと乾いた気持ちのいいある夏の夜、生まれて初めて恋に”落ちた”。それは、”この人は悪い人じゃないし私のことを好きでいてくれるから”とか”一緒にいて悪い気はしないから”とかいう、今までの自分に言い聞かせるスタイルの”好き”とはまるで違う、ショッキングな”好き”だった。
あらゆる巡り合わせを駆使して出会っても、12時間後には私がパリへ発つのでサヨナラ。ハリウッド映画もドン引きレベルの設定で、私たちはどうしようもないくらいお互いに惹かれた。限られた時間で、ゆっくりと、でも深く。だからこそ、怖くてたった一言 I love youが言えなかった。サヨナラしてから、パッキングをして、ユーロスターの中でラブレターを書いた。なんとなく、プラスチックなiPhoneでタイプするのが嫌で、手帳に殴り書きをした。伝えたかったことが伝えられなかった後悔と、今送らなかったら一生後悔するという恐怖から、勢いで写真を撮って送った。Too muchでは?という心配とは裏腹に、彼はその夜のことをonce in life timeと呼んだ。それだけで満足だった。惚れたが負けとはこの事。
彼は−8時間の遠く離れたロンドンにいて、私は日本で冴えない大学生。今どうこうしたいわけではないし、そんな事をしても意味がないのを理解する程度には分別がある。ただ、もう一度会いたい。会って何をしたいのかも、これからどうしたいのかも分からない。彼は新たな環境で1人で生きていて、私は家族や周りの人に甘えて相変わらず何一つ不自由なく生きている。それなら、たった12時間フライトを我慢すればいいだけなんだから、今何もしなかったらそれこそ一生、自分自身を恨む気がする。アクションの起こし方が、もはや女の子に会いに行く映画のヒーロー。毎日ガーリーなドレスを選んで、髪を巻いて、メイクアップしても、どうしても毎晩窓を開けて空を見上げ、プリンスを待つ暇そうなヒロインにはなれない。ファイナルと今引き受けているお仕事が終わったら、また大陸をひとっ飛びしよう。
彼が私に手を差し伸べた時、彼が私にキスをした時、彼を駅まで送って行った時、サヨナラをした時、今思えばチャンスはあったのに、直接言えなかったI love you。この大きな忘れ物は、放っておいても誰も処分してくれない。
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