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安らぎ (hostel)

hostelの一室。
この一つの空間には、安らぎがある。
普段には無い、安らぎだ。
わたしは深く眠るために、
時々こうして、日常ではない場所で眠りたい。
少しだけ人のペースを知って、
少しだけ自分のペースを知ってもらう時間。
時々、自分の部屋以上に欲することがある。
隣り合わせの人の姿を見ることも、
上に寝転ぶ人との会話も無く。
夜、もしくは朝のおやすみを、
一人心で唱えながら眠る。
ただただ、ひたすら眠るのだ。

朝起きた時、
極力足音を立てないようにひっそりと歩いて、
朝日が見える窓際を見て、部屋に入る。
洗面台の上の花瓶に挿してあった
白い雛あられのような花に、
初々しく、清々しく伸びる
薄ピンクの花を見る度に。
浮腫んだ(むくんだ)目をぎゅっと瞑り、
大きく開けてを何度か繰り返す。
一人のようであって、ひとりではない感覚を、
瞳の奥に温かく伝わってくる
この小さな心の散りばみに、
なんとも癒されるように感じるのだ。

...
お酒の抜けきらない身体を潤すコーヒーの香り。
それが、渇いた喉を通るときの、
ホッとする瞬間がわたしは堪らなく好きだ。
深く、胸の深くにあった
蟠り(わだかまり)が溶けて、
何度か深いため息をつく。
副交感神経の機能を呼び起こして、
この心地よさに浸る。
ああ、今日くらいなにも考えずにいられそうだ。
誰とも知らない人たちとの会話に
勤しんで(いそしんで)みたり、
出会ったばかりの人たちの有意義な時間を
少しだけ分けてもらおう。
暑いですねだとか、
この写真綺麗だねとか。
そんな会話一つひとつに、
新しい体感が増えていく。
会話の言葉が身体に行きわたる頃には、
きっと夜になっているだろう。
そのくらいゆっくりと、ゆっくりと
hostelでした会話が脳内に呼応している。

そうやって、
必要不可欠な感情や、
内で処理し切れなくなった想いを
同時に吐き出したい日もある。
日々、確かに、
自分の部屋の中での眠りには安らぎがある。
でも、いつも少しだけ、
これをやらないといけない。
そんな迫られる感情が身体に巡ってしまうのだ。

けれど、hostelにいると、
何故だか今日は何もしなくていい。
そんな体感を覚える。
何もしなくていいんだ。
ただただ、ゆったりと安らいで眠って、
少し会話をする。
それだけの安らぎを欲して。

fin.

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