見出し画像

「奇跡の瞬間 ~ Your Song/Elton John」

 “Your Song”

 多くの人の記憶に、しっかりと刻み込まれていることだろう。

 楽曲の魅力もさることながら、ポール・バックマスターによるストリングス・アレンジ、編曲者自らの手によるチェロの表情、そして、エルトンの声のコンディション、息づかいまでが、絶妙な出来ばえになっている。
 デモ・テープを聴いたジョン・レノンが、ビートルズ以来、最も新鮮な体験だと発言したのも頷ける。

 この曲の中で、奇跡を感じる瞬間がある。

 曲の冒頭近く。歌詞で示せば“It’s a little bit funny”の“funny”が発音された瞬間だ。

  この歌のメロディーは、主和音の第3音(この表現に馴染みがなければ、長音階のミの音)で始まる。何かを、そっと語りかけるように始めたければ、この音が最適。
 主音(長音階のド)だと、「強い思い入れ」とか「物語の始まり」という、何かきっぱりと始まる感じを表現するのに適しているし、第5音(長音階のソ)だと、もっと開けっぴろげな感じ。
 
 で、この歌の歌い出しは、「語りかけ」の第3音。その音を中心とし、下方隣接音との間をゆらゆらと漂う。

   ミレミレミレミミー

 ダイレクトに思いをぶつけるのではなく、そっとつぶやく感じ。
 その第3音をストーンと伸ばすと同時に、“funny”というナイーヴな歌詞が現われ、コードチェンジする。微妙な浮遊感のあるⅣmaj7。メロは、そのなかでも最も不安定な第7音。エルトンの個性的な声、気持ちのこめられた歌唱で聴こえてくる。いくつかの要素が、この瞬間に同時にやってきて、魔法のように心をゆさぶられる。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?