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いつか死にゆくあなたへ

『2572年13月11日』
『音声データ受信、サブコンピュータヲ起動シマス』
『更新データ取得中…ネットワークエラーヲ検出シマシタ』
『ファイルガ正シク再生デキナイ可能性ガアリマス 音声データヲダウンロード中……』
『音声データノダウンロードガ完了シマシタ』
『送信日:2552年13月11日、タイトル未設定デス』
『音声データヲ再生シマスカ』
『20秒間応答ガ無イ場合、自動的ニ再生サレマス』
『音声データ解析処理中……』
『……応答無シ 音声データヲ再生シマス』

「よう。元気にしてるか。俺はすこぶる元気だ。……いや、そうか。覚えてないだろうから一応自己紹介しておかないとな。俺は、ミシャ……お前の父親だ。明日、戦争に行くんだ。戦争に行った者がどうなるか、お前は身を以て知ってると思う。母さんにも、ミシャにも、たくさん迷惑をかけていると思う。本当にごめん。でも、その代わり金には困ってないだろ。だから許してくれ、な。あと、金使うときはちゃんと俺の顔思い浮かべて、ありがとうって心の中で唱えろよ……ははは。冗談だけどよ。まあ今のお前は……今ってこれ録ってるときな、まだあうあう喋ってばっかりだから、顔なんて覚えてるはずないよな。仕方ないけどさ。……ま、それで。小さいお前が大人になったときに、自分の親父がどんな奴か知らないなんて寂しいかなって思ってさ、こうやって未来にむかって喋ってるんだ。なんとなくどんな奴かイメージついたか?本当は動画で残しておきたかったんだが……あまりデータがでかいと社稷に消されちまうかもしれないから、ま、声だけで我慢してくれ。おっと、あまり喋りすぎてもデータでかくなるよな。そろそろおしまいだ。短くてごめんな。
……ミシャ。俺は、今から死にに行く。大人になったミシャを見ることも、抱きしめることもできないまま死ぬのは、本当に……本当に辛い。辛いが……ミシャ。お前は覚えてないだろうが、今泣いている俺の指先を、ミシャがしっかり握ってくれてる。温かくて、不思議と怖さが薄れてくるんだ。ありがとう。そして、ミシャ。戦争なんかで死ぬなよ。お前は、ばあさんになって、にこにこ笑いながら死んでいくんだ……これは命令だ。今から無為に命を散らす俺から、いつか遠い未来に死ぬべきお前への、最初で最後の我儘だ。……それじゃあな。元気でやるんだぞ。陳腐な言葉しか浮かばなくて申し訳ないが……俺は、お前の父親になれたことが本当に嬉しいんだ。ありがとう」


『再生時間2分28秒44 音声データガ正シク再生サレナカッタ可能性ガアリマス』
『受信シタデータハ以上デス』
『サブコンピュータヲシャットダウンシマスカ…20秒間応答ガ無イ場合、自動的にシャットダウンサレマス』
『ナオ、サブコンピュータヲシャットダウンシタ場合モメインコンピュータハ稼働シマス』
『シャットダウン準備中……』
『……応答無シ サブコンピュータノシャットダウンヲ開始シマス』
『サブコンピュータノシャットダウンガ完了シマシタ』

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