薄くてもなくなると寂しいと思うもの


おととい美容室に行った時、担当してくれているお兄さんから「実は…」と切り出された。
美容室で「実は」から始まる会話をするのは初めてだったので少し身構えてしまったが、来月いっぱいでそのお兄さんがお店からいなくなるというご報告だった。

お兄さんは私が美容室に通う際に初めて指名をするようになった人だ。
大学を卒業するまでは系列店の別店舗に通っていて、指名料はどちらも同じ500円だけれど金欠大学生にとってはその500円も大きくて、当時指名をしたことはない。
ただ、多分お店側の善意でなんとなく毎回同じ人が担当についてくれていた。

一応社会人になり、それなりに使えるお金も増えたことと 引っ越した関係で通うお店を変えたこと、変えた先で初めて担当してくれたお兄さんが私の注文をうまい具合に再現してくれたことなどが相まって、その後もこの一年ほど 2ヶ月に1回のペースで担当してもらっていた。

風貌がR-指定に少し似ているので、心の中で勝手にR-指定と呼んでいた。

R-指定は「きっと最後になるので、最後まで頑張らせていただきますね」「僕以外にも上手な人たくさんいるので、ぜひまたここ来てくださいね」と言う。

初めてのタイプの別れだったので私もどの温度感で対応すればいいのか分からず、そんなに悲壮感出してもな、とは思うもののやっぱり少しの寂しさはあるので何とも言えない顔で受け答えしてしまった。
マスクしててよかったなってちょっと思った。

新しいお店を探そうかな、とも思うけれど多分これからもこのお店に通い続けるだろうなと思う。

行く場のなくなった500円を渡してもいいなと思える人にまた2ヶ月後、会えたらいいな。


諸事情で荷物が多かった私を最後見送ってくれる際、R-指定は「お仕事帰りですか?保育園とか、施設とかで働いてらっしゃるんでしたっけ?」と聞いてきた。

本当は映像作ったりする全然違う仕事してるけど、最後の会話がそんな微妙な感じで終わるのも嫌なので「はい〜、そうなんですよ」と返した。

こういう時の嘘は平気でつけるのだ。

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