記憶に残る -ICU体験記を読んで-
「○○さんは、どんな看護師になりたいですか?」
「えっと…まだまだできないことも多いんですけど、患者さんの記憶に残る看護師になれたらなって、思ってます」
4月。初めての新卒さんとの教育面談。
今年からSCU病棟(脳卒中専門の急性期センター)の教育委員のリーダーに任された私は、思いがけない新卒さんの返答に意表をつかれた。
記憶に残る看護師。
素敵だな、と思う反面、
ここではちょっと難しいかな、となぜかふと思ってしまう自分もいた。
私がまだ異動したての頃、お世話になりましたと退院する前にお礼を伝えに来てくれた患者さんがいた。
「嬉しいですね、挨拶に来てくれる患者さん。でも、SCUまで来てくれる方ってあんまり多くないですよね。」
「うーん、仕方ないかもね。SCUにいる時って患者さんたちは意識もまだ朦朧としてたり、オペ後だからSCUにいた時のことを丸ごと覚えてないって人も多いみたいだよ」
「そうなんですねぇ。ちょっと切ないですねなんか」
違う先輩も横で頷いていた。
患者さんは多くの場合、状態が安定してSCUをでると一般病棟へ転床し、長い場合は回復期病棟で数ヶ月過ごしてから自宅や施設へ戻る。
稀に直接退院する人もいるけど、数えるほど。
一番しんどくて辛い時期を過ごすSのことを忘れてしまうのも、不思議ではない。
「急性期看護も、在宅までの継続的な視点を持ちましょう」
そりゃわかっちゃいるけど、やっぱり難しい。アナムネや数日でひろえる情報は限られているし、現に患者さんのその後を、生活を、見る機会は本当にないに等しいのだから。
そしてあまりの回転の速さに、連休を挟んだらもう会えなくなってしまったということもすごく多い。
もちろん、どうせ覚えてもらえないのだからと手を抜いて看護したことは一度たりともない。だけど、記憶に残る看護師になりたいという肌感覚はどっかに落としてきてしまったかもな、と新人さんとの面談ではたと気づいた自分がいた。
「その目標を、ずっと忘れないでね」と返したような気がする。
その頃、師事している札幌市立大学の卯野木先生の研究室が、とても目を引く取り組みをされていることを知った。
「ICUへ入室した患者さんの体験記」
https://scuccn.notion.site/ICU-d3183fa824ce4bb2a5f81ed9bb2f383f
メディア用でも研究用でもなく、
ありのままのリアルな声、だ。
試しに一つ読み始めると、止まらなかった。
音、におい、光、表情、仕草、声、つめたい、あったかい… ICUにいた方達は、こんなにも、全身で記憶している。
申し送りが丸ごと聞こえていてちょっと嫌な気持ちになった、
名札をしっかりと見せてくれた時に安心感を感じた、
文字だらけの同意書がきつかった、
シャワーはこんなにも疲れるのか、
元気な時じゃないとすべてが雑音だった、
言う前に水を持ってきてくれた看護師さんに感謝している
良かれと思ったかかわりも、
受け取り方は無数にある。
何気なくしたことが、
良い方向でも悪い方向でも、ずっと忘れられない出来事になる。
きっと覚えてないだろうなとこちらが思ったことを、
どこかでずっと覚えているひとがいる。
もう二度と入りたくない、思い出したくもない 人もいれば、手厚い看護を受けられて一生忘れない人も。
患者さんたちのナラティブには、明日からの実践に活かせるヒントが散りばめられている。
そして何より、こんなにも鮮明に「記憶していること」がとてつもなく嬉しくて、どきっとして、後悔がよぎって、安心して、ぐるぐるといろんな思いがあふれている。
クリティカルでも、記憶に残る看護はできる。
教えるものとして、そして学び続けるものとして、その自信と安心感をいただきました。
思い出したくない過去を届けてくれた方も、きっとこれだけは伝えたい、と何かの思いがあったはず。
届けてくれた患者さんたちと卯野木先生チームに、心から感謝します。
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