「隷属なき道」を読み終えた

ベーシックインカム(Yang撤退しちゃったなあ)、労働時間の短縮、国境開放を主張する本。

図書館で借りて、勉強の合間に読んだ。いや読む合間に勉強したのか。すげー面白かった。筆者の熱意が伝わってくる。アツいねえ。エビデンスはいちいち検証してない(できない)けれど、「ユートピア」を語ってワクワクさせ、データは現実味を出すだけなんだからそこらへんが傷ついてもあまり影響はなさそう。少なくとも自分の読み方では。

ベーシックインカムは既存の社会福祉制度を置き換えるものだ、という文脈で触れてきたから、どうも何が嬉しいのかよくわかっていなかった。だが本を読み通してもう少し大局的に意図を理解できた気がする。

中学のときはよく「もうそろそろ働かなくてよくなってくるよね」と話した。「時代のどこかで仕事しないと食ってけないのがおかしな話になる」って。ただ、ニュースではそういう話を聞かず、むしろ「AIに職を奪われる」といった話題が多くなった。「働きたくないからAIさんドンドン仕事持っていってくれやw」と言っていた自分も、気づけば「いや〇〇はAIには置き換えられないだろう」と予想を広げる“想定読者”になっていた。そのことをこの本は思い出させてくれた。労働時間の削減を真面目に考えている人が2010年代ではなくずっと前からいることを教えてくれた。やっぱいるじゃん。

各国の格差。豊かさが生まれた国で決まってしまう。だったら国境を開放して移民として迎え入れればいいじゃないか。労働者不足の解消云々の前に、人道的な、ユートピアとしての理想を掲げている。一応データも示されている。歴史的につながった共同体がその利益や損害を優先的に得るのはかまわない(しょうがない)、とした『これからの正義の話をしよう』の意見とは異なっている。

とはいえそれもチャーター機を飛ばすときに自国民だけを乗せて帰ってくるのはOKか、というレベルでの話だし、運(先進国の市民はそこに生まれる運・勤勉な人は、勤勉に取り組める環境を得る運)に生活の質を左右されるのはおかしい、と別の箇所で述べている。運の良い悪いをここ数年しみじみ感じている。良い学校、良い教員、良い家庭などなど…すべて達成するのは至難の技であるし、達成できているように見せかけて実はもがいているケースも多い。

一気に年10万人ペースで移住しに来てもらったら国民も移民がどんな感じなのか肌でわかるんじゃねえのと思ってもいる。日本だったら島だから国境の破りようがないし、10万人といっても総人口に比べればわずかだし。そういった強気の移民政策でもちょうどいいんじゃないのか。かなり適当だけど。

本当に価値ある仕事が何か論じているのも初めて読んだ。そうそう。総務省の光沢ギラギラ矢印グルグルパワポを見るたびに才能と時間が無駄になっていて悲しくなる。ただ実際にどういう仕事に価値があるのか線引きするのは難しそう。技能(情報に基づく予測、人を魅了するコピーライト)とそれを適用する領域(変動相場制のメカニズムに乗っ取るだけの金融、いらないものを買わせる広告業界)を分けて考えるのが必要なんじゃないか。

内容自体はさることながら、こんなふうにいろいろ考えさせてくれたので、怪しいタイトルにひるまず読んでみてよかった。英語版題は「Utopia For Realists」。それでよくね?

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