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若年者の低テストステロンのカットオフ値を再考する

"What Is a Normal Testosterone Level for Young Men? Rethinking the 300 ng/dL Cutoff for Testosterone Deficiency in Men 20-44 Years Old"

Journal of Urology, 2022

今年2本目の論文です。テストステロン欠乏症(いわゆる性腺機能低下症)はテストステロン低値と随伴症状の組み合わせで、米国では400〜1,380万人が罹患しています。
高齢男性では性欲低下や勃起障害の症状が多いのに比べ、若年男性におけるテストステロン欠乏症は気力低下や疲労感のような症状を来します。

現在、米国泌尿器科学会(AUA)でのテストステロン欠乏症の診断は、若年男性においても高齢男性に使用する(いわゆるLOH症候群と同じ)カットオフ値(300ng/dL以下)を使用しています。血清テストステロンは年齢とともに低下しますし、しかも学会や国によってカットオフ値はバラバラです↓

ちなみに低テストステロンのカットオフ値は(AUAガイドラインの定義によると)テストステロン値の第1三分位(つまり33パーセンタイル値)なので、今回年齢別にカットオフ値を計算しました。

対象と方法

データソースはNHANES(CDCが実施する横断的人口データベース)
対象は20〜44歳の男性(n=1,486)で、朝に測定を行いました(テストステロンは日内変動があるため)。除外基準は下図↓

NHANESデータベースから、各年齢を5歳区切りにグループ化(20-24歳、25-29歳、30-34歳、35-39歳、40-44歳)し、各パーセンタイルのテストステロン値を計算しました。
正常値は中間三分位(33〜66パーセンタイル値)とし、低テストステロンのカットオフ値は33パーセンタイル値としました。

結果

解析対象は20〜44歳の男性1,486人。各年齢層の分布は比較的均等で、加重人口の20%は20-24 歳、19%は25-29%、19%は30-34歳、20%は35-39%、22%は40-44%でありました。特徴は↓の通り

各年齢層ごとのパーセンタイル値は↓。この中の33パーセンタイル値が各年齢層ごとの低テストステロンのカットオフ値になります。

↑33rdパーセンタイル値が各年齢層のカットオフ値

グレーのMiddle Tertileが各年齢層ごとの基準値(中間三分位)
年齢とともに下がっている

本研究は、先行研究と異なり、「ホルモン剤使用男性、精巣腫瘍などで精巣摘出をしている男性を除く、合併症に関係なく全ての男性」を対象とし、米国の人口構成から加重サンプリングしたもので、米国の若年男性の標準テストステロン値をより正確に反映しているという強みがあります。

研究の限界

  1. カットオフ値に33パーセンタイル値を用いるという手法は、AUAガイドラインの推奨に基づいているが、その妥当性について検証されていないこと

  2. 各被験者から1回の血清テストステロン値しか測定していないこと(変動を考慮していない)

  3. 性腺機能低下症状に関するデータが含まれていない(NHANESに含まれていない)

  4. 生物活性型(bioavailable)テストステロン または遊離型テストステロンに関する情報がないこと

  5. 年齢層を5歳刻みにしたこと(他の研究では10歳刻み)

結論

若年男性には高齢男性と異なるテストステロン 基準範囲が存在するため、テストステロン 欠乏症状を呈する若年男性には年齢別のカットオフ値を用いた方が良いのでは?とのことでした。

コメント

日本でも、昨年(2022年)に日本内分泌学会の「性腺機能低下症ガイドライン」が改定されました。
以前はLOH症候群の診断には遊離型テストステロンが用いられていましたが、本ガイドラインでは(年齢問わず)性腺機能低下のカットオフ値が250ng/dLに改定されました。正直、かなり厳しい基準だと思いますし、以前の遊離型Tの低下が見られた人の中には新基準に該当せず、テストステロン補充療法の適応外となってしまう人がかなり多くみられます。そのような場合は遊離型Tや症状(AMSスコアなど)と組み合わせて総合的に判断するのが良いと思いますし、日本人でもこの研究のように年齢層別カットオフ値を設けるのがよいのでは?とも思います。


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